【1】

文字数 959文字

 私は死に場所を求めていた。

 妻と娘を亡くしてちょうど一年になる。

 初めて行く旅行先で、山道を車で走らせていたら、迷ってしまい、ガードレールのそばに停車させた。

 車に妻と娘を残して、近くに人がいないか探していたら、ごう音が響いてくる。

 カーブになっていて見えなかったのか、トラックが私の車に追突して、二車とも崖に転落。

 トラックの運転手、妻、娘、三人とも即死だった。

 私があんな所に車を停車させなかったら。

 そもそも、道がわからない田舎の旅館なんて予約しなかったら。

 車の中で、妻と娘と一緒に、しりとりをしていた。

 ふたりの笑顔を一瞬でなくしてしまった。

 現実が信じられず、どうやって家に帰ったのかもおぼえていない。

 葬儀は私と妻の両親がやってくれた。

 親戚を集めず、家族だけで行う。

 そこに、私はいなかった。

 後悔が頭の中をめぐっては消え、悪夢が繰り返されていく。

 鬱状態になった私は、仕事を辞めて家に引きこもった。

 ふたりの元に行こうと自殺を考えたが、ただ死ぬだけでは申し訳ない。

 もっと自分を痛めつけて死ぬ方法を考えていた。

 自宅で寝そべって、窓の外から青い空を見上げる。

 妻は空が好きで、付き合ったときから、空ばかり見上げていた。

 曇り空は嫌いだった。

 青い空に溶け込むことができたのなら、私も妻と子の元にいけるか。

 インターネットで、不動産を検索し、何度も見学に行って、海近くの、高い崖に建てられた家を購入した。

 その家は真っ白に塗装されていた。

 中身は見ていないが、青い空に混じって、ぽつんと建てられている姿が気に入って、即購入した。

 値段は意外と安く、数百万円で買えた。

 この家が、私の死に場所だ。

 自殺するための道具を購入する前に、家の周りを探索してみようと思った。

 不動産屋の社員の話だと、とある家族が暮らしていたが、妻と息子が高波にさらわれてしまい、残った夫は行方不明のようだった。

 それでも購入を検討する人はいたようだが、

『家の中が気味悪い』

 という理由で、誰もが見送っていた。

 私は長く住むわけじゃない。

 家がどうだろうが関係ない。

 妻と娘に会いにいくのだから。

 前の住人の事情も、自分の過去と重なっていて、私は共感を得てしまった。

 私は興奮した気持ちを抑え、家のドアを開けて中に入っていった。
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