第1話
文字数 432文字
「はい、『あなた』。お弁当」
「ありがとう、行ってくるよ」
「気をつけてね」
「あぁ」
『母』は『父』に包みを渡し、『父』は『母』の頬に軽く口付けて『家』を出た。
『僕』はダイニングテーブルからその様子を眺めながら、バターを大量に塗った食パンを齧る。
――今日も問題ない。いつもの『朝』だ。
「ほら、あなたも早く食べて」
「『あなた』って『誰』?」
『僕』が声を掛ければ、『母』がハッとした顔を見せた。動揺して狼狽える姿が腹立つ。
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ、『僕』の『母親』でしょう?」
「あ、あのね、」
「もういいよ、『母さん』」
僕は『母』が持っていた包丁を振りかぶって、恐怖に震えるその身体に振り下ろした。自分も相手も真っ赤に染まって、でも落ち着いている自分がいた。
「あぁ、また新しい『母さん』探さなきゃ。女は難しいんだよなぁ」
何度、自分の理想的な『家族』を作ろうとしても、生身の人間が思い通りにいくことはない。家族ごっこを終わらせてくれる人間を、待ってる。
終
「ありがとう、行ってくるよ」
「気をつけてね」
「あぁ」
『母』は『父』に包みを渡し、『父』は『母』の頬に軽く口付けて『家』を出た。
『僕』はダイニングテーブルからその様子を眺めながら、バターを大量に塗った食パンを齧る。
――今日も問題ない。いつもの『朝』だ。
「ほら、あなたも早く食べて」
「『あなた』って『誰』?」
『僕』が声を掛ければ、『母』がハッとした顔を見せた。動揺して狼狽える姿が腹立つ。
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ、『僕』の『母親』でしょう?」
「あ、あのね、」
「もういいよ、『母さん』」
僕は『母』が持っていた包丁を振りかぶって、恐怖に震えるその身体に振り下ろした。自分も相手も真っ赤に染まって、でも落ち着いている自分がいた。
「あぁ、また新しい『母さん』探さなきゃ。女は難しいんだよなぁ」
何度、自分の理想的な『家族』を作ろうとしても、生身の人間が思い通りにいくことはない。家族ごっこを終わらせてくれる人間を、待ってる。
終