2022年7月 ウイルスがひょっこりうちにやってきた

文字数 2,302文字

ひどい6月だった。何が酷いかといえば気温である。関東地方の梅雨入りは6月6日だと自分の手帳に書いてあるのだが、これはわりと例年並みのことらしい。らしいのだが梅雨のうちからもう明けたのかと思うほど気温の高い日が続いた。6月30日、あまりに暑いので散歩の途中で立ち寄った図書館にしばらく滞在し、帰宅して見た自宅の室内温度計が35度と表示されている。まだ6月なのに初めて見た表示に驚いて、もしや壊れてるのかと思ったが、エアコンをつけたらちゃんと表示が下がっていくので、あらためて驚いてしまった。

とにかく近年、夏の暑さは異常なほどで、いよいよ温暖化の影響がわかりやすく出るようになってきたのだなと思う。それにしても6月で35度というのはどうにも妙な気分になる。なにが不気味かと言えば旧盆前頃の盛夏みたいな気温なのに、蝉の声がまるで聞こえないのである。蝉は暑いからといって早めに出てくるというものでもないようだ。
7月5日の日記に、「セミ、鳴きだす。ようやっと。ようやっと。」と書いてある。聞こえるべきものが聞こえ始めて安心したからそう書いたのだと思う。それほどせっかちにやってきてしまった夏だった。

ここ最近日本の夏は、6月から暑くなり、当然梅雨明け後にもさらに暑くなり、盆をすぎてもしつこく暑く、彼岸すぎてもまだ暑い。暑くて暑くて、という時期が2倍近くに伸びている印象だ。長期戦で暑さと対峙していくことになると、当然夏バテというものがおきてくる。感染波第7波はちょうどこの暑さに合わせるように波形を高く、それも鋭く積み上げていった。暑さで体調を崩しているところでウイルスにやられてしまう人が増えたようだ。

そうして7月22日金曜日、買い物に出たものの、いやに体がだるくて夕飯の準備が面倒になってしまった私は、スーパーまでの道のりをたらたら歩きながら家人にLINEで連絡をとっていた。
「晩ごはん揚げものでもいい?」「なんか疲れた」「夏バテるのか、夏バテたのか」「とりあえずスーパー見にいく」と立て続けに入力するとやおらレスポンスがあり、「え、そっちもか。こっちはさっきからちょっと熱っぽくて、足に倦怠感がある。よもや、コロナ?」ときた。
この時点で私は発熱しておらず、食欲もそれなりにあった。ただただ暑いし怠いし、台所で火の前に立つのがつらいから、お惣菜コーナーで揚げ物でも買って、キャベツを千切りにして添えればどうにかカッコがつく。そういうことにしちゃおうかというコンタンだったんである。それにしても家人の反応は嫌な予感がする。帰りに家人の職場近くにあるパン屋で買い物してきてほしいと今朝出がけに頼んであったが、そういうことならパンはいいから、寄り道せずにまっすぐ帰るようにと促して、コロッケを買って帰宅した。
その夜、家人は自分から進んで抗原検査キットを持ち出してきた。コロナ禍以来会社から定期的に送りつけられるまま、ほとんど使用されることなく保管されていたそれを使うことにしたのだ。食欲はあるものの体温は38度あり、とりあえずこれで検査してみるか、ということになった。

検査キットを開けると小さなボトルに液体が入っており、そこに唾液を採取し混ぜ込んで、一緒に入っているプレートにヌリヌリっとして待つこと数分、陽性なら青いマークが出るという。手順を熟読してそのようにするのだが、3分待っても5分待っても、試薬に反応はなかった。ということは、新型コロナウイルスが原因ではない、ということなのだろうか。家人はどこか「やっぱりね」という顔をしている。会社から送られてきた当初、定期的な体調管理の一環として、毎週金曜日に検査するのがよろしいという触れ込みであった。しかし数度は使用したものの、すっかり触らなくなってしまっていた。理由はキットの箱に書かれた[研究用]の表示である。
これ、正確じゃないんだって。家人にそう言われるまで知らずにいたのだが、抗原検査キットには[医療用]と[研究用]があり、研究用は正確さに欠けるという。

何じゃそりゃ。
まことしやかに検査方法なんぞを書いてあったりして、いかにもというパッケージになっているが、それじゃ詐欺とかわらないじゃないか。自分達は一銭も支払っていないのだから文句を言う立場にないが、一体会社は誰に騙されて、いくら支払ってこれを全社員に支給したというのだろう。
とはいえ箱に入った試薬がまるっきりただの水だとは思えない。まだ検出できるほどのウイルスが唾液の中に存在してないのかもしれないと思った我々は、気を取り直して翌朝もう一度、検査キットを使って調べてみることにした。だがやはり試薬を混ぜた唾液をヌリヌリしていくら待っても、相変わらずプレートには何の表示もされない。やはり試薬だと思っていたこの液体はただの水か、それとも大五郎か黒霧島か何かだということか。

陽性反応がない以上、一応「陰性」ということになるのだが、これがもし陽性だったとしても、どうすればいいのかわからない。病院はとっくに感染爆発に対応しきれなくなっているし、行って何時間も待たされたところでコロナの薬があるわけでもないから、せいぜいが解熱剤を処方されて「家から出ないでくださいね」と念をおされるくらいのものだろう。 肺炎症状や鼻水鼻詰まりがあるわけでもなく、ひたすら熱が出て怠いという症状では、病院に行くのは消耗しに行くだけなんじゃないだろうか。

とりあえず食事を食べ解熱剤を呑み、体力を温存する方がいい。家人はそう判断して、私とは寝床を分けて別の部屋に布団を敷いた。……今更隔離したところで、もうとっくに手遅れなのだが。
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