第1話 涼音

文字数 903文字

 涼音(すずね)は子供の時から、お金の心配ばかりしてきた。

 大人になった涼音は思う。
 なぜ自分はあんなにも、親の顔色ばかり伺っていたのかと。

 涼音の親達は、よくお金のことでいがみ合っていた。
 原因は母親の浪費癖にあったようだが、幼い涼音は父親の野太い声が怖かった。
 父親の怒鳴り声が聞こえると、涼音はすくみ上がり、身動きが出来なくなる。
 母親が責められているリビングを通り抜けてトイレに行くことができず、体を固くしながら、その場で粗相してしまったこともあった。

 母親が買い物を終えてレジ前で財布を取り出す時、涼音は不安げな顔で母親を見上げるのが常だった。

 (……お金を使ったら、またお父さんに怒られるのに……)

 涼音はハラハラしながら、母親が支払う様を見つめた。
 


 涼音が小学校に上がる直前に両親は離婚した。

 勤めていた会社を辞めた父親は、涼音を連れてS県にある人口数千人ほどの小さな町、みずほ町に移り住んだ。

 涼音は父親より母親と暮らしたいと願ったが、口には出来なかった。

 大人たちの決め事に、黙って従った。

 涼音が成人してから聞かされた話では、母親は娘と暮らしたがらず、親権を争うこともなかったそうだ。



 高2になった今も、涼音の一番の悩みはお金のことだった。
 父親は当然のように涼音を大学に進学させようとしていたが、涼音は父親が自分の学費のために借金をしていることを知っていた。

 ――これ以上、父親に迷惑はかけられない。

 大学どころか高校を辞めて働いてもいいとまで考えていたが、涼音は自分の気持を父親に告げることが出来ずにいた。

 
 あの日、武尊(たける)と手をつなぎながら歩いている時も、涼音の頭は先々の不安でいっぱいだった。

 『

で、一輝(かずき)さんのスマホが見つかったんだって』

 一年前に死んだ男のスマートフォンが、町外れの神社で見つかった話を聞かされたのは、武尊からだった。

 『誰が置いたんだと思う? コータがやったんじゃないかって、みんな言ってる』

 自分の悩みに囚われながら、涼音は武尊の話を上の空で聞いていた。

 初めて好きだと言ってくれた男の子と歩いていても、涼音には年頃の少女らしい浮きだった気持ちはなかった。
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登場人物紹介

鷲宮秀一、主人公の高校生

九我正語(くがしょうご)、秀一の従兄弟、警察官

九我正思(くがしょうじ)正語の父親。人の恋愛感情を瞬時に見抜く特殊能力を持つ。

九我光子、正語の母親。秀一の伯母。

雅、介護士。雅は熟女スナックにいた時の源氏名。本名は不明

夏穂、秀一の幼馴染。秀一に片思い。

涼音(すずね)、秀一の幼馴染

武尊(たける)、秀一の幼馴染

賢人、秀一の甥っ子

真理子、みずほ中学の教師

コータ、真理子の弟、秀一の幼馴染

野々花、パンケーキ店の女主人

岩田、秀一のテニスの師匠

鷲宮一輝(故人)秀一の兄

鷲宮輝子(故人)秀一の母親。正語の母親、九我光子の妹

水谷凛、夏穂の従姉妹

鷲宮智和、秀一と一輝の父親

鷲宮高太郎、智和の兄

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