第3話

文字数 2,183文字



 そんなこんなで五階までの各部屋を見て回ったが、特に幽霊が出るとか心霊現象が起こるとかは全くなかった。部屋の中は外壁が無いせいで割と解放感があって、満月の明かりにも照らされているから思っていたよりもそんなに怖くはなかった。
 残すは最上階の六階だけだ。楽勝だったな。幽霊が出るとかの噂は噂であって、実際に来てみればなーんにも起こりはしない。
 心霊番組とかもそうだしな。心霊現象が起きた! とか言ってる番組も有るが、そんなのはただのこじつけやヤラセみたいなもんだしな。
 深夜の肝試し的な廃墟の探検は夏休みの暇つぶしとしては結構面白かったよ。

 埃っぽい階段を登り切って六階の廊下に着いた。更に屋上へと続く階段が有るが、屋上には特に何も無いから行く必要は無い。遠くに街明かりの夜景が見えるかも知れないがな。
 その時、窓枠もドアも無いガランとした薄暗い廊下の突き当たりに何かチラッと動く物が見えた気がした。気のせい気のせい。まだ若干ビビっていた俺の目の錯覚だな。どうせ六階にも何も無いはずだからこのままUターンして帰ろう。

「罰野君、廊下の突き当たりで何か動いたわ」
「うん、動いた動いた。あれは絶対幽霊だっ!」
 女子が二人とも何かが動いたとか言いやがる。
「いや、目の錯覚だって」
「罰野君、行くわよっ」
「幽霊を退治するのだーっ!!」
「目の錯覚だってばーっ、そうじゃなければ野良猫か野良犬か野生のタヌキ、もしくは獰猛(どうもう)なアライグマかも知れないっ! 近付くのは危険だーっ!!」
「何言ってんのよっ、さあ行くわよっ」
「退治だ退治だーっ」
 俺は女子二人に引きずられるようにして廊下の突き当たりまで連れて行かれる。

 突き当たりの部屋は各階とも全部広かった。普通の部屋の四倍くらいの広さがある。部屋の中には四角い太い柱が何本も立っているから、もしかしたら部屋を区切る壁を作る前に放置されたのかも知れないが。
 俺達三人は部屋の入口の前に積んである、中身がカチカチに固まった未開封のセメント袋や廃材の山の陰からそっと中を覗く。

 ああああああああああああああああああああっっっっっ…………。
 ……居た。居てしまった…………。

 半分透けた宇宙人が居る。グレイの幽霊だ。エイリアンの幽霊はグレイの幽霊だった……。

 いや待て、他にも居る。
 頭に三角の布を付けて白装束姿で足の無い正統派(?)の幽霊が数人……数体? 数匹? 幽霊の数え方って何だ? 数人でいいのか?
 そして全身に矢が突き刺さったざんばら髪の刀傷だらけの落ち武者が数人。
 三八式歩兵銃を担いで敬礼をしている旧日本軍の軍服を着た痩せた兵士。
 首から千切れた長いロープが垂れ下がった営業マン風の背広姿の青年。
 胸に包丁が刺さったままのドレスを着たホステス風の肉感的な若い女性。
 額や胸に銃弾の穴が空いた小指の無い893風の白いスーツのいかつい中年。
 コルク半とか呼ばれる半キャップの割れたヘルメットを被った暴走族風の少年。

 みんな透けてる、みんな幽霊だ。うああああああああああああ…………。

 そういえば思い出した! このマンションは墓地を埋め立てて建てられたとか、この辺りは戦国時代の古戦場だったとか処刑場が有ったとかの噂を! 旧日本軍の脱走兵がこの辺りで撃たれて死んだとか、自殺や殺人事件の現場だったとかいう噂も聞いた。
 そんなものは全部ただの噂に過ぎず、都市伝説みたいなもんだと思っていたが、ひょっとすると噂は全部本当の事だったのか?

 こんな時間にこんな場所で大勢の幽霊達が集まって運動会か宴会でも始めるのかと思ったが、どうやらそんな雰囲気では無い。大勢の幽霊達は一人のエイリアンの幽霊と対峙しているように見える。
 893風の幽霊がスーツの胸元に両手を突っ込んで拳銃を二丁掴み出す!
 右手に7.62ミリのトカレフ自動拳銃。たぶん中華のコピー品だ。左手にコルトっぽい短銃身の回転式拳銃。これは東南アジア辺りで造られた粗悪品だな。大きさから見て38口径の五連発だろう。
「オラオラーっ! 宇宙人がナンボのもんじゃーいっ!!」
 そう叫ぶとエイリアンの幽霊に向かって発砲し始める。数発が命中してエイリアンがグラつく。
 あの893、けっこうイイ腕をしているな。生前は鉄砲玉と呼ばれるヒットマンだったのかも知れない。

 今度は三八式歩兵銃を肩付けにした旧日本軍の兵士が少し離れた場所から狙撃を開始する。ボルトアクション式のため、一発一発を手動で装填・排莢しなければならず連射速度は遅いが、一発も外す事無く確実にエイリアンの頭部や腹部に命中させている。
 この兵士は射撃の名手だったのだろう。脱走兵だとの噂が本当ならば、追手はかなりの損害を(こうむ)ったのかもしれない。
 それを見た893が負けじと発砲を続ける。ちょっと待て、トカレフの弾倉は八発だったはずだ。薬室に一発装填されていたとしても九発しか撃てないはずだ。それなのに弾倉交換も無しに既に十発以上撃ってるぞ。回転式拳銃もそうだ。五発のはずがそれ以上撃っている。どうなってんだ? 幽霊の銃は無限弾倉なのか?
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