第6話 止めたかったのよ

文字数 859文字

セミになっていたオレだったが、その寿命を全うし、天へ召された。


天に着いたとたんに、セミになる前の記憶が蘇ってきた。


…ハッ。


…母さんは、まだ神様をやってるんだろうか?


『次は何に生まれ変わりたいですか?』


…この声は…


『母さん?』


オレが言うと、目の前がパーッと明るくなった。


「あっ!マサオー!ごめんごめん、間違ってセミにしちゃってー!」


「そうだよ、なんでセミなんだよ、勘弁してくれよ」


「ごめんごめん、人間とセミの作り方ってすんごく似てるのよぉ~!」


「そっか、なんかやけにセミ多いと思ったよ。母さん、まだ神様やってたんだ?」


「そうなのよー、もうそろそろ飽きちゃってやめたいんだけど、なかなか代わりがいなくてさ…」


「そうなんだ、大変だな。」


「だからさ、もう職権乱用してクビにしてくれないかなと思って、止めてみたのよぉ!」


「何を?」


「風!ほら、母さん花粉症ひどかったじゃない?あの時さ、「風止まれーー!」って何度も念じてたのよ~。でも止まるわけないじゃない?で・も!今なら止められるって気づいたわけ!」


「もしかして、1週間前くらいじゃない?」


「ピンポ~ン!気づいた?」


「気づいたも何も、セミのオレでさえ暑すぎて具合悪くなったよ。それで死んだようなもんだよ。猛暑だったんたぜ?日本は」


「え~!そうだったの~!そりゃあ悪いことしちゃったわね~~ごめんごめん!」


「ごめんごめんじゃないよ、神様ならしっかりしてくれよ。で、次こそ人間にしてくれよ。」


「オッケー!あれ、言うわ。いくよー!

『良かろう。そなたの願い、叶えよう。』

あはは!」


「次こそはたのむよ」


「マサオ、あんたにまた会えるまで、母さんがんばるよ」


「うん、がんばれよ、またそのうち死ぬからさ」


母さんも、オレも涙ぐんだ。

しばしの別れだ。


あ!


「母さん!オレ、また忘れてた!」


「あれでしょ!母さんも今思い出したよ!あんたの本当のおかあさ」




ピカーーーーー





また聞き逃した。

なんでこんな大切なこと毎回忘れるんだろ…。


まあ、いいか。





暗。


あ、これ知ってる。

またセミだな。



作成日:2021年10月9日
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