第23話 第三章 『シャルウィダンス』⑨ 松明
文字数 1,388文字
まどろみの中・・ふと、浮かんできた・・学生の頃、数学が苦手で毎年、赤点追試組・・教科書を開くだけで眠くなる。
それを逆手にとって不眠症気味の夜、数学の教科書を開いてみた。読む暇もなく・・眠くなる・・ね~む・・。
・・宇宙の全ては数学で解ける・・でも、解く暇もなく・・宇宙の波動と同化して、眠くなる・・いともたやすく宙の波動と同化して・・。
でも、いつも教科書を閉じたとたん・・パタン・・!
・・眠気は覚めてしまう・・眠気は覚めてしまう・・。
(・・パタン!!)
晃子の頭の中で、突然、その閉じる音が響いた。
・・目覚まし時計のように。
・・途端!・・張られた結界がパタンと閉じられ、呪文のような子守歌が止んだ。
・・と、まるで齧り掛けのリンゴをポイと捨てるように、スノーボーダーは腕を放した。
そして何事もなかったようにボードに片足を掛けると、再び夜の雪原の白い波に乗って滑り出す・・最早、規則正しいS字を描くこともなく。
しばらく立ち尽くしてその行方を追っていた晃子は、ハッとしてその跡を追うように滑り出した・・やがてその前方に、操る者のいないボードだけが斜面の上を流れるように滑っているのが見えた。
その時、突然、ゲレンデの一角に次々と赤い炎が灯り、その群れが湧き出るようにして、驚く晃子の方に押し寄せてくる。
大勢のスキーヤー達が手に手に燃える松明を掲げている。
大晦日の一番のイヴェント、新年へのカウントダウンに合わせて、この辺りから照明の消されたナイターゲレンデまで下っていくのだ。
晃子は瞬く間に、その松明の海の中に紛れ込んでしまった。
「・・晃子さん!」
誰かに呼ばれた。
エッと思って見回すと、アルバイト仲間の田口君の嬉しそうな顔があった。
例年ならスキー場の従業員にのみ限られるこの松明パレードは評判がよく、そのため今年はより大々的に行おうということで、周辺の各施設へも参加希望者を募っていた。
田口君の隣には、怪我をしているはずの克也君も地元の仲間達と一緒にいる。皆、冗談を言い合っては、その楽しそうな笑顔を晃子の方に向けた。
思わずつられて晃子も笑う。
・・そうなんだ・・スキー仲間ってそうなんだ・・。
が、その笑いに紛れてどこか抑えていた感情が溢れ出し、思わず目の端に涙が滲んだ・・。
「十・・九・・八・・」
新年へのカウントダウンが始まった。
急にひどく冷え込んできた真冬の夜、ゲレンデ下の広場に集まった人々もそれぞれに声を揃える。
「・・三・・二・・一・・ゼロ!!・・新年・・!!おめでとう・・!!」
それと同時に、轟く音と共に新しい年を祝う巨大な仕掛け花火が打ち上げられた。金と銀と緑と朱の豪華な扇型を模した花火で、ゲレンデ中に大歓声が上がった。
それは一瞬、晃子の目には・・大きなすり鉢状の何か・・または宙に向かって飛翔する双翼にも見えた・・。
それを合図に、松明を掲げた炎の大群が次々と余裕の滑りで一斉に下ってゆく。
その様は下から見ると、まるで大地の中から噴き出た朱いマグマが・・白い雪を溶かして崩れ込んでくるようだ。
晃子もまたそんな炎の洪水の中・・まるで闇を照らすその暖かい光に守護されるように、ひとりストックを突きながら滑り下りてゆく。
でも・・あの無人のスノーボードは何処に紛れてしまったのだろう。
それを逆手にとって不眠症気味の夜、数学の教科書を開いてみた。読む暇もなく・・眠くなる・・ね~む・・。
・・宇宙の全ては数学で解ける・・でも、解く暇もなく・・宇宙の波動と同化して、眠くなる・・いともたやすく宙の波動と同化して・・。
でも、いつも教科書を閉じたとたん・・パタン・・!
・・眠気は覚めてしまう・・眠気は覚めてしまう・・。
(・・パタン!!)
晃子の頭の中で、突然、その閉じる音が響いた。
・・目覚まし時計のように。
・・途端!・・張られた結界がパタンと閉じられ、呪文のような子守歌が止んだ。
・・と、まるで齧り掛けのリンゴをポイと捨てるように、スノーボーダーは腕を放した。
そして何事もなかったようにボードに片足を掛けると、再び夜の雪原の白い波に乗って滑り出す・・最早、規則正しいS字を描くこともなく。
しばらく立ち尽くしてその行方を追っていた晃子は、ハッとしてその跡を追うように滑り出した・・やがてその前方に、操る者のいないボードだけが斜面の上を流れるように滑っているのが見えた。
その時、突然、ゲレンデの一角に次々と赤い炎が灯り、その群れが湧き出るようにして、驚く晃子の方に押し寄せてくる。
大勢のスキーヤー達が手に手に燃える松明を掲げている。
大晦日の一番のイヴェント、新年へのカウントダウンに合わせて、この辺りから照明の消されたナイターゲレンデまで下っていくのだ。
晃子は瞬く間に、その松明の海の中に紛れ込んでしまった。
「・・晃子さん!」
誰かに呼ばれた。
エッと思って見回すと、アルバイト仲間の田口君の嬉しそうな顔があった。
例年ならスキー場の従業員にのみ限られるこの松明パレードは評判がよく、そのため今年はより大々的に行おうということで、周辺の各施設へも参加希望者を募っていた。
田口君の隣には、怪我をしているはずの克也君も地元の仲間達と一緒にいる。皆、冗談を言い合っては、その楽しそうな笑顔を晃子の方に向けた。
思わずつられて晃子も笑う。
・・そうなんだ・・スキー仲間ってそうなんだ・・。
が、その笑いに紛れてどこか抑えていた感情が溢れ出し、思わず目の端に涙が滲んだ・・。
「十・・九・・八・・」
新年へのカウントダウンが始まった。
急にひどく冷え込んできた真冬の夜、ゲレンデ下の広場に集まった人々もそれぞれに声を揃える。
「・・三・・二・・一・・ゼロ!!・・新年・・!!おめでとう・・!!」
それと同時に、轟く音と共に新しい年を祝う巨大な仕掛け花火が打ち上げられた。金と銀と緑と朱の豪華な扇型を模した花火で、ゲレンデ中に大歓声が上がった。
それは一瞬、晃子の目には・・大きなすり鉢状の何か・・または宙に向かって飛翔する双翼にも見えた・・。
それを合図に、松明を掲げた炎の大群が次々と余裕の滑りで一斉に下ってゆく。
その様は下から見ると、まるで大地の中から噴き出た朱いマグマが・・白い雪を溶かして崩れ込んでくるようだ。
晃子もまたそんな炎の洪水の中・・まるで闇を照らすその暖かい光に守護されるように、ひとりストックを突きながら滑り下りてゆく。
でも・・あの無人のスノーボードは何処に紛れてしまったのだろう。