16・アンネリーゼ・ミシェルの記録

文字数 4,396文字

数々に記録されているエクソシズムですが、その中でも特に綿密な記録が残っているのが
アンネリーゼ・ミシェルという、1975年当時ドイツ在住だった23歳の女性の事例です。

彼女に対して行われたエクソシズムは音声がテープレコーダーに録音され、
今日では動画サイト上などでその様子を確認する事ができます。


・アンネリーゼ・ミシェルに起こった憑依

アンネリーゼ・ミシェルは信心深く、朗らかで優しい性格の女性でした。
しかし16歳の頃に癲癇と診断され、その後肺炎と結核を発症しサナトリウムで6ヶ月治療を受けます。
その治療が終わり、高校へ復学する頃に彼女は話すことが困難になり始めました。
彼女は歩く事も困難になり、使ったテーブルやワードローブを元の状態に戻す事も
難しくなり、足を引きずるようにしてそれらをこなすようになりました。

さらに高校を卒業する頃、彼女は壁を叩くような音が聞こえ、
地獄からの声を聞いたと両親に訴えます。
(精神疾患の症状で投薬治療していたともありますが、はっきりしませんでした。
色々情報が錯綜しているようです)

彼女が大学に進学してから間もなく症状は悪化し始め、
十字架などに対する嫌悪が現れ始め、幻聴、抑うつ症状が始まりそのため
自宅に戻って療養する事を余儀なくされました。

自宅に戻り、しばらくしてある日の夕食の時、彼女の母親は彼女の右手が
異様に大きくなっている事に気がつきました。
彼女はその時、「私は黒い手をしています。主よ、お許し下さい」と
言ったと伝えられています。

さらにある日、壁のところに悪魔たちの顔が見えると彼女は言い、
彼らは7つの冠と7つの角があるとその様子を周囲に伝えています。

同時に、十字架や聖地に対する抵抗感や嫌悪など
典型的な悪魔憑きの症状がはっきり現れ、ある時サン・ダミアノという聖地に巡礼に行った際には
彼女は聖地に入る事ができず、声が男性のもののようになり、性格も急に変わったように尊大になり
彼女の父親は彼女をなだめ、強く押さえつけなければなりませんでした。

それから彼女に本格的な干渉が現れ始め、彼女は見えない力で
何度も床にあお向けに投げつけられるようになりました。

家族は彼女のために床に布や枕を敷きましたが、
丁度その隙間を縫うようにしてアンネリーゼは床に頭を打ち付けられたと伝えられています。
そのために彼女は床で寝なくてはいけなくなりました。

家族や彼女の友人はアンネリーゼに悪魔が憑依したと確信し、
教会へ悪魔祓いの依頼をする事を決心します。


・悪魔祓いへ

悪魔祓いを依頼された司祭のアルト神父は、初めは悪魔憑きそのものを信じていなく、
アンネリーゼにできるだけ医療機関に通うよう薦め、考えられる限りの医師に診させたと
証言しています。

しかし彼女の症状は癲癇に似ているが違う不明なものと診断され、
医師のいく人かは彼女に悪魔が憑いている事を認め、投薬等で治す事は不可能とも言いました。

そしてある日、半信半疑だったアルト神父はのちに共に悪魔祓いを執り行う事になる
司祭レント神父と共に、彼女に試験的なエクソシズムを実施します。

試験的なエクソシズムとは、症状が通常の病気によるものかそうでないのかを判別するために
声には出さず、十字を切る等の目に見えるような動作もなしにただ心の中で
「彼女から離れよ、名を名乗れ」と念じます。症状が通常の病気によるものなら、何の反応もないはずです。

しかし直ちにアンネリーゼは反応し、彼女は起き上がり
ロザリオを引きちぎり叫び始めました。

この事からアルト神父は彼女に悪魔が取り付いている事を確信し、
レント神父と共にアンネリーゼに対し悪魔祓いを行う事を決定します。

1975年9月、彼女にエクソシズムが実施されました。
エクソシズムを行う過程で、彼女に取り憑いている悪魔に名を名乗り正体を現すよう命令が下され、
彼女に取りついていた悪魔は堕天使ルシファー、旧約聖書にある弟を殺したカイン、
イエスキリストを裏切ったユダ、キリスト教徒を迫害した皇帝ネロ、堕落した司祭フライシュマン、
ナチス総統のアドルフ・ヒトラーと判明しました。

彼女に悪魔祓いを実施する中で、様々な超常現象が起こったと伝えられています。
ある時彼女は聖水の入った缶をアルト神父に投げつけましたが、
それはしばらく空中で留まり床に落ちました。
さらにある時、彼女は水の入ったコップを蹴り飛ばしましたが
水が全くこぼれなかったと言われています。

エクソシズムが行われている期間中にも
悪魔は彼女を支配し、彼女を壁に叩きつけ、石をかじらせるなど異常な行動をさせ、
美しかった彼女の顔は傷とアザだらけになり悲惨な状態となりました。


・多くの霊魂を救うために

アンネリーゼにエクソシズムが開始されてから3ヶ月後の1975年12月、
とある転機が訪れました。

彼女を気遣うボーイフレンドのペーターが、
彼女を一週間のドライブ旅行に誘いました。

彼女の状態は悪く、支えがないと歩けない状態でした。
そしてある公園を歩いている時、彼女の前に聖母マリアが出現したと伝わっています。

彼女の前に出現した聖母マリアは、彼女に対し
おびただしい霊魂が地獄に落ちていると言い、それを救うために
犠牲が必要であると伝えます。

そしてそれらを救うために、
自ら犠牲を捧げる覚悟はありますかと彼女に問いました。

つまり、多くの霊魂を救うためにあえて悪霊を取り付かせたままで苦しみ、
自ら犠牲になる決断をする覚悟はありますかと聞きました。

どうやら、他人のために苦しみ自ら犠牲になる、
そういった行為は非常に大きな霊的な徳となるようなんです。
聖書にある、イエスキリストの受難を体現するといった意味で…

彼女には、決断するために3日間の猶予が与えられました。
そして不思議な事に、それまでは支えがなければ歩けなかったほど状態の悪かった彼女が、
聖母マリアの出現と同時に以前と変わらないように歩けるようになりました。

依然悪魔は取り憑いていたようですが、普段の健康状態は一時回復し、
学校の期末試験も受けられるようになったと伝えられています。

しかし決断するまでの猶予の3日間、彼女は悩んだようです。
何度も十字架の前で祈りを捧げ、そして家族の方々は思い止まるように彼女に言いました。

けれども、最終的に
彼女は聖母マリアの要請通りに悪魔との戦いに命を捧げる事に決めます。

そして聖母マリアの出現に初めは半信半疑だった周囲の人たちでしたが、
12月31日に彼女に対して行われたエクソシズムで
それが本当の事だったと信じさせるような出来事が起こりました。

この日に行われたエクソシズムでは、普段は盛んにうなり声を上げ
彼女の体を使って激しく周囲を威嚇をするはずの悪魔達が奇妙に静がでした。

聖母は、アンネリーゼに「私が来て、彼らを追い払うでしょう」と
事前に予告をしていたそうです。

やがて祈りが始まると、彼女に取り付いた悪魔達はにわかに
「彼女が来ている!彼女が来ている!」と大声を上げ始めました。

そして、予告されている通りの事が起こりました。
今までエクソシズムを行っても中々離れなかった悪魔達は
彼女の体から離れるように命じられると激しく抵抗しながらも彼女から離れていきました。

悪魔が離れるとしゃがれた男性の声のようだったアンネリーゼの声は元に戻り、
彼女は神に感謝の言葉を呟きました。

周囲には安堵の空気が広がり、
アンネリーゼは完全に自由になった事を喜びました。

しかし、10分ほどたった後に
彼女の中から悪魔が再びうなり声をあげました。

悪魔達は、彼女から離れたいがそれができないと語りました。
悪魔を乗り移らせたまま犠牲になると彼女が以前決断した通りに、
悪魔達は彼女の自らの意思で引き止められているようでした。

事実、それからもエクソシズムは続けられたのですが
しばらくの小康状態のあと次第に彼女の容態は悪化し、最後には食事も摂らなくなり、
亡くなる数週間前に7月に何かが変わると言い残し
その言葉通りにエクソシズムの開始から約1年後の1976年7月1日に
彼女はこの世を去りました。

現在でも、彼女が勇敢にも悪魔との戦いに身を捧げ、多くの霊魂を救ったと考える人達が
数多く彼女のお墓に訪れると伝わっています。


・事件の、その後…

しかし、
この事件はその後様々な波紋を呼びました。

アンネリーゼの症状は精神的なもので、必要なのは病院での治療だったのであり
彼女が死亡したのは治療を行わず悪魔祓いに頼ったせいであるとして
事件から2年後、エクソシズムを担当したアルト神父とレント神父、そしてアンネリーゼの両親は
裁判にかけられる事になりました。

アルト神父らはエクソシズムは医療機関と連携を取りながら行っていた事、
彼女が死ぬ状態には見えなかった事、
アンネリーゼは間違いなく憑依されていた事を強調し、
証拠としてエクソシズム中にその様子を録音したテープを提出しました。

しかしアルト神父、レント神父には過失致死罪で6ヶ月の拘留(後に保留)、
3年の執行猶予が言い渡されました。

また、この件は宗教的な因習による死亡事故として報道がなされ
事件のあったドイツではエクソシズムを行うのに慎重になり、
なかなか許可が下りなくなったと言われています。

霊的な現象は、現在の科学や法律では存在しない事になっています。
霊魂の存在を、絶対に認めない人々もいます。
ですので起こった事を正しく判断し、正確な検討をするのは現状では難しい事と思います。

霊的な出来事に科学的な光が当たるか、それか少なくとも
論理的な検討がなされるようになればいいと思うのですが、現状ではなかなか難しいようです…。


・事件についての補足

彼女になぜ悪魔が取り憑く事になったのか。一説には、彼女が産まれる前、
アンネリーゼの母親が住んでいた家の隣に住む嫉妬深い隣人が、何かの魔術によって
アンネリーゼの母親を呪ったからとも言われています。

事実を確かめようとしたそうですが、
その隣人はすでに亡くなっていたと伝わっています。

そして、アンネリーゼ・ミシェルのエクソシズムにおいて、彼女に取り憑いた悪魔は
彼女の口を借りて地獄の事、霊魂の事などについて様々な事を語ったとされています。

悪魔の返答、という本に、
彼女に取り憑いた悪魔が語ったという色々と恐ろしい内容が載っています。
興味がありましたら、ぜひ一度目を通してみる事をお勧めします。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み