風の通り道

文字数 1,375文字




風の流れは目に見えないけれど

心の目を開けばいつでも

その通り道が見えてくる

例えば

草原の艶やかな草の靡(なび)きの中に

風の通り道が見えることがある

あわあわと霞むほど満開になった桜の花の

散り渡る花吹雪の中に

風の通り道が見えることがある

鬱蒼と生い茂る木々の群れが立てる

万雷の拍手のような葉のざわめきに

風の通り道が見えることがある

穏やかな海面を滑って行くヨットの帆の

豊かな孕みの中に

風の通り道が見えることがある

他に遮る物のない

なだらかな砂丘に刻まれた

美しく繊細な風紋の紋様に

風の通り道が見えることがある

思わず目眩を誘われるほど

澄み切った青空の中に吸い込まれていく

赤い風船の軽やかさに

風の通り道が見えることがある

地上に淡い影を落とすほど

巨大な雲の大陸が

ゆったりと流れていく様に

風の通り道が見えることがある

陽射しを浴びて白銀色に煌めく川面を

飛び立った川蝉の翼のしなやかさに

風の通り道が見えることがある

風の通り道は

ささやかな希望を授けてくれる道

けれども生きていれば時として

希望を見失うこともある

目にすること耳にすること肌に触れること

その全てが暗く重々しく

のし掛かってくることがあるからだ

しかしそれはプレイしているゲームの

難易度が上がったようなもの

そんな状況下で見えにくくなっている

希望の光をあなた自らが

どれだけ見出せるかのゲームなのだ

常に明るく優しく心地好い世界の中でなら

希望を見出すのはごく容易いこと

寧ろ希望を見出す必要さえないだろう

それは平穏な日常の中に

淡く溶け込んで存在すら

感じ取れないものになっているのだから

けれどもそういう時人は慢心しやすく

感覚が鈍り

生きている実感は掴めないものだ

希望が一筋の光として輝き渡るのは寧ろ

危機的状況に陥っている時だろう

生命が脅かされる時人は皮肉にも

生きている実感を掴みやすいものだ

それは大切な生命を護ろうとして

毎瞬間ごとに感覚が鋭敏になるから

その冴え渡った感覚が

危機的状況の中にある

ささやかな希望の光を

見逃すまいとして

丁寧に掬い取るようになる

希望の光は闇の中にあってこそ

貴重な存在となり未来を照らすものになる

それは安穏とした生活の中では閉じていた

心の目を開いて

風の通り道の中に

希望の光を探すようなもの

緊迫感の走る危機的状況の中でこそ

あなたの野性が目覚め

生命力が研ぎ澄まされていく

今こそあなたは

剥き出しの荒々しい生命力を感じられる時

それはあなたの中に潜んでいる

風の通り道そのもの

そう あなたの剥き出しの生命力こそが

ささやかな希望の光となるのだ

そこに想い至った時

世界は祝福に満ちていた場所だったことを

想い出すに違いない

そう 世界からの祝福は

常にあなたと共にある



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