32. 不可解なオーロラ

文字数 1,966文字

「お主、何やっとる。()よ準備せんかい」

 レヴィアは巨大な真紅の瞳をギロリと光らせ、英斗に小声で伝える。

「えっ!? じゅ、準備って?」

 あわてる英斗に、レヴィアはあごをシャクって紗雪を指した。

「ぼ、僕から行くんですか?」

「昨日は自分から行っとったじゃろ?」

 ニヤッと笑うレヴィア。

「み、見てたんですか!?」

 英斗は真っ赤になって目をギュッとつぶり、顔をそむけた。

「重篤なけが人を観察するのは基本じゃからな。じゃが、健全で安心したぞ。ガハハハ」

 英斗はチラッと紗雪の方を見る。

 紗雪は大きな岩の上に立って黄龍隊の戦いっぷりを真剣に見つめていた。

 ふぅと大きく息をつくと英斗は覚悟を決め、紗雪のところまで行って、

「紗雪、ちょっと……」

 と、声をかけて手招きした。

「何?」

 キョトンとする紗雪。

「そろそろ準備を……」

 そう言いながら赤くなってうつむく英斗。

「準備……? あっ!」

 そう言って真っ赤になる紗雪。

「あっちに行こう」

 英斗は紗雪の手を取ると林の中へといざなった。


      ◇


 カサカサと落ち葉を踏み分けながら紗雪は沈んだ声で言った。

「ねぇ……、私たち勝てるかしら?」

 確かにあんな巨大で壮麗なシールドを展開する魔王にたった四人で突っ込んでいく、それも完全なアウェイで。勝率は限りなく小さく見える。不安になるのは仕方ないだろう。

「もちろん勝てるよ!」

 英斗はニコッと笑って返したが、言っていて自分でも無責任に感じてしまう。

「ありがと……、でも本当は……どう考えてるの?」

 紗雪は上目づかいで聞いてくる。

 英斗は足を止め、大きく息をついてうんうんとうなずくと、紗雪をじっと見つめて答える。

「正直勝てるかどうかは時の運だね。でも勝つと信じてる人だけが勝てるって思うんだ」

 紗雪は目をつぶり、しばらく考えこむ。

 高いとは言えない成功確率。でも、それはゼロじゃない。であればそれをどうたぐり寄せるかだけがポイントなのだ。

 そもそも一度は死んだ命である。惜しんでいるような話でもない。成功を信じて全力を尽くすこと、それが今やるべきことだろう。

 紗雪はギュッとこぶしを握り、カッと目を見開いた。その瞳には決意が浮かんでいる。

「ありがと!」

 英斗に笑いかける紗雪。

 そして、すっと歩み寄り、唇を近づけてくる。

 英斗も自然にそれを受け入れた。

 決戦前の熱いキス。二人は舌を絡ませ、またお互いの舌を吸った。もしかしたら最後のキスになってしまうかもしれないという想いが二人を熱く求めあわせていく。

 やがてズン、ズンという激しい爆発音が響き始める。エクソダスからの粒子砲の攻撃が始まったらしい。

 英斗は紗雪からそっと離れる。

 紗雪は眉をひそめ、うるんだ瞳で『もっと』と、訴える。

 もちろん、いつまでも求めあっていたいのは英斗も同じだったが、さすがに戻らねばならないだろう。

 英斗は唇にチュッと軽くキスをするとニコッと笑いかけ、紗雪は口をとがらせて伏し目がちにうなずいた。


      ◇


 レヴィアのところへ戻ると、シールドのドームに次々と爆発が起こり、爆炎が上がっている様子がよく見えた。

 粒子砲はドームの一点を次々と狙い撃ちし、シールドは徐々にダメージが蓄積していっているように見える。

 さらに怒涛のような連射が加わり、やがて、シールドを突き抜け、火山で爆発が起こる。

「よっしゃぁ!」

 レヴィアはガッツポーズしながら重低音で吠えた。

「おぉ! シールド破れるんですね」

 英斗は晴れやかな顔で声をかける。

 すると、ドームの頂上から打ち上げ花火のように虹色に輝く光の玉が射出され、宇宙へ向かって一直線へと飛び上がっていった。

 光の玉はオーロラのような不思議な光の幕を周りに形作りながら上昇し、辺り一面を幻想的な光のアートへと変えていく。

 何だろう? と思った瞬間だった。

 目の前に広がったのはたくさんの落ち葉、そしてうっそうとした森の木々……。

 へ?

 直後、全身に激痛が走り、のたうち回る。

 英斗はなぜか全身傷だらけで森の中で寝っ転がっていたのだ。

 着ていた服はズタズタで、英斗は額から垂れてくる鮮血に視界が赤く染まり、言葉を失った。

『一体何をされた?』

 英斗は激しく早鐘を打つ鼓動を聞きながら、冷汗をタラリと流す。

 オーロラを眺めたら血だらけになって転がっていた。吹き飛ばされて転がされたということだろうが、攻撃を受けた記憶もない。攻撃のショックで記憶を失ったのなら、オーロラの記憶もあやふやになっているはずだがそこは鮮明である。まるで時間を止められている間に攻撃を受けたような不気味で異質な攻撃だった。

 どんな攻撃か分からなければまたくらってしまうかもしれない。英斗は極めて面倒な事態になってしまったことにウンザリしながら額から垂れてくる血を手で拭った。

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