第19話 結界の外の森といにしえの魔女
文字数 1,658文字
いにしえの魔女の結界の外に出ると、むせ返るような血の臭いがした。
瘴気が濃くなっているのか、視界をさえぎっている。
瘴気は私の周りには、入って来ない。
体の周りに結界を張っても、臭いをさえぎれていない。
目的の場所に着く。冒険者や子ども達が薬草を採りに来ていた場所だ。
薬草は血塗られていた。
そもそも、魔力と瘴気が強すぎて枯れてしまっているが……。
「ここに居ると思ったのにな」
視界が悪い。この森はこんなに薄暗かっただろうか?
なんて、分かってはいるのだけどね。
運が悪かったのだと思う。
たまたま、いにしえの魔女が居着いた場所が、隣接する国だった事。
そのせいで、瘴気がその狭間に閉じ込められてしまった。
そして、どこぞのバカが結界を内側から刺激した結果がこれなのだから。
珍しいのだ。
いにしえの魔女自体、数が少ない。
たまたま、なのだ。たまたま殺されず食べられることも無く、魔人との間にできた子が、後に言う『いにしえの魔女』なのだから。
そして、生き残った女児は人間からも迫害され逃げまどう。
私の母とこの国のいにしえの魔女は偶然、隣同士の国に逃げ込んでしまったのだ。
当時、この世界は瘴気に覆われていたという。
いにしえの魔女たちは国に結界を張る事を条件に保護を求めた。
今現在結界が残っているのは、この国と私を追放した国を含めても6か国。
いずれも小国だ。
保護を受け入れた国も、純粋な厚意では無い。
いにしえの魔女の結界は、時に敵意や殺意を持った人間をも弾いた。
今の結界に、その力は残っていないと思うけど、人間の思い込みは凄まじいのだろう、結界が張られた国のほとんどは大国に攻められていない。
人間の微かな気配を感じて、私は歩き出した。
こんな事なら、もっとあの子たちと関わって、気配を覚えておくべきだった? いや、無理だわ。
やんちゃ盛りの男の子の相手をするなんて不可能だ。
しばらく歩くと、前方から数人の男たちが、走って来るのが見えた。
恰好から見たら、騎士団所属だろう。
あの人たちが、子ども達を保護してくれていたら私はこのまま、転移して部屋に戻ろうと思っていたのだが。
「はは。運が良かった。あいつらが囮になってくれなかったら、俺達も」
「ああ。あいつはバカだ、平民のガキなんて放って逃げればいいものを」
ゼイゼイ言っている割には、しっかり話せている。
なんだろう? 事情を訊かずとも勝手に話してくれるというあの伝説の現象?
それにしても、今こいつら聞き捨てならぬことを言った。
囮? 平民のガキを囮にしたって?
ざわざわとした気持ちが込み上げる。
幼い頃、殺されかけた時も、婚約破棄をされた時も……こんな感情の揺れを感じた事は無かった。
「どういう……事?」
声がかすれているのが分かる。冷たい……自分の声じゃ無いみたい。
不意に声を掛けられ、騎士たちはビクッと反応した。
そして魔物じゃ無いのが分かると、ホッとしたのか少しバカにしたような笑みになった。
「ねぇ。囮にしたってどういう事? 騎士団だよね、あなたたち」
「ああ、そうさ。貴族のな。平民ごときの為に何で戦わないとならん」
「そうだな。死にたくないのはみんな同じだろう? しかもあいつら、命令違反だ」
男たちの言い分は正しい。
この森は、討伐に向かっている騎士団や国から依頼を受けた上位冒険者以外は立ち入りを禁じられている。
そして連日、騎士団からも死傷者が出ているのだ。
禁を犯し入っていた者の面倒まで見たくない。
気持ちは分かる。私も同意見だ。
なのにムカつく。こんな気持ちは初めてだ。
「そう……。では、あなた方がそうやって見捨てた命の分、長生きをすれば良い」
周囲がざわっと揺れた。
男たちの体を魔力が包む。
例えどんな姿になっても、その間死ぬことだけは許さない。
男たちは呆然としていた。私の事など、もう忘れているだろう。
私は、術を掛けた瞬間、地面を蹴って走り出していた。
間に合って欲しい。
私が考えていたのは、その事だけ。
瘴気が濃くなっているのか、視界をさえぎっている。
瘴気は私の周りには、入って来ない。
体の周りに結界を張っても、臭いをさえぎれていない。
目的の場所に着く。冒険者や子ども達が薬草を採りに来ていた場所だ。
薬草は血塗られていた。
そもそも、魔力と瘴気が強すぎて枯れてしまっているが……。
「ここに居ると思ったのにな」
視界が悪い。この森はこんなに薄暗かっただろうか?
なんて、分かってはいるのだけどね。
運が悪かったのだと思う。
たまたま、いにしえの魔女が居着いた場所が、隣接する国だった事。
そのせいで、瘴気がその狭間に閉じ込められてしまった。
そして、どこぞのバカが結界を内側から刺激した結果がこれなのだから。
珍しいのだ。
いにしえの魔女自体、数が少ない。
たまたま、なのだ。たまたま殺されず食べられることも無く、魔人との間にできた子が、後に言う『いにしえの魔女』なのだから。
そして、生き残った女児は人間からも迫害され逃げまどう。
私の母とこの国のいにしえの魔女は偶然、隣同士の国に逃げ込んでしまったのだ。
当時、この世界は瘴気に覆われていたという。
いにしえの魔女たちは国に結界を張る事を条件に保護を求めた。
今現在結界が残っているのは、この国と私を追放した国を含めても6か国。
いずれも小国だ。
保護を受け入れた国も、純粋な厚意では無い。
いにしえの魔女の結界は、時に敵意や殺意を持った人間をも弾いた。
今の結界に、その力は残っていないと思うけど、人間の思い込みは凄まじいのだろう、結界が張られた国のほとんどは大国に攻められていない。
人間の微かな気配を感じて、私は歩き出した。
こんな事なら、もっとあの子たちと関わって、気配を覚えておくべきだった? いや、無理だわ。
やんちゃ盛りの男の子の相手をするなんて不可能だ。
しばらく歩くと、前方から数人の男たちが、走って来るのが見えた。
恰好から見たら、騎士団所属だろう。
あの人たちが、子ども達を保護してくれていたら私はこのまま、転移して部屋に戻ろうと思っていたのだが。
「はは。運が良かった。あいつらが囮になってくれなかったら、俺達も」
「ああ。あいつはバカだ、平民のガキなんて放って逃げればいいものを」
ゼイゼイ言っている割には、しっかり話せている。
なんだろう? 事情を訊かずとも勝手に話してくれるというあの伝説の現象?
それにしても、今こいつら聞き捨てならぬことを言った。
囮? 平民のガキを囮にしたって?
ざわざわとした気持ちが込み上げる。
幼い頃、殺されかけた時も、婚約破棄をされた時も……こんな感情の揺れを感じた事は無かった。
「どういう……事?」
声がかすれているのが分かる。冷たい……自分の声じゃ無いみたい。
不意に声を掛けられ、騎士たちはビクッと反応した。
そして魔物じゃ無いのが分かると、ホッとしたのか少しバカにしたような笑みになった。
「ねぇ。囮にしたってどういう事? 騎士団だよね、あなたたち」
「ああ、そうさ。貴族のな。平民ごときの為に何で戦わないとならん」
「そうだな。死にたくないのはみんな同じだろう? しかもあいつら、命令違反だ」
男たちの言い分は正しい。
この森は、討伐に向かっている騎士団や国から依頼を受けた上位冒険者以外は立ち入りを禁じられている。
そして連日、騎士団からも死傷者が出ているのだ。
禁を犯し入っていた者の面倒まで見たくない。
気持ちは分かる。私も同意見だ。
なのにムカつく。こんな気持ちは初めてだ。
「そう……。では、あなた方がそうやって見捨てた命の分、長生きをすれば良い」
周囲がざわっと揺れた。
男たちの体を魔力が包む。
例えどんな姿になっても、その間死ぬことだけは許さない。
男たちは呆然としていた。私の事など、もう忘れているだろう。
私は、術を掛けた瞬間、地面を蹴って走り出していた。
間に合って欲しい。
私が考えていたのは、その事だけ。