前世譚9 ❀ 再会

文字数 1,572文字

火事の中、逃げ遅れたアリエッタと、孤児の少年。


燃える瓦礫が降ってきた、その時。

危ない!
アリエッタ少年の手が引かれ、落下物をさける。
あなたは……!!
アリエッタ、無事で良かった!

リカルド……。

本当に、リカルドなの……?

はい、僕です。

あなたを助けたくて、いてもたってもいられず。

ずっと、君に会いたかった!!

私も、あなたにずっと……

二人は愛おしそうに、互いを見つめ合う。
どうして……私がここだと?

友が「君がまだ中にいる」と教えてくれたんです。

急ぎましょう。

この男の子は僕に任せて。

リカルドは少年を抱え、聖堂を飛び出した。


どこもかしこも火の海で、外へ通じる出口は瓦礫でふさがれていた。

風が流れてくる……。

あそこなら通れそうだ!

リカルドは、両腕を十字架のように伸ばした。

αιώρησηエオーリシ

逃げ道を塞いでいた建材が、軋みを上げながら動き出す。


足の踏み場もなかった場所に、細長い通路が現れた。

今のうちです!

その時、上の階から降り注いだ瓦礫が、出口をせばめてしまった。

これでは、とても通れない!!

もう一度魔法を……。

リカルド、先にこの子を外へ……!!


出口は小さいですが、この子なら通れます

そうですね! 


φυλαχτό(フィラフト) νερό(ネロ)

リカルドは、少年の手を握り、魔法をかけた。
冷たい……身体が……寒い

これなら火の粉をかぶっても大丈夫ですよ。


さぁ、君は先に!

リカルドは少年を、小さな出口へ押し込んだ。


外へ出た少年は火の一切をまとわず、庭先へ転がり出た。

まぁ、ヨハン! そこにいたのね!

外にいた修道院長が、少年を抱えた。
ごほっ、けほっ!

煙で喉を痛めたのね。

可哀想に。

待って……先生。

ゴホゴホッ、先生が……!!

先生ならここにいますよ。

もう大丈夫。

誰か、すぐにこの子の手当てを!!

院長は子どもを抱えて、建物から去る。


直後、その小さな出口も崩れ落ちた。

必ず逃げ道があるはずです!

はっ、危ない!

突然、リカルドがアリエッタに覆いかぶさった。


落下した重い天井板をリカルドは背中で受け止め、アリエッタを守ったのだ。

リカルド、が!!
身体中に建材や鉄釘が刺さり、血がとめどなく溢れていたのだ。

アリエッタ、怪我は……?

彼は自分に降りかかった建材をはらい、前のめりに崩れた。


リカルドの血が、二人の足元に広がる。

逃げて……

いいえ……いいえ!

私はあなたから離れません

リカルド……死なないで。

ああ、神様!!

アリエッタが泣き崩れていると、リカルドがふるえる右手で彼女の左手を引き寄せた。

愛しています……アリエッタ

リカルドは、アリエッタの指をからめとる。

僕は……君を忘れな……

アリエッタの手の甲に口づけし、ゆっくりとその目を閉じた。
リカルド……

何度も名前を呼んだが、返事はない。


おそるおそる彼の胸に手を当てると、鼓動は消えていた。

まだ温かい手……。

この手の温もりが冷める間もなく、私も……

四方を炎が囲み、アリエッタの処刑を企んでいた。

これは火刑ですか、神様。

手紙で密かに語り合った背徳への罰の炎ですか

炎に包まれた空間を見回していると。

片翼のちぎれた鳩が、血だまりの中で死んでいた。

ああ……あなたが、私と彼を導いてくれたのに。

ありがとう、ありがとう……

鳩へ十字を切ると、リカルドへ向いた。

リカルド……。

あなたを心から愛しています

泣きながら、死んだ彼の耳元で、もう一度愛の言葉を唱えた。
次は二人とも囲いを出て、広い世界へ。
たとえ離れてしまっても……

彼が最期につないだ手を、アリエッタは見つめた。

彼は右利きだった。

この手とペンが、手紙をしたためてくれたのだ。

また手紙をください、魔法使いさん
彼へ口づけし、アリエッタは煉獄に呑まれた。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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