4章:終わりは終わりに近づいていく。

文字数 2,066文字

 多分走馬燈が目の前に見えていた。

 死ぬ前に見ているから、これが走馬燈なのだろう。

 回るメリーゴーランドなんていう幻想的で洒落た物ではない。

 僕の走馬燈はパジャマだった。

 見覚えのあるパジャマ。あれ?これは本当に走馬燈?



 辺りを見回す。そこで自分の置かれている状態を知った。

 僕は男だ。しかし、男の人からお姫様抱っこをされていた。

 これはなんと言うのだろう?逆お姫様抱っこでもないから……、王子様抱っこ?かな?

 そんなことを思って下を見る。見慣れた街が下に見え、自分を王子様抱っこしている男が屋根の上を走っていた。

 「おぉ、気付いたか?吃驚したぜ。半端な気持ちでここまで来たんだが、まさか月一で起こるレベルの大事だったとは……。いやいや、人生って分かんねーな。」

 意味の分からない事を半分独り言のようにベラベラベラベラと喋り出す。

 モノクル(片眼鏡)を掛けた男は笑いながら夜の街を忍者のように飛んで街を駆けていた。

 「えぇ……、君は………?」

 体中が痛い。死力を尽くした反動だろうか?喉も痛く、「誰だい?」という言葉が思うように出て来なかった。

 「君の命の恩人さ。ぁ、だからって気にしないでよ。流石に目の前でサバイバルナイフに解体される人間なんて見たくないからね。」

 サバイバルナイフ………。そうだ!サバイバルナイフ!王子様抱っこの中で暴れそうになる。

 この男から感じるのは間違いなくリバース保持者、リバースホルダーのそれだ。

 一日に4人もリバースホルダーにエンカウントするとは思えない。さっきの暗殺者とこの男が『=』で繋がる。

「ぉぃぉいおい。暴れないでって!落ちる!落ちちゃう!大丈夫。僕は取って喰いやしないよ!」

口調は慌てつつも僕を抱っこする手と屋根から屋根を飛び移る足取りに一切乱れは無い。

「そう言って僕をゆっくりと殺すんだろう!」

 暴れて片眼鏡目掛けて拳を叩きつける。当たってバランスを崩して屋根の上から道路まで真っ逆さま。なんていう所迄頭が全然回っていない。

「違う、違うって。僕はナイフじゃない。君がサバイバルナイフ背中から生えそうになってたから俺のリバースで助けたんだよ。全く。」

拳は見事空を切り、男は屋根を飛び続ける。

少し冷静になった。

さっき僕を殺そうとしていた奴は僕を何としてでも殺そうとしていた。悠長に遊びを入れようなんていう意思は無く、寝ていた僕に迷わずナイフを突きつけていた。

 現在、僕を抱っこして走っている男は如何だろうか?

 見たところナイフは見えない。何より、顔が見える。そして、僕を王子様抱っこして夜の街を駆けている。

 どう考えても同一人物ではないか………。

 僕は頭の中のサバイバルナイフとモノクルの間の「=」に「/」を入れて「≠」にした。

 「ごめんなさい。気が動転していて……。助けてくれてありがとうございます。」

 男は笑って前に向き直る

 「いいって事よ。さっきも言ったが、目の前で人殺しされたら気分悪いからやっただけさ。……、それより、お前、何したんだ?」

 モノクルを月光で光らせながらこちらを不思議そうに見る。当然だ。あんな風に殺されかける理由なんて禄でも無い事かとんでもない事の二択だ。

 が、

 「ぼくだって知らないんだ。いきなり家にやって来てナイフで刺そうとして……、こっちが訊きたい。なんで襲って来たんだ?」

 逆に問い返す。こんな万把一絡げの何処にでも居る青年を捕まえて殺して一体何の意味が有るんだ?

 別にリバースホルダーの知り合いも居ないし、よって恨みを買う理由も無い。

 本当になんだ?僕が狙いでない可能性も考えたが、しかし、彼は家でなく、僕を追ってきている。家でなくこちらに目的があるという事……。僕が狙いだ……。…………?

 何だろう?何かが引っかかる。

 僕には狙われるような理由や特別な何かなど何もない。

 が、じゃぁ、アレは何だったのだろう。

 家で僕が暗殺者に刺されそうになった時、何かの力で暗殺者は吹き飛んだ。

 別に僕のグルグルパンチが意外に効いたという事では無いだろう。じゃぁなんだ?

 有り得ない事が起こった。つまりそこには有り得ない事を起こした原因が有る筈だ。

あの時、いつもと違う何かが有った筈だ。…………、あ!

 抱っこされながらポケットを探る。

 振り回した手の中身をどうしたか等覚えてはいなかった。が、そこに有る。という確信が有った。

有った!

 机の上に有った、そして、いつの間にかポケットに入っていた不思議な紋様のお札。

 これだ。これが何かを引き起こしたんだ。

 そんな風に考えていた僕に目をやった片眼鏡は目を丸くした。

 「!清明のリバース!! オマ、ソレ、コデ………!」

 僕の拳にさえ足を遅くしなかった彼の足が完全に止まった。

 「ちょ、お前、どっか隠れろ!」
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