68.白く周辺を埋め尽くす閃光

文字数 2,707文字

「よし、ブロックパターン発信と同時にハッキング開始だぜ」
 長谷川が首をコキリと鳴らして、PC98NOTEのリターンキーを押した。
 当時では珍しいノート型のマイコン端末は、エメトリア市内の日本代理店から接収という名の強奪を実行。急ごしらえだが、無線部とエレクトロニクス部のあらゆるカスタマイズを行ってあった。
 パラボラ、無線アンテナとチューナーを介して内蔵モデムに繋いである。
 プログラムが核端末に介入を開始したらしく、白黒の影響画面をプログラム言語の羅列が高速で流れていく。

 沖田達ムサノメンバーと女王派国民軍は、革命軍とKGBが気がつかないうちに一基ずつ制圧する作戦を実行していた。
 核の位置は、革命軍に人為的に作り出された魔女、貞子ことサリーちゃん(マユミが勝手に命名)の5次元干渉能力によって、エメトリア国内に仕掛けられたソビエト製の戦術核、四箇所の場所が判明していた。
 女王の元に集結した国民軍指揮官達によって、周辺地域のスカウト部隊が急行して戦術核を目視で確認、撮影していた。
「人間の壁とはね。イラクの時と同じか」
 バン一台分の大きさで円筒形の戦術核の映像を見て、長島がげんなりとして言った。
 拘束された市民、数十名が核を取り巻く様にして鎖に繋がれ、座らされている。
「衛星と無線経由で起爆するならやりようはあるな」
 同じように映像を見ていた長谷川が言った。
「アンテナ形状からすると、両方使ってるね」
 とこれは長島。
「すぐに部隊を組んで急襲させましょう」
 そう言って指示を出そうとした女王だったが、国境付近から侵攻を開始したKGBの部隊と、国内の要所をまだ制圧している革命軍の対応で、核の対応にまで指揮を行うこと難しかった。
 それに、国内に設置された四箇所すべてに市民を人間の壁として戦術核の周りを囲むように配置されており、武力で同時制圧することは人質に犠牲者が出る可能性が高い。
 そこで、普段から部活でTurbo系言語などを使用して様々なプログラムを組んでは、実験と称してあらゆるところにハッキングを行っていた武蔵野大学附属高校、エレクトロニクス部とアマチュア無線部のエースで部長の、長谷川と長島の二人が寄ってたかってハッキングソフトを作り出し、テストもそこそこに現地に急行。
 KGBにも革命軍にも気がつかれないうちに、既に二基を制圧下に置いてみせていた。
 あきれ顔で見つめるエメトリア国民軍の連中をよそに、長島、長谷川は普段とやっていることがほとんど変わらないため、どちらかと言えば涼しい顔をしていた。
 もっとも、現実味はないが、相手が核兵器と認識はしているので、実際に手を出す際は緊張はするらしい。
 今は市内にある三基目のハッキングを開始している。
「敵部隊に動きは?」
 端末から目を離さない長島が聞いた。
「のんきにタバコ吸ってるよ。末端の兵士はかわいそうに」
 護衛として付いてきている吉川がライフルのスコープを覗きながら言った。
 戦術核の護衛と人質の監視に残った兵士達は、自分達が護衛している物が、核兵器とは知らないようだ。知っていればこの場から逃げ出している。
「あと三分」
 プログラムのローディング状況を見ながら、長谷川が言った。
「最後の核は?」
「ここから二十キロくらいかな。沖田達がもうすぐ着くよ」
 時計を見ながら吉川が応える。
 最後の一基には、沖田とエリサ、そして、何故か志願したサリーちゃんとマユミが向かっていた。
「まさか、核兵器をハッキングすることになるとはね」
 長谷川がため息をつき、端末から顔を上げて首をまわした。
「帰ったら自慢するといいよ」
 吉川がふざけて言う。
「誰も信じないって」
 長島が笑って応じた時だった。
 白く周辺を埋め尽くす閃光。
 体の外側が一瞬にして真っ白な世界に切り替わる。
 影が色濃く周囲を照らし、質量をもってそこに焼き付く。
「嘘だろ!」
 叫んで潜伏しているビルの壁際に身を投げ出すも、そんなことで放射線と数千度の爆風が避けられるとは思わなかった。
 生きたまま焼かれる恐怖が頭を埋め尽くす。
 しかし、それは自分たちの目の前の核兵器でないとすぐにわかった。

 光はそこから一番遠いエメトリア城内からも確認出来た。
 現在ハッキングを行っている核兵器ではない。
 最後の一基が設置されている方向だった。
 城内の窓からその光景を見つめる女王と、事情を知っている配下の者達は呆然とその光景を眺めている。
 同時にKGBの部隊が市内へと突入、革命軍と連携して国民軍への攻撃を開始したと連絡が入る。
 指揮系統と部隊の再編成がまだ間に合っていない国民軍は更に混乱し、前戦の部隊は簡単に崩れ始めた。

 フレデリックの用意したヘリに搭乗した、沖田、エリサ、マユミ、そして、革命軍の強化魔法使い貞子ことサリーちゃんは、フレデリックと女王の付けた護衛部隊と共に、エメトリア首都から数十キロ離れた第四都市へと急行していた。
 もし、三基目の戦術核に対するハッキングが完了する前に敵に発覚した場合、急襲して四基目を破壊する予定だった。
 サリーちゃんは何故か先行部隊への同行を志願したため、心配したマユミが一緒に来ることとなった。
 革命の起きる以前から、地下でニコライの実験の犠牲となっていた彼女は、強制的に能力を強化された後遺症で言葉を発することができなくなっていた。
 複数回にわたる拷問とも言える洗脳実験も失敗しており、強制的に脳波を操作する拘束具を首に付けられて戦わされていたのだった。
 今はその拘束具も破壊され理性を取り戻している。
 姉のように慕われているマユミは、革命軍との戦闘が終息したら、彼女の家族を探すつもりだ。
 ヘリは国民軍の制圧下にあるビルの屋上へと着陸。
 目的のビルへと、メンバーは護衛に囲まれるようにして進んでいった。
 最も少数とは言え、次元操作能力まで持つ魔女であるサリーちゃんと、冥界の主に呪われた異能力者である沖田がいるため、一個大隊でも来ない限り危険はないはずだ。
 目的のビルの屋上を確保したメンバーが、戦術核の監視を開始した時だった。
 円筒形の戦術核を護衛する兵士が慌ただしく動き出す。
 革命軍の兵士の一人が、無線兵から通話機を受け取り、円筒横に付けられているパネルを開けると、ナンバーパネルに数字を打ち込みだした。
「なんだ?」
 腹ばいになって双眼鏡を覗いていた沖田が膝立ちで立ち上がる。
 体にはいつでもビルから降下して襲撃できるように、ハーネスとザイルを付けてあった。
 兵士が操作を終えてパネルを閉じた瞬間。
 強烈な光の爆発が周辺を覆った。

To be continued.
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