第109話 邂逅
文字数 2,117文字
数多くの人々が慌ただしく右往左往し始める広場。雲の切れ間から差し込んだ光が濡れた石畳を照らし、反射してきらめいている。それを遠目に眺める二人組の姿があった。
一人はあたふたと落ち着かないモリード。もう一人は布に包まれた大剣を担いで堂々と立つデイタスだった。
「何がどうなってるんだ。魔物が暴れまわったりしたのか?ああ、ぼくが調整に手間取ってしまわなければユウトに大剣で実践情報を得るいい機会になったかもしれないのに・・・」
モリードは頭をわしわしと両手でかきながらしゃがみ込む。デイタスはそんなモリードをまったく気にしない様子であたりを観察していた。
「ふむ、どうにも変わった雰囲気だ。何が起こっていたのかわからんな。
おい!あんた、この広場で何が起こってるんだ?」
デイタスは街の方へ戻ろうとしていた御者と思われる人物を呼び止めて話を聞き始める。そうして他にも数人から状況を聞きだしその内容をまとめると、モリードに伝え始めた。
「どうやらユウトとガラルドで決闘が行われたらしい。理由は不明だが決闘の決着はすでについたそうだ」
「決闘だって?ユウトは無事なのか?」
目を丸くしてモリードはデイタスを見上げる。デイタスは淡々と情報を伝え続けた。
「ユウトの勝ちが濃厚のようだな。今は治療をうけているらしい。ガラルドの容態はよくわからんな」
デイタスの聞き込みの報告を聞き終わってモリードは大きく息を吐くとすっくと立ちあがる。
「そうか。生きているのか。あぁ良かった」
膝に手を置きながら視線を下に落とし安堵で脱力した。
「なかなか見ものだったぞ」
モリードとデイタスの背後。見下ろされるような圧のある声が投げかけられていることを二人は無視できず緊張感が漂った。瞳と首をだけで慎重に後ろを確認する。そこにはデイタスでさへ見上げるほどの高身長から薄い目で見下ろすジヴァがたたずんでいた。
目線を釘付けにされながらジヴァから距離を取るデイタス。若干前かがみに臨戦態勢を取りつつ慎重に声を掛けた。
「どなたかな?私も武人の端くれ。無防備に背後を取られせたりはしないはずなのだが」
「矜持を傷つけてしまったのなら詫びよう。ユウトの知り合いだ。
それで、その剣に興味がある。一つ見せてもらえないかな?」
デイタスはモリードに目をやる。ジヴァへ振り返りながら身体を硬直させていたモリードはデイタスに小さく小刻みに首を縦に振った。それを受けてデイタスは大剣の包みをほどき両手で水平に支えた体験をジヴァに差し出す。ジヴァは小枝でもつまむように指先で軽々と柄から持ち上げてまじまじと全体を眺めた。
「ほぅ・・・見事だな。こういった形で再現されるとはおもしろい。この発想は誰かから教わったものか?」
ジヴァはモリードの方を明確に見て尋ねる。モリードは意を決したように一歩分身体を向けて口を開いた。
「ぼぼ僕の発想・・・ですっ」
「そうか。名はなんという?わしはジヴァだよ」
「え、あ。モリードです」
突然に名を尋ねられモリードは呆気にとられながらジヴァに素直に答える。ジヴァはモリードの答えに返事をすることもなく真剣な表情でじっと大剣を見つめると語り始めた。
「ふむ。一つ助言をしよう。魔力誘導溝を浅く詰めすぎている。限界効率を狙いすぎだ。階調をつけるように深さ、幅、間隔を調節するといいだろう。それでユウトは威力と射程の調節をしやすくなる。
これは面白いものを見せてもらった礼だ。また面白いものを生み出すのを期待しているぞ」
ジヴァはそう言いながら大剣をデイタスに返す。そして何も言わず滑るような優雅さで広場の出口に向かって歩きだした。モリードとデイタスは唖然としたままジヴァを見送る。異質な様子はあたりから浮いているはずなのに周りの人々はそのことにまったく気に止める様子はなかった。
丁度その時、モリードとデイタスの後ろを二人組が駆け抜ける。それはユウトの元へと急ぐレナとネイラだった。レナより先行していたネイラは急にその速度を落としてあたりを見回すと一点を凝視する。その先には一人帰路につくジヴァの後ろ姿があった。
ネイラの突然の急減速にレナは異変を感じすぐにネイラの元に駆け寄るとネイラに訪ねる。
「どうしたのネイラ。急に止まったりして」
レナは見開いた瞳のネイラの視線の先を追う。追って初めてジヴァがいたことに気づいた。
「・・・白灰の魔女」
ネイラはぽつりとつぶやくと見つめる先で歩み続けていたジヴァは歩みを止めて振り返る。そしてふっと笑って何かを語った。
「やぁディーネイラーゼ。元気そうで何よりだ。奴らにもよろしくな」
聞こえるはずのない距離でジヴァの声をレナは確かに聞く。そしてジヴァは何事もなかったように待た背を向けて歩き始めた。
「行くよ、レナ。ユウトの元に急ごう。白灰が若返った上に森を出るなんて不吉極まりない。何かよくないことが起こる予兆だ」
去っていくジヴァを見送ることなくネイラとレナはユウトの元に急ぐ。最後まで見送り続けたのはモリードとデイタスの二人だけだった。
「一体あれは何者なんだよ」
モリードはぽつりとため息のようにつぶやく。デイタスも静かにうなずいた。
一人はあたふたと落ち着かないモリード。もう一人は布に包まれた大剣を担いで堂々と立つデイタスだった。
「何がどうなってるんだ。魔物が暴れまわったりしたのか?ああ、ぼくが調整に手間取ってしまわなければユウトに大剣で実践情報を得るいい機会になったかもしれないのに・・・」
モリードは頭をわしわしと両手でかきながらしゃがみ込む。デイタスはそんなモリードをまったく気にしない様子であたりを観察していた。
「ふむ、どうにも変わった雰囲気だ。何が起こっていたのかわからんな。
おい!あんた、この広場で何が起こってるんだ?」
デイタスは街の方へ戻ろうとしていた御者と思われる人物を呼び止めて話を聞き始める。そうして他にも数人から状況を聞きだしその内容をまとめると、モリードに伝え始めた。
「どうやらユウトとガラルドで決闘が行われたらしい。理由は不明だが決闘の決着はすでについたそうだ」
「決闘だって?ユウトは無事なのか?」
目を丸くしてモリードはデイタスを見上げる。デイタスは淡々と情報を伝え続けた。
「ユウトの勝ちが濃厚のようだな。今は治療をうけているらしい。ガラルドの容態はよくわからんな」
デイタスの聞き込みの報告を聞き終わってモリードは大きく息を吐くとすっくと立ちあがる。
「そうか。生きているのか。あぁ良かった」
膝に手を置きながら視線を下に落とし安堵で脱力した。
「なかなか見ものだったぞ」
モリードとデイタスの背後。見下ろされるような圧のある声が投げかけられていることを二人は無視できず緊張感が漂った。瞳と首をだけで慎重に後ろを確認する。そこにはデイタスでさへ見上げるほどの高身長から薄い目で見下ろすジヴァがたたずんでいた。
目線を釘付けにされながらジヴァから距離を取るデイタス。若干前かがみに臨戦態勢を取りつつ慎重に声を掛けた。
「どなたかな?私も武人の端くれ。無防備に背後を取られせたりはしないはずなのだが」
「矜持を傷つけてしまったのなら詫びよう。ユウトの知り合いだ。
それで、その剣に興味がある。一つ見せてもらえないかな?」
デイタスはモリードに目をやる。ジヴァへ振り返りながら身体を硬直させていたモリードはデイタスに小さく小刻みに首を縦に振った。それを受けてデイタスは大剣の包みをほどき両手で水平に支えた体験をジヴァに差し出す。ジヴァは小枝でもつまむように指先で軽々と柄から持ち上げてまじまじと全体を眺めた。
「ほぅ・・・見事だな。こういった形で再現されるとはおもしろい。この発想は誰かから教わったものか?」
ジヴァはモリードの方を明確に見て尋ねる。モリードは意を決したように一歩分身体を向けて口を開いた。
「ぼぼ僕の発想・・・ですっ」
「そうか。名はなんという?わしはジヴァだよ」
「え、あ。モリードです」
突然に名を尋ねられモリードは呆気にとられながらジヴァに素直に答える。ジヴァはモリードの答えに返事をすることもなく真剣な表情でじっと大剣を見つめると語り始めた。
「ふむ。一つ助言をしよう。魔力誘導溝を浅く詰めすぎている。限界効率を狙いすぎだ。階調をつけるように深さ、幅、間隔を調節するといいだろう。それでユウトは威力と射程の調節をしやすくなる。
これは面白いものを見せてもらった礼だ。また面白いものを生み出すのを期待しているぞ」
ジヴァはそう言いながら大剣をデイタスに返す。そして何も言わず滑るような優雅さで広場の出口に向かって歩きだした。モリードとデイタスは唖然としたままジヴァを見送る。異質な様子はあたりから浮いているはずなのに周りの人々はそのことにまったく気に止める様子はなかった。
丁度その時、モリードとデイタスの後ろを二人組が駆け抜ける。それはユウトの元へと急ぐレナとネイラだった。レナより先行していたネイラは急にその速度を落としてあたりを見回すと一点を凝視する。その先には一人帰路につくジヴァの後ろ姿があった。
ネイラの突然の急減速にレナは異変を感じすぐにネイラの元に駆け寄るとネイラに訪ねる。
「どうしたのネイラ。急に止まったりして」
レナは見開いた瞳のネイラの視線の先を追う。追って初めてジヴァがいたことに気づいた。
「・・・白灰の魔女」
ネイラはぽつりとつぶやくと見つめる先で歩み続けていたジヴァは歩みを止めて振り返る。そしてふっと笑って何かを語った。
「やぁディーネイラーゼ。元気そうで何よりだ。奴らにもよろしくな」
聞こえるはずのない距離でジヴァの声をレナは確かに聞く。そしてジヴァは何事もなかったように待た背を向けて歩き始めた。
「行くよ、レナ。ユウトの元に急ごう。白灰が若返った上に森を出るなんて不吉極まりない。何かよくないことが起こる予兆だ」
去っていくジヴァを見送ることなくネイラとレナはユウトの元に急ぐ。最後まで見送り続けたのはモリードとデイタスの二人だけだった。
「一体あれは何者なんだよ」
モリードはぽつりとため息のようにつぶやく。デイタスも静かにうなずいた。