文字数 7,716文字

 程よい喧噪と、辺りに漂う料理の、食欲をそそる香り。プリジェン卿の衛士たちお薦めの酒場(タバーン)は、なるほど美食の彼らが薦めるだけの店だった。
 明るい店内は清潔に保たれており、陽気な男たちが愉しく酒を呑んでいる。……治安が良く、颯爽と働く職業婦人が多くいるオルグレンの酒場に慣れた所為で、初めは違和感を覚えたのは内緒の話。世間的にはこの時間に、給仕でもない女性が酒場にいることは稀なのだ。
 大テーブルで隣り合った商人と世間話に興じてみれば、この賑わいも季節限定のものらしい。公爵家主催の茶会で往来にヒトが増えるもの理由だが、そもそも今は、新茶の季節でもあるのだ。茶会を開催して振る舞うくらいだから、この辺りには大規模な茶園が存在している。その買い付けに、商人たちもやってくるのだそうだ。
「去年末は吸血の魔獣が発生したからなぁ、こちらまで来られるか心配だったが」
 ほんのり顔を赤くしてエールを煽るのは、南方からやってきたという商人だ。彼は毎年この時期は、南の産物を運んでこちらへやってきて、帰りは新茶と蒸留酒を運んで戻るのだという。
 卓の上にはお互いにエールと、本日のお薦めという一皿盛りが乗っており、周りを見回しても似たような有り様だ。この時間なら夕飯を兼ねて、皆が頼むのだという。しかし彼らの間には更に、商人が追加したバンガーズが置かれていた。
 いいから食えと勧められたのだが、平たく言えば鹿肉の腸詰めである。
 塩蔵していない肉を使用しているため柔らかく、臭みのない新鮮な肉を使い、数日と置かず消費するため香辛料の濃い味付もしていないそれは、肉自体の旨味が強い。ぷつりと噛み切れば溢れる肉汁が、なかなか美味だった。
 公爵家管理の森で狩られるらしい鹿は、この辺りの名物でもあるそうだ。特にバンガーズは外に出ないため、ダンバーへ来たのなら何においても食べるべし、なのだという。
 因みに、本日のお薦めは淡水魚のソテーを主としている、盛りの良い一品である。更に、これにパンもつく。
 こちらは王都の城壁外から拡がる巨大な湖で捕れた物で、ダンバーからも程なく辿り着けるそうだ。岸から水面を望めば、天気の良い日は砦が見えるらしい。
 それらを美味しくいただきながら、シャノンは相槌を打った。
「早々に鎮静して良かったですね」
「北方守護が、即座に動いてくれたらしい。行商している身としては、上の対応が早いのは有難いねぇ」
 他国はどうにもキナ臭くて、と嘆息するさまに、シャノンは軽く眉を持ち上げる。
「やっぱり、そうなんですか? 例の魔獣騒動は、西から来てるそうですけど」
「あっちはなぁ。結局、ナックラヴィーが発生しちまって、俺らみたいなのは近付けなくてね。まぁ、それでも天災みたいなもんさ。仕方ない」
 そっちじゃなくてもっと内陸の方さ、と声をひそめて、商人はため息をついた。
「妙な変死事件がちらほら増えているって話しでな。宗主国も妙だし、逸れ物でもまた暴れ始めようとしてるのかって、もっぱらの噂だよ」
「……それが本当なら、ウェルテ国内でもう少し動きがありそうですけどね?」
 シャフツベリ氏族(クラン)からも、そんな話しは聞いていない。何より、この社交期(シーズン)までの僅かな隙に、宰相から面会の申し出があるのだ。問題があるのなら取り止めになりそうだが、今のところその気配はない。
「ふむ。それじゃぁ、心配し過ぎない方がいいのかね」
「変死は気になりますけどねー。どこぞで、吸血鬼が食い殺されたなんて聞きましたけど」
 あぁ、と僅かに眉をひそめて、商人は声を低くした。
「兄さん、そいつは箝口令が布かれただなんて噂の奴だ。あんまり大きな声で言っちゃいけねぇよ」
「そちらも知ってるのに?」
「公然の秘密という奴さ。身分のあるお方がやらかしたんだろうなぁ」
 嘆息した商人は、ちょいと肩を竦めてみせる。
「他にも、酷い有り様の被害者も幾らかいるようだ。あちこちで、起き上がらないように四苦八苦してるって話しでな」
「だから、宗主国が乗り出してるってこと?」
 そちらも何かあったのなら、ヴィレムがやってきそうなものだが。
 果たして商人は、少しだけ嫌そうに顔をしかめた。
「そうなのかもしれねぇなぁ。去年末から入国の検問が厳しいんだ。それに、他国で聖騎士団を見かけることも多くなってきてる」
「へぇ……。聖騎士団が、ね……」
 それは怪しい、と相槌を打ってエールを呷る。
 あれらが最も活発に活動していたのは、救済だとか布教活動という名の侵略行為に勤しんでいた頃だ。ウェルテに破れてから二百年、鳴りを潜めていたわけだが。
 そろそろ、蠢動を始めたということだろうか。そう思えば、去年のオルグレンでの出来事にも頷けるところではあるけれど。
「妙なことじゃなければいいですけどね。あぁ、そういえば。明日の茶会、爵家勢揃いらしいですよ。滅多に出てこない方々が来るらしいって、はしゃぐヒトがあちこちに」
「ほほう? 茶会と言うが、この時に領地(シノン)持ちはいろいろ持ち込むらしいから、出回る情報に注目せにゃならんな」
 商人が言うには、茶会後にお披露目された新製品が売りに出されることが多いそうで、その情報を狙って来ている商人も少なくないのだそうだ。王都から各領都へと鉄道も通っているため、移動が容易なのも大きいだろう。
 彼の場合は買い付けに間に合う物で、少量でも手に入れば御の字だという。
「新製品……。去年、プリジェンで栗の酒を呑んだんですよね」
 あれはあの時、出来たばかりだと聞いた気がする。もしかしたら、今回持ち込んでいるのだろうか。ぼんやりそう思いながら口にすると、商人が身を乗り出した。
「栗? 兄さん、その話し詳しく!」
「あちらに、芋の酒があるでしょう? あれと同じ手法で作ったとか。酒精強めで、香りも芋の酒に近い感じかな。あれほどきつく香らないけれど」
「そりゃいいこと聞いた。ちょいとプリジェンまで足を伸ばすかね」
 ウェルテはいい蒸留酒が多いねと笑い、情報の礼だと言いながら、そろそろ飲み干しそうだったエールを追加してくれる。
「何より安心して移動できるのがいい。思い立って気軽に行ける。流石、英雄王が興された国だねぇ」
 そうですねぇ、と相槌を打って、シャノンは去ろうとした給仕へ、適当に肴になりそうな物を追加した。
「兄さん、細っこいのによく食うな」
「明日から暫く、食が細くなりそうなので。実は友人に、王都の辺りはあんまり食事が美味くないって聞いてたんで身構えてたんですけど、そうでもないんですね?」
 それともこの店が美味いだけだろうか、と小首を傾げると、果たして商人は苦笑したようだった。
「ダンバーだから美味い、だな。残念ながら、王都では期待できねぇよ」
「それは……ここから移動したくないですね」
 真顔で応じると、商人は愉快そうに笑う。
 彼が言うには、やはり首都には良くも悪くもヒトが集まりやすいから、らしい。ヒトが多く集えば職に溢れる者も出てくるし、当然ながら物価も変わる。
 序でに、建国からたったの二百年だ。
 王都は建国前から存在した古都をそのまま利用しており、その価値観も殆どそのまま受け継がれた。貧富の差は勿論、厳格な身分制度も身に染みてしまっている。大昔よりはましとはいえ、スラムだって潰せていない。オルグレンのような大改造でもしない限り、根本的な改善は難しいだろう。
 そんなこともあってか、少々裕福な労働階級や中産階級のヒトビトは、ダンバーに居を構えている者も少なくないという。鉄道が通っており、王都へもさほど時間がかからず通える点も大きいのだろう。
「ダンバーも古い町ではあるんだが、深い森を抱えているだけに、昔から森林資源を活用していたんだな。古い古い時代には、養蜂で一財産築いていたって話しだ。今なら森の恵みだろうさ」
「近代よりも中世辺りの方が、食生活は豊かだったと聞きますしね?」
「今でも、治世が行き届いていれば、田舎の方が存外豊かだねぇ」
 遥か昔に比べれば、流通だって充実しているのだ。手に入らない物も減ってきて、ヒトビトの生活は、郊外の方が安定しているなんてこともざらにある。それでも、都会に出てきてしまう者が一定数いるからこそ、問題はなくならないのだ。
「まぁ、若者がそうして都会へ行きたがる所為か、近頃は珍しい方々が田舎へひょっこり姿を見せてたりな。最近、ちょいと商いしたのはカルリークだったよ」
「あぁ、それで酒を? 蒸留酒の方が好まれるんでしたか」
 それなら、プリジェンで熟成を試みられているらしい麦の酒もいいのではないか、と口にすれば、商人は興味深気な顔をする。
「兄さん、情報通だねぇ」
「仕事で行ったんですけど、折角だからと食い倒れ旅も兼ねたんですよ。シェリー酒の樽に詰めて熟成してるところだって話で。まだ若いからって味見は出来ませんでしたけどね?」
 さほど癖が強くない分、樽から良い香りが移るのではないか、と期待されているらしい。単純に、熟成させれば角も取れて飲みやすくなるそうだ。
「ふむ。蒸留酒ならサリスベリーだろうと思ってたんだが、こりゃプリジェンもきっちり回らにゃならんか」
「いろいろ試してるらしいですよ。酒蔵へ行けば話も聞けるんじゃないですか? あちらも大きな商いが出来るなら喜ばしいでしょうし」
 単純に、あの無色で癖のない蒸留酒を使った果実酒も美しくて大層美味い。グウェンドリンは杏を漬け込んだ酒が好みだったようで、自分用に買い込んでいた。シャノンとしては、花を漬け込んだ酒も面白いと思っていたが、あれは好みが分かれるだろう。
 そういえば、彼女は魔女として相談も受けていた。なんでも、プリジェンの酒も蒸留酒なんだから、東方由来の薬草でも使ってジンが作れないだろうか、とのことだったらしい。そもそもジンの出自が解熱・利尿用薬草酒なので、考え方としてはおかしくないのだろう。
 当時を思い出し、思うままにつらつらと語った結果、今夜の酒代は商人が持ってくれることとなり、有難く奢られてシャノンは酒場を後にした。どうやら商人は、明日の情報解禁を待って、早速プリジェンへ乗り込むつもりらしい。
 まだまだ初更では往来にヒトも絶えず、少々浮き足立った喧噪に包まれた街には煌々と街灯が照っていた。
 それらを横目に宿へ向かったシャノンは、今日も大人しく早寝をすべきか、と思案する。本音を言えば日中の戦利品を心行くまで愛でたいわけだが、明日からの仕事に差し支えても困る。
 取り敢えず宿へ戻ったら、是非ともグウェンドリンの衣装に使いたい物と、メイスン嬢へ押し付けもとい託してみたいボタンは除けておかねば。かの有能な職人は、あの美しい飾りボタンたちをどう扱うだろう。
 宿の警備にあたっている衛士たちへ挨拶して玄関を通り、そのまま与えられた部屋へ向かう。擦れ違う使用人たちとも軽く会話しながら部屋の前まで戻ったシャノンは、ふと表情を改めた。
 何気なく鍵を開けて室内へ滑り込むと、寝室の方へ視線を向ける。施錠して居間を突っ切り、閉じた扉を開け放つと、一つため息をついた。
「……忍び込んでくるんじゃないっての。久し振り、ウィル」
「悪いな。外は人狼(ライカンスロープ)が多くて」
 ここは良い宿だな、と。卓上洋燈だけを灯し小さな書物机に頬杖ついていたヴィレムは、目を細めて笑いながら膝の書籍を閉じた。
「奴らでも、許可なく影伝いに抜けられなくなっている。こうした仕掛けに関しては、流石ウェルテと言ったところか」
「ウィルの侵入は防げてないじゃん。結構待ってた?」
 ちらりと膝に抱えた書籍を見遣って尋ねると、果たして彼はかぶりを振った。
「そうでもないさ。待つつもりで持ち込んだだけだ」
 早かったな、と意外そうに言われて、シャノンは軽く肩を竦めてみせる。
「明日から仕事だしさ、そこまで深酒しないよ」
「ここいらの食事は、おまえの口にも合いそうだと思ってたんだが」
「合いましたよー、と。そっちはたらふく食べてきた」
 クローゼットを開けて上着を脱ぐと、手早くブラシをかけて引っ掛けた。その片隅に置かれた戦利品へ目を向けるが、今夜は開けるのを諦めた方が良さそうだ。
 軽くため息を落としてクローゼットを閉めると、ベッドへ腰掛ける。
「宗主国のこと?」
「何か聞いたか」
「ちょっと妙な動きしてるってくらいかな」
 ヴィレムがこうしてやって来たのだから、あの情報は本当だったのだろう。それならば、宰相殿との面会予定も変更となる恐れがある。
 大事にならなければいいけれど、とぼんやり考えていると、果たしてヴィレムは、微妙そうな表情を浮かべた。
「妙と言えば、妙だな。英雄を探しているんだそうだ」
「……英雄?」
 何それ、と冷めた目を向けられて彼は首を傾げる。
「何がどうしてそんなことになったのか、さっぱりわからないんだ。手を尽くして探ってみたんだが、託宣らしい、ということくらいしか」
「聖騎士団が彷徨いてるのは、その所為?」
「恐らくな。奴らに捜索させているんだろう。小隊単位で行動しているようだから」
 彼らが出立したのは、雪解けを待ってすぐのことらしい。その性急さから、冬籠もり直前か最中に降された託宣ということなのだろう。それについて宗主国が公開する情報はなく、本山たる大聖堂は沈黙を続けている。
「珍しいことではあるな。奴らは何かと己の正統性を喧伝しがちだから」
「担ぎ上げるつもりじゃないとか?」
「あり得るが、断罪なら断罪で、それなりに大義名分でも掲げそうだぞ」
 その判断をつけかねてるのかも、と眉根を寄せて吐き出すと、ヴィレムも思案げな様子を見せた。
「どちらに転ぶかわからない? ならば何故、英雄と漏れ聞こえてきたんだろうな?」
「抹殺を怖れた何者かの方略……」
 くらいだろうか、思い浮かぶのは。
 しかし、英雄とは大きく出たものだ。殊更に、ヒトというのは英雄という言葉に弱い。それは、歴史書や物語、戯曲に明らかだろう。大衆へ容易に大義を連想させるには、最適で非常に便利な単語だ。
 これを語る時、それを自ら名乗りたい輩と、誰かに押し付けたい輩が必ず同時に現れる。ウェルテの建国王がそう諡された辺りに顕著だろう。確かに偉業と讃えるに足る功績ではあるが、それは単なる結果に過ぎない。
 世界中にありふれているだろう偉業の、始まりは全て利己的であるはずだし、ただ利害が一致しただけでしかないはずだ。利には勿論、持ち上げるに足るということも含まれるだろう。お互いに都合よく利用して、成果を得ているだけなのだ。
 シャノンとしては、そんな面倒なものは御免被りたいが。
「ところで、わざわざ途中経過を知らせに来たわけじゃないよね?」
「当然だ。噂で、ダンバーで英雄の目撃情報があったんだ。来てみたら、路地散策してるおまえを見かけて」
「声かけてくれれば良かったのに」
「浮かれて大荷物抱えてる奴にか」
 真顔で返されて、それはすみません、と思わず肩を小さくする。
 声をかけるのを躊躇う程度に浮かれていたのだろうか。自覚がないだけに気を付けねば、と大いに反省したけれど。
 続けて「御蔭で宿も知れたしな」とあっけらかんと告げられて、根源の紅血(ウーアシュプルング)の恐ろしさを思い知ったシャノンである。まさか、声はかけなかったけれど、そのままつけられたというのか。全く、これっぽっちも気付いていなかった。幾ら浮かれていたのだとしても、これは酷い。
「平和惚けが酷い気がする……」
 頭を抱えるシャノンに「良い事じゃないか」と嘯いて、ヴィレムは薄く笑った。
「この泰平の世で、張り詰め続けている方がおかしい。そもそも、俺の特性が隠形だ。全盛期でも見つかるつもりはないぞ」
 そもそも、吸血鬼に備わっているはずだった権能だ。全ての権能を過不足なく行使できるヴィレムには、あの血母(ムッター)でも敵わないのではないだろうか。これまで狩られずにいたのは、彼の恩情に他ならない。曰く、狩ってしまった方が後々面倒臭いのだそうだ。
「まぁ、暫くはここらで活動してるさ。何かあったら、いつもの手順で呼んでくれ。おまえは、いつまでいるんだ?」
「了解。工期が延長されなきゃ、社交期開始までかな」
 となり見た、と開け放した扉へちらりと視線を向けると、果たして彼も軽く肩を竦めてみせる。
「完成というわけではない?」
「一応、あれで完成品だけどね。名目上は試作品の譲り渡しということだから、調整とか、いろいろ」
 全ては明日の茶会での、プリジェン卿の手腕にかかっているのだ。あれだけの数を用意しているということは、たった数着の戦果でお茶を濁す気なぞ、さらさらないのだろう。こちらとしては恐々として結果を待つしかないと、ため息混じりに告げれば、ヴィレムは「おぞましい仕事だな」と生温かい眼差しを向けてくれる。
「それなら、こちらから何かしらの要請は出さないようにしよう。用がなくとも、帰る際には知らせてくれ。情報はやるよ」
「ん、有難う。気を付けて」
「そっちは適度に休めよ」
 邪魔したな、と言いながら書籍を抱えて立ち上がる。途端に、ふうわりと室内の陰影へ融けるように輪郭をなくし、消え去った。
 ふ、と嘆息してベッドへ倒れ込んだシャノンは、そのまま目許を覆って唸る。
「次から次と、面倒ばっかり押し寄せてくるな」
 一体、何が起こっているのだろう?
 去年末から、魔素生物の当たり年が始まったことは確かだ。これから数年、不安定に様々な種が数を増やし、大移動宜しく、あちらこちらへ出現してくるだろう。
 これもヒトからすれば大変なことではあるが、そういう周期があるだけのことなのだ。それだけならば、対応を間違えなければ大したことではない。
 しかし、それだけだとは到底思えないあれこれが見え隠れしており、気味が悪いのだ。
誘う者(フェアブレッヒャー)に、宗主国……。何か起きてるのか?」
 世界図書館(ゲシヒテ)へは殊更に介入しようとしない宗主国だが、それ以外の吸血鬼をも見逃すつもりはないらしい。逸れ者は勿論、誘う者などはその最たる例だろう。シャノンがあれの存在を知ったのも、宗主国が行方を追っていたからだ。
 単に奴らが潰し合いをしているのなら、放っておけばいい。共倒れすることはないだろうが、双方弱体化くらいはしてくれるだろう。けれど、宗主国は英雄を追っているという。
 誘う者が自らを英雄と称することはない。何より、あれの存在を知る者も限られる。では英雄とは、一体何処から現れたのか。
「……考えても仕方がないな」
 ため息混じりに吐き出して、まずはすべきことを済ませるか、と起き上がったのだ。
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