第5話

文字数 1,617文字

 私が自身の過去や自殺の経緯を話している間、ファウストさんは黙って私の話を真剣な面持ちで聞いてくれた。そして、私が話を終えたとき彼はいきなりソファから立ち上がり引き出しをあさり始めた。彼は何か糸のようなものを持って再び、私の前に座った。
「よく話してくれましたね。次は僕の番ですね。僕の仕事内容とあなたをどうやって手助けするのか教えましょう。」
そう言うと彼は私の前に糸を見せて語りかけた。
「僕は心に負の感情を持つ人の悩みを聞いてあげて、その人の悩みを解決する仕事をしています。その糸はあなたの願いを叶えるアイテムです。金花さんは『赤い糸』の逸話を知っていますか?」
「はい一応・・・確か生まれた時からすでに結ばれる相手は決まっていて、その象徴として見えないけど、赤い糸が二人の左手の薬指に結ばれているという話ですよね」
「その通りです。しかし現実では生まれた時から運命の相手が既に決まっているなんて事はありません。ですが赤い糸自体は確かに存在するのです。それが今あなたに見せているこの糸です。この糸を使えば、運命の相手を自分で決める事ができるのです。」
にわかには信じられない話だった。これはいわゆる霊感商法なのだろうか?私はまた男にだまされたのだろうか?しかし彼の言葉にはこちらをだまそうとしてくる軽薄さは不自然なほど感じられず、確かな力強さと重みを感じた。
「とても信じられない話かもしれませんが、これは詐欺ではありません。事実、私はこの赤い糸をあなたに渡すのにお代は一切いただきません。あなたが私の話を信じてくれるのなら喜んでこの糸を差し上げましょう」
私はまだ半信半疑だった。そのため彼の話をもう少し聞いてみようと思う。
「ではこの赤い糸の使い方とルールについて話します。まずは使い方からです。最初に赤い糸を自分の左手の薬指に結びます。次に交際したい人の左手の薬指に少しでもいいから触れます。触れる事ができた場合、相手に好意を伝えます。すると、赤い糸は自動的に相手の左手の薬指に結ばれます。両者の中に赤い糸が結ばれると、糸を結ばれた人間は絶対に浮気せず、あなたを一途に愛し続けます。これが赤い糸の使い方です。次にルールです。赤い糸は基本他人には見えません。赤い糸の所持者もしくは、赤い糸を相手に見せたいと思ったときだけ、相手にも見えるようにもなります。現にあなたが赤い糸を見れるのはこのおかげです。最後に、もし赤い糸を結んだ相手と関係を解消したいと思ったときは、右手で自分の左手についてる赤い糸をほどいてください。しかしこれはあまりやらない方がいいでしょう。この赤い糸は強制的に相手との運命を結びつける道具です。本来、運命は簡単に断ち切れるものではありません。そのため赤い糸の効果を解除しても、何かしらの因縁というものはあなたと結びついたままになります。その因縁が良いものとなるのか、悪いものとなるのかは分かりません。決して軽々しい気持ちで赤い糸を使わないでくださいね。」
私は黙って彼の話を聞いて考えた結果、彼の話を信じてみる事にした。私はこの赤い糸を使って、絶対に裏切らない男を自分のものにしようと思った。
「分かりました。赤い糸を私にください。この道具を使って私は必ず幸せになってみせます」
「良いでしょう。ではこの糸をあなたに渡します。それと、言っときますけどこの糸の効果は僕には聞きませんからね」
やっぱりバレてたか。私もなんとなくそんな感じはしていたが、この糸で彼と関係を結ぶことはできないらしい。
「代わりに、今度のクリスマスに駅前の高級ホテルでパーティが開かれるそうですよ。そこで相手を見定めて、関係を結んでみるのはいかがでしょうか?会場が良いところなだけあって、イイ男がたくさんいるとおもいますよ」
良いことを聞いた。私は早速今度のクリスマスにそのパーティに参加し相手を探す事にした。私は彼にお礼の挨拶を述べたのち、事務所を後にした。
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