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 八の話しによると、後から渡したのは子供の練習用の筒だそうだ。矢が一定に横回転しやすいように中に渦があり、矢の先端がぶれることなく飛んでいくという。もともと矢自体も回転するように造られてはいるが、舞台では距離によって吹き加減を変えて回転を決めているそうだ。
 しかし、十一は思った。
「普通、横回転したら曲がっていくだろう。」
 確かに、回転数が多いと矢は曲がってしまった。しかし、回転数が少ないと風圧で先が持ち上げられ縦回転を始めた。
「芸人だって苦労してるんだぜ。」

 十一は古い銃を使って玉が横回転するように斜めの螺旋の溝をつけた。しかし、いくらゆっくり回転させようが丸い球は軌道をそれた。
 彼は玉を吹き矢のような円錐状の弾に細工した。しかし、結果は余計ひどくなった。先端が軽すぎて、速い銃の弾は空気に押され前後がひっくり返ってしまう。そこで、前半分を丸く、後ろ半分を棒状にしてみた。果たして弾はゆっくりと横回転しながら真っすぐ飛んで行った。まさにそれは、現代のライフルと同じだった。原理はずっと後の世になって解明されるが、棒状の後ろでは空気が渦を巻き、弾が縦回転するのを防いでいた。
 これならば、筒をより短くし、軽くすることができる。ただ、銃はできたものの手間のかかる滑らかな曲線の弾をつくる職人がいなくては実用にならない。
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登場人物紹介

猪熊 四五六(しごろく)

組討の使い手

十一の父

二三(ふみ)

剣術の使い手

十一の母

長い細身の背負い刀、長柄草刈刃を使う

十一(じゅういち)

鉄砲使い

オリジナル改造の種子島を二丁持つ

八(やつ)

見世物小屋の芸人

吹き矢芸

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