#1 プロット(※1128文字)

文字数 1,128文字

起)大分県杵築市(きつきし)。その内、人里離れた木々が生い茂る辺境の地。
そんなド田舎の高校に通い始めた常世 真示(とこよ しんじ)。何の夢も希望も趣味もなければ、もちろん彼女もいない。平凡が受肉したかのような少年だが、唯一特徴と言えばその家柄。
縫付神社(ぬいつきじんじゃ)。縁結び"ぶーむ"にあやかり改名。巫女の供元(くもと)として代々付合いのある珠照家(みでりけ)と共闘するも波にのれず仕舞い。今では何の御神体を(まつ)っているのか神主の父親でさえ覚えていない。仰々しくも哀れな神社。
そんな無駄に広い敷地の一応跡取りである真示は、夏休みだというのに蔵の整理にこき使われていた。

承)文句を垂れつつも素直に蔵のガラクタと戯れる真示であったが、迂闊にも転げて開けてしまった怪しげな古箱から飛び出した(あるじ)によって、そんな退屈で暑苦しい日常もついに終りを向かえてしまう。

『俗世の全てを焼き尽くす悪災に畏怖せよ! 我が名は――ぬあなんじゃこりゃあああ!!!?

などと(わめ)き散らす"赤い犬っころ"が突然宙に舞い出てきた。
手足は短く、体はずんぐりむっくり。威嚇してみせる目も米粒大。尾も申し訳ない程度で、どう頑張っても畏怖させようがない。
小腹の出たモグラ? イタチ? なんとも締まらない風体の、赤みがかった獣が曰く。失われた四大の力を取り戻さないと、(ふところ)の呪印で末代まで呪い殺されてしまうとかなんとか。

転)いつの間にか胸にできた奇妙な(あざ)に驚きはしたが、どうも胡散臭い。話し半分にあしらって床に就く真示であったが、突如、猛烈に痛みだす胸の痣。やけに鼻息荒い犬畜生に促されやってきた御神木の前。そして少年は大蛇のアヤカシと対峙する。

『さあさあ、勝てば(しがん)! 負ければ(ひがん)! 御魂賭けた一世一代の大博打!! 己が本能(いのち)の赴くまま、眼前の不浄(いま)をひっくり返してみせいっ!!

ご機嫌の自称邪神によって敷かれた光の土俵(けっかい)の上で、痛む胸から顕れた光り輝く円盤をもって、少年は理不尽との必死の戦に()を投じる。

結)投げ放たれた円盤は光の天槌となって大蛇を幾度もぶち、やがてその巨体を場外へと弾き飛ばす。
そうして事切れ土塊と果てたそれを、疲労困憊の少年に構わず(むさぼ)り喰らう小太りの(けだもの)が一匹。

『お主も我の腹に収まりたくなくば、精進するのじゃな……ゲップ』

その一瞬。死骸を頬張る化物の尾が二つに割け、目を光らせたように見えた。
それがこの犬畜生の本当の姿を、悪鬼羅刹がこの街を憑代(よりしろ)に原初の厄災を呼び覚ます目論みを、知る手がかりだったことなどその時の少年は知る由もなかった。

「(マジ食うのかよ……)てか、食いっぷりの良い割に、お前さん小さいのな……」
『だあれが豆大福じゃっ!! 我こそ悪名高き、かの犬神様なるぞ!!
「なんだ、やっぱり犬っころじゃん……」
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