第10話 オオカミと7匹のオオカミ男 後編

文字数 10,113文字

「いやあー、激しい戦いだったよね」

「本当に瞬きも出来ない戦い……勝った君たちはおめでとうだよ」
あれ? 語尾はどうしたんでしょうか? ははあ……成程ね……語尾を付けてしまえばどのチームが勝利したかが中編・狼人ゲーム 初日発砲無しルール 7匹部屋を飛ばしてここにいらっしゃった読者さん達にバレてしまいます。それを回避する為に敢えて語尾を我慢しているのでしょう。もしもどのチームが勝ったかを知りたければ

【オオカミと7匹のオオカミ男 中編】

を読むしかないと言う事なのでしょう。何とあざといオオカミ男達でしょう……もし気になってしまった方は中編を是非ご覧下さい!!!!

そんなのどかな7匹の時間を遮る様に、誰かが玄関のドアをノックし、言いました。

「子供たち? ドアを開けてグル? お母さんですよ。お前たちにいいものを持ってきましたグル」
しかし子供達は、お母さんの声を間違える筈がありません。全く別人のがらがら声で、それは野生のオオカミだと分かりました。

「戸を開けないガルよ。お前はお母さんじゃないガル。お母さんはもっと柔らかい感じの声をしてるんだガル! お前の声はがらがらだ。故にお前は野生のオオカミガル!」
とおそガルは言いました。

「し、しまった! これは別の作戦で行くグル」
オオカミは一旦立ち去り、お店に行きました。

「こんちは」

「いらっしゃい何の御用で?」

「これ下さいグル」

「まいどありいー」
オオカミは何を思ったか大きな石灰のかたまりを買い食べはじめました。すると?
なんと声を柔らかくすることに成功しました。

「あーあー♪ 何と言う柔らかさ! よし、これでいけるグル!」
それからすぐガル野家に戻りドアをノックし言いました。

「♪子供たちや、ドアを開けてグル。お母さんグル。お前たちに本当にいいものを持ってきたグルよ♪」
確かに美しい声です。しかし、オオカミは窓にうっかりと前足を乗せてしまいました。おそガルがそれに気付きます。

「フッ、ドアを開けないガル。お母さんの足はお前みたいに獣の様な手をしていないガル。お前はオオカミガル」
そうです。お母さんはオオカミ女なので、指は人間の様にしっかりとじゃんけんでもパーも出せる位に分かれています。オオカミの様にくっついていません。そこにあっさり気付かれてしまいました。

「鋭い……これは強敵グル……」
すると狼は何を血迷ったかネイルサロンに走って行き、

「俺の手を人間っぽい感じに変えてほしいグル」
と無理難題を言いました。そこまでネイルサロンは万能ではありません。

「ええ? これを?」
困惑しているのを見かね……

「もういいグル。ちょっとお前の娘を借りるグル!」

「あーれー」

「ちょっとお客さん! 娘を返してくださーい」

「借りるだけグル。必ず返すグル」

「分かりましたー」
ああ! オオカミはネイルサロン店で助手をしていた店長の娘を連れて行ってしまいました。何故オオカミ男を食べる為に若い娘をさらったのでしょうか? もうオオカミ男なんか食べずにそっちを食べたほうが良いのでは……ハッ不謹慎ですね。申し訳ございません。 
そして今度はノックしつつ言います。

「子供達? ドアを開けてグル? お母さんが帰ってきましたグルよ。お前たちに森からいいものを持ってきましたグル」
と言いました。

「お母さんかどうかわかるようにまず足を見せてガル?」
とおそガルは言いました。それでオオカミは窓から自分の手ではなくさらってきた娘の手を見せました。
成程! 人間の娘の手で誤魔化し騙そうと言うのですね? 賢いですねえ。
おそガルはそれが人間っぽい手をしているから本当だと信じてしまいました。ところが……

「確かに……でもちょっと綺麗すぎる気もするガルが……まあいいガル。じゃあ今から開けるガル……あれ? クンクン……あっ! お前はとっても獣臭いガル。本当はオオカミガル?」

「しまったグル」
オオカミはまた街に行きます。そして今度は香水専門店に行き、シャベルの5番を購入しました。

「まいどありい」

「全く、出費がかさんでしまうグル……」
そう言いつつがま口を開き逆さにしてみても、もう出てくるのは埃のみ。コイン一枚すら出てきません。とうとうオオカミは無一文になってしまいました。

「でもこれで完璧グル。あのオオカミ男達め……首を洗って待って居るグル! この俺が一匹残らず丸飲みにして超弱酸性の胃液でじっくり消化してやるグル」
シュシュ
そう言いつつ香水を振りまきます

「いい香りグル……ハッ自分に酔っている場合では無いグル。早く奴らを丸飲みにしなくては……」
そして何故か律儀に逃げずに待っていたネイルサロン店の娘の手を窓際に置きつつノックします。

「今度は本当に大丈夫だから開けて欲しいグル」
と、いいます。

「くんくん。うん、匂いは確かにいい匂いガル。それに手も間違いなくお母さんガル。分かったガル」
カチャ

おそガルはとても良い匂いに惑わされうっかりと鍵を開けてしまいます。
「あっおそガル? 本当に大丈夫なのかガオ?」

「落ち着いて下さいバブガル」

「ちょっと怪しいレジェンドウルフ」

「あれ? そういえばそうガル……お母さんはこんな高級な香水を使った事は無い筈ガル」
しかし途中でガル野家は母子家庭で尚且つ生活保護にも頼っていない貧しい家庭で、そんな高価な香水も使う余裕などは無いと言う事に気付きました。もしそんな高価な香水を買う金があるなら食料品に充てる筈です。なのでお母さんオオカミ女は普段は森に行き、食料を調達しているのです。

「しまったグル!(もっと安上がりで大丈夫だったのグル……勿体無い事をしたグル)でももう遅いグル!」
バン!
勢いよくドアが開き、お母さんとは全く違う凶悪なオオカミが舌なめずりをしながら家に押し入ります!!!
「うわああオオカミだあああああ助けてワオーン」

「怖いガオよおおおお」

「早く逃げなくては奴の弱酸性の胃液にじわじわと溶かされるバブガル……」

「隠れろ隠れろガウ」

「えーとえーと……ハッ( ゚д゚ )! あそこに逃げるガルン」

「どこか隠れるところはないかレジェンドウルフ?」
子供達は怯えて隠れようとしました。一ガルはテーブルの下に、十四ガルはベッドの中に、おそガルはストーブの中に、トドガルは台所に、チョロガルは戸棚の中に、カラガルは洗い桶に、後始ガルは時計の箱に、跳び込みました。

「馬鹿グルねぇ……みんなでかくれんぼグルかぁ? でもね? かくれんぼっていう遊びはね? 鬼が目を閉じている間に隠れるからかくれんぼなんだグルよ?w 鬼が見ている前で隠れるなんて……wwこれじゃあただ餌自身が自らお皿の上に移動して

「さあ、どうぞ召し上がれ」

と言っているのとおんなじだグルwお前達はとってもとっても馬鹿なんだグル! よおし! じゃあお望み通りっと……まずはお前からだグル!」
ガッ
「わああああ見つかったガルぅ」
パクッ 絶対に噛まないように意識を集中させて―の……パクッ、ごっくん

「うん、のどごし最高グル♪」

「ひいいおそガルが食べられたガオ……」

「僕なんて食べてもおいしくないガウ……」

「別に美味しい美味しくないなんてどうでもいいんだグル。オオカミはね? おまえの味などは一切興味ないんだグルよ? だって一切噛まないんだからね。お前が俺の食道を通る快感を味わう。それこそがオオカミ流食事法グル。それに餌が生意気に喋らないでほしいグル! あーん」
ごっくん
オオカミは次々に子供オオカミ男達を見つけてしまいました。そして、無造作に飲み込みました。しかし、彼の言う通り、全く噛んでいません。もうこれは芸術と言えるレベルです。普通食事は歯でしっかりと噛み砕き、細かくしてから飲み込みますよね? そうする事で味も楽しめ、更には胃腸に消化の負担を全て押し付けないようにも出来るのです。ですがオオカミ流食事法ですと、餌が一切細かくなっていない為に、消化の際に膨大な時間が掛かってしまいます。そして当然それに伴い胃腸の負担は絶大です。こんな食生活で大丈夫なのでしょうか? ですが、その為の超弱酸性の胃液なのでしょうか? そうです。敢えて消化を遅くして、長い事お腹に食料を貯めていると言う事とも捉えられます。
故に超弱酸性の胃液でじっくり消化する事で、長時間満幅の時間が維持され、

【一日一食でも大丈夫な状態を維持】

しているのでしょうか? そう考えると狼流食事法に学ぶ所もありますね。私達人間は、一日大体3食食べます。その度に台所に立ち、支度をする必要があるのです。そういった無駄な時間を短縮出来れば、浮いた時間で更に豊かな人生を送れる筈ですが、3回食べなくてはいけないと言う習慣が幼い頃からの記憶で当たり前になっていて、オオカミの様に1回で済ます事は出来ないでしょう。ですがオオカミは長時間体に残る様に幼い頃から噛まない技術を磨き、胃のみの消化で生活してきた。そういう事なのではないでしょうか? もしそうだとしたら、それ事自体はもしかしたらデメリットばかりではないのかも知れませんね。食料を長時間体に貯めて置く事で、相対的に人間よりも食料の消費を抑えると言う節約術にも繋がります。
そして更には咀嚼をしないと言う事は、歯垢が一切付かないと言う事ですね。そうです! オオカミは虫歯にならないのです! そういえば総入れ歯のオオカミなんてどこにもいませんよね? と言う事は歯が健康な生き物なんですよ。人間は食材を噛んだ時に発生する食べかすが、歯の隙間に貯まる事で虫歯が発生します。それならば噛まなければ良い。丸飲みにすれば良いと言う事でしょう。味など二の次で、消化なんか弱酸性の胃液を出す胃腸だけに任せれば良い。長い進化の過程で、

【丸飲み=至高】

と、言う結論に至ったのでしょうね。そう考えるととっても賢い種族だと思ってしまいますねえ。私達人間は歯ブラシと言う文明の利器を使用する事で虫歯を回避していますが、それも数分の時間が掛かってしまう。仮に5分で終わる作業だとしても毎日行うため

【365×5分の時間】

をオオカミ達よりも多く使用する事になります。対して彼らは、丸飲みと言う技術で歯ブラシを使う時間すらも必要なく、健康的な歯で無駄な時間を使う事無く効率的に繁栄して行ったと言う事でしょうね。確かに味が楽しめないと言ったデメリット以外目立ったデメリットがないですが、味が分からないと言うのはかなりのウエイトを占める重大な事なので、私達人間は丸飲み食事法はやらない方が良いでしょうね。
ああっと……いつの間にか話が逸れてしまいましたね。すぐさま戻します!

「助けてバブガル……」
ブルブル

「うーん確か7匹居たような気もするけれど、6匹でもう満腹グル♡」
時計の中にいた後始ガルだけが狼に見つかりませんでした。一斉に隠れた事が功を奏し、彼だけ見逃してしまったのでしょう。

オオカミは食欲を満たすと出て行き、外の草地の木の下で横になり、眠り始めました。

「グーガル グーガル……グーガルアースゥ」
PCで色々な地形を見る事が出来そうな響きのイビキをしながら、鼻ちょうちんを出して眠ってしまいます。
それから間もなく、本物のお母さんオオカミ女は森から帰ってきました。

「え? こ、これは? どういう事ウルフ?」
家のドアは開いていました。テーブルや椅子やベンチがなぎ倒され、洗い桶は粉々になっていて、キルトのカバーや枕はベッドから剥がされていました。しかし、部屋は荒らされているのに、一匹も子供が見当たりません。
お母さんオオカミ女は子供達を隅々まで捜しましたが、結局どこにも居ませんでした。
そして耐えかねて名前を呼びます。

「おそガルー? からガルー? 十四ガルー? 一ガルー? チョロガルー? トドガルー? 後始ガルー?」
子供たちの名前を次々と呼んでみましたが、誰も応えませんでした。とうとう一番下の子まで呼んだ時、

「お母さん、時計の中にいるバブガルよ」

「こんな所に隠れて……怖かったウルフ?」

「はいバブガル……」

「みんなは?」

「みんなオオカミに丸飲みにされてしまったバブガル。その後、どこかに行ってしまいましたバブガル」

「そう……ですか」

「グスッ……私……一人になってしまいましたバブガル……」

「ワ、ワオーン……ワオーンワオーン」
子供達を思い、お母さんは泣き出してしまいます。

「みんな……申し訳ないバブガル」

「はあ、はあ、もう涙も出てこないウルフ……後始ガル! 一緒に探しに行きましょウルフ?」

「はいバブガル」
二匹はひとしきり泣いた後、外に探しに行きます。一縷の望みに、そう、オオカミ特有の一切咀嚼せずに丸飲みにして胃の中でじっくりとその弱酸性の胃液で溶かす習性を信じ、まだ子供達は消化されていないんだ! と、言う事に賭けたのです。後始ガルも涙を拭きながら一緒に走ってきました。二匹はオオカミ特有の優れた嗅覚を頼りに、草地に辿り着きます。すると、オオカミが木の傍で寝ていました。そして、枝がゆれる位大きないびきをかいていました。

「あっ、あいつですバスガスバクハツバブガルくぁすぇdrftgyふじこlp;@:」「」
おや? 後始ガル珍しく緊張していますね。緊張し過ぎた結果、呂律が回らなくなってしまったのでしょうね。それもその筈です。憎きオオカミが、兄弟を丸飲みにした宿敵が、のんきに昼寝をしているのですから……誰だってこうもなりますよ。

「お、落ち着くウルフ」

「す、すいませんバブガル」

「寝ているウルフ? もしかして今こそがチャンスウルフ?」

「はい! ですが油断せずに近づくバブガル」
そーーーー
慎重かつ大胆に近づき様子を伺います。

「グーガル グーガル グーガルアースゥ」
ユラユラ ユラユラ
そのいびきの勢いの強さに、木の枝がへし折れそうです。やはり童話のオオカミは総じて肺活量が尋常じゃないのですね。
そしてよく見てみると、狼のふくらんだお腹の中で何かが動いてもがいています。
モゾモゾ モゾモゾ

「あああれはもしかして? 神様、奴が丸飲みした子供達はまだ生きてるかもしれないのですかウルフ?」

「確かに動いてるバブガル!! これはみんなまだ生きてるかもしれないバブガル!」
ダダダダダ
それから、後始ガルは走って家に帰り、鋏✂と針と糸を取って戻ってきました。ハサミは分かりますが糸と針? 一体何に使うのでしょうか? 
「お母さん! これをバブガル!」

「任せなさいウルフ!!!!!!」
しかし以心伝心。それを手にするやいなや、お母さんは作業に移ります。そうです! オオカミのお腹をハサミでチョキチョキ切り始めました。
チョキチョキ
「グーガル グーガル グーガルアースゥ」

あれ? お腹を切られているのに一切動じていません。もしやオオカミ、深い眠りと言われているノンレム睡眠中ではないのでしょうか? 沢山の子供を食べ、深い眠りに就いている。だからこそ切られてもそんなに痛くは無いと言う事なのでしょうか? そして、一つ切り口を作るやいなや、おそガルがグィッと頭を突き出しました。

「ああっ助かりましたガル……はあはあ……」

そして更に切っていくと、残り5匹の子供達も次から次へと跳びだしてきました。
みんな生きていて、それどころか全然怪我もしていませんでした。と言うのも童話のオオカミの習性でもある、

【一切咀嚼せずに飲み込む事で、素材特有ののどごしを楽しみ、超弱酸性の胃液でゆっくりと消化する】

と言う

【童話特有狼食事法】

のお陰で無傷だったと言う事ですね。

「助かったガオ」

「ありがとうガウ」

「母さんありがとうワオーン」

「油断したガルン……」

「怖かったレジェンドウルフ……」

「一人だけ逃げのびてしまい申し訳ないバブガル……私の不徳の致すところバブガル」

「何言っているんだ後始ガル! 君が巧い所に隠れてくれたお陰で皆が助かったんだガルよ」

「そうだガオ! 胸を張るガオ!」

「そうですよ後始ガル! あなたが状況を知らせてくれなければ間に合わなかったかもしれないウルフ」

「ううっありがとうございますバブガル……」 
そして子供達はお母さんに抱きついて、涙を流し喜びます。
しかし、お母さんオオカミ女の怒りはまだ治まっていません。

「さあ、勇敢なガル野家の男達なのです。涙はもう拭きなさいウルフ」

「そうですよね……涙なんかオオカミ男には似合わないレジェんドウルフよね」

「そうでしたガル……グスッ」

「もう二度と泣かないバブガル」

「一切泣いてなんかいないガルン……グスッ」

「その意気ですよ。じゃあみんな! 大きな石を探して来てウルフ。眠っている内にこいつのお腹を石でいっぱいにするウルフよ! そうしないとまた腹ペコになり、私達を探し回る事になるウルフ」
成程。糸と針はその為のツールだったと言う事でしたか……

「成程! 石を僕達の代用品にするんですね? 分かったガル」
ダダダダダ
それから七匹は大急ぎで石を集めます。そして、狼のお腹に詰め込めるだけ入れました。
切り裂いたお腹の中に石を詰め詰め 切り裂いたお腹の中に石を詰め詰め 

「これ位ウルフね」
切り裂いたお腹の中に石を詰めたのを確認してから―のお腹縫い縫い 切り裂いたお腹の中に石を詰めたのを確認してから―のお腹縫い縫い

お母さんは大急ぎでお腹を縫って閉じました。
「よしおしまい! 後はこいつが起きるのを見守ろウルフ」

「はいガル」

「はいガオ」

「はいガウ」

「はいワオーン」

「はいガルン」

「はいレジェンドウルフ」

「はいバブガル」

「グーガル グーガル グーガルアースゥ」
それでもオオカミは何も知らず寝ています。オオカミ男達の作業中も微動だにする事もありませんでした。
フーム。流石の防御力ですね。

「中々起きないウルフねえ」
ーーーーーーーーーーー数時間後ーーーーーーーーーーーー
「もう家に帰ろうバブガル?」

「もうちょっと待つウルフ」

「はいバブガル」
すると……十分眠ったようで、とうとうオオカミは起き上がりました。

「ふあぁー 寝たグルねえ。……始めはいい夢を見ていた筈グルが、途中でお腹をハサミで切られて石を詰められるような夢を見た気がするグルが多分気のせいグル。よく寝たせいか脳が活性化しているのを感じるグル♪」
睡眠は脳を活性化させる効果があります。他にも沢山の恩恵があるのです。その時間を潰してまで勉強や仕事をする事は推奨出来ません。中には4時間でも十分だよ! と言うショートスリーパーの方もいますが、最低でも7時間は寝た方が良いのです。

「ん? なんか喉が渇いたグル……そうか、眠っている間にコップ一杯分の汗が出るという噂を聞いた事があるグル。じゃあ川に行くグル」
とことこ ゴロゴロ とことこ ゴロゴロ

「あれえ? 歩く度にゴロゴロ言っているグル? しかもなんか体も重いし……まああれだけの数を丸飲みにすれば重いのも当然グルね。
じゃあ早く川に行くグル」
そして川に着き、水を飲もうとかがみこむと、

「さて、水をいただきまああああああああああれええええええ?」
ボチャン
重い石のため水の中に落ちて、惨めにも溺れるしかありませんでした。
一匹のお母さんオオカミ女と七匹のオオカミ男達はそれを見て

「オオカミは死んだガル、オオカミは死んだガル」
と大声で叫び、喜んで、お母さんと一緒に川のまわりを跳ね回りました。

「ふうすっきりしたウルフね! ところでどうして扉を開けてあいつを入れてしまったんだウルフ?」

「ああ……それは、それだけは言いたくありませんガル」

「いいえ。これは言わなくてはいけませんウルフ」
お母さんは全てを見透かすような瞳でおそガルを見つめます。

「うう……分かりました……あいつ、だみ声で、森で取ってきた良い物をあげるグル。と言ってきて、ノックして来たのです。
それを奴のガラガラ声から見事見抜き、追い払ったのです。そうしたら、次は声をお母さんそっくりに変えて戻って来ました。それでも窓から見えた奴の手が毛むくじゃらの黒い手だったので、お母さんではないと見抜いて追い払いました。それでも諦めずに次に奴が使った作戦は人間の替え玉を利用し、綺麗な手で騙そうとして来ました。ですがそれにも騙されず奴の臭いを見抜き、追い払ったのです。そうしたらとてもいい匂いに変わっていてうっとりしてしまいうっかりと開けてしまったのですガル」

「待って下さいウルフ? グル? あなたは根本的なミスをしてしまっているウルフ」

「はい?」

「よく思い出しなさいウルフ」

「分かりません」

「語尾です」

「え? 語尾?」

「そうです。私は言葉の最後に【ウルフ】と付けているウルフ? ですがそのオオカミは声色や姿や臭いを変えても語尾はずうっとグルだった筈ウルフ?」

「ああっ!! そうです。き、気付かなかった……そんなトリックが……」
いいえ。トリックではありません。

「うっかり者ですね」

「ですが母さんはオオカミが変装する事と、だみ声と、獣臭いと言う情報しかくれなかった筈ガル!」

「そうでしたね。それは確かに私も抜けていたウルフ。ですが、これからは相手の話を最後まで聞き、更には語尾にも注意を払う事にするウルフ。そうすれば騙される事はもう無くなる筈ウルフ」

「はい、勉強になりましたガル。しかし、もしも語尾を使わないキャラクターの場合はどうするんだガル?」

「へ? ……その時は諦めましょウルフ」

「ズコーガル(T_T)」
こうしてガル野家に新たな家訓が追加されました。それは……

【他狼ひとの話は最後まで聞く。当然語尾にも気を付けて】
です
めでたしめでたし

「はいおしまい!」 

「88888888意外とよかったね」

「そうね。一旦寝ましょう……夢に出てきませんように……」

「何の話?」

「いいえ、何でもないわ……」

「話に出てきた狼人ゲームやりたい! ママ発明して!」

「いやいやw メンバーとルールがあれば出来るでしょw」  

ーーーーーーーーーーーーーーー翌朝ーーーーーーーーーーーーーーー

「ママおはよう……あれ? どうしたの?」

「おはようアリサ……はー……案の定大量の文字が追いかけて来て私、子供みたいに泣きながら逃げていた夢を見たわ……」

「トラウマになっちゃったんだねー。でもお話ってすごいよね……たかが文字の羅列と挿絵だけなのに、それを見ただけでも笑ったり怒ったり、時には涙したり緊張で汗が出てきたり……それにママみたいに夢にまで出てきたり」

「そうよね……」

「おはようみんな! 今日は麻薬組織本部に殴り込むぞーうおーーーー」
初登場のパパの様ですね。何か気合いが入っていますね……麻薬組織? 穏やかじゃないですね……どんな仕事なんでしょう?

「あら? パパもう出かけるの」

「そうさ! 麻薬組織の本部を昨日推理で特定してさ、そこに朝一で乗り込むんだ。じゃ行ってきまーす!」
推理? この人は探偵でしょうか?

「そうなの? 行ってらっしゃーい頑張ってね――」

「はいっ!」
ダダダダダ

「あのハゲオヤジ輝いてるわねえ。二つの意味で」
アリサちゃん? 今読者さんにお父さんがハゲている事がバレてしまいましたよ? そんな余計な事は言う必要はないのですよ?

「こら! パパでしょ?」

「ハゲた父親なんだからハゲオヤジよ。だってハゲパパとは絶対に言わないでしょ? 違和感しかないし」

ママ「それでもパパ! これからはハゲパパと言うニューワードを私達から世界に広めていくのよ」
広めなくていいです。

アリ「オヤジ」

ママ「パパ!!」

アリ「オヤジ!!」

ママ「パパ!!!」

アリ「オヤジ!!!」

ママ「クッ……この頑固オヤジが」

「こんな女神をオヤジ呼ばわりするなんて酷い」

「ちゃんとパパと言えばいいのよ」

「それは嫌。あっそういえばおなか減った。朝ごはんまだ―?」

「あっ! アリサ! 禁止! 朝ごはんピーだー? よ! 早く言い直して! 光の速さで!」

「ちょw」

「笑って誤魔化してもあかンデ! 早く言い直す! モラルに反しますよ?」

「朝ごはんピーだー? ……あっ! ピーピーもだよ! モラルに反しピーすよにいい直して! お願い! この通り!」

「あっしピーった! モラルに反しピースよ?」

「合格!」
「合格!」

「こら! アリサまで言わない! 合格! は、初めに指摘した側のみの物なんだからね?」

「そんなルールないよwwwでも、ママの今の奇妙な一連の行動を引き起こした原因は分かるよ。
人間って、読んだお話の影響は気付かないにせよ少なからず受けていると思う。
その一冊一冊が【私】を、そしてママを作っているなって感じるから」

「分かるわ」
確かにそれは同意です。人と言う生き物は、逆に言えば教えてもらった範囲でしか行動出来ないとも言えます。
自分の頭だけで新しい事をすると言う事は本当に難しい事なのです。故に人生は良い情報をいかに早い段階で取り込めるかで変わると言う事は間違いないでしょう。そしてそれは義務教育のみでは得る事が難しいと言う事もなんとなくですが感じますね。だから学校で教えていないような内容の本を読み続ける事は、より良い人生に向かえる有効な手段の一つだと私も感じますね。
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