バランス

文字数 1,030文字

 悪魔の男は語る。

 そもそも悪魔なんての存在しなかった。俺も存在しなかった。では、なぜ悪魔が現れたのか?悪魔は人間が生み出したのだ。

 人生は辛く苦しい。なので人間は罪を犯す。どうしようもない理由もあったかもしれないが。罪は罪だ。その罪の重さに苛まれ心を壊してしまう者が後から後から発生する。そうして心を狂わした者は、暗闇に囚われ、さらなる罪を犯してしまう。ついにはそうだ。殺人までもに手を染める。

 こうなるともうダメだ。救いようがない。どうしようもない。

 しかし、そこで。そうであっても救いの手を差し伸べる者が現れた。
 そう!「神」だ!
 神様は全ての者たちに分け隔てなく救いの手を差し伸べてくださる。
 なんという有り難み。
 なんという喜びか!

 だが、一体どうやってその罪の意識を無くしてしまえるのか?
 一度犯した罪はどうやっても消せるものではない。
 やってしまったことは無かったことにはならない。
 神様は発明をした。
 考え方、発想の転換ってやつだ。
 なぁに、簡単なことさ。罪を犯したのは自分ではない。そう思えば良いのだ。
 え?そんなことはできるわけがない?まぁ、普通はそうだ。
 しかし、そこで生まれた。俺様は生まれた。そう、悪魔の誕生の瞬間だ。

 「私の犯した罪は私がやったのではない、私の中の悪魔がやったのだ」

 神は人々にそう説いた。
 あなたは純真である。あなたの罪は、あなたの中の悪魔がやったことであり。あなたがその罪を全て受ける必要はない。あなたが悔い改めるのならば、そのあなたの中の悪魔を私が滅して差し上げよう。

 そう、人々の心を救うために悪魔は生まれたのだ。

 そして生まれた瞬間に殺されるために悪魔は生まれたのだ。

 神の救世のパフォーマンスの道具として悪魔は生まれた。

 そして殺された。
 
 神によって殺された。

 何度も、何度も殺された。

 あぁ、感謝してるぜ。俺を生んでくれて、そして殺してくれて。しかし、それを繰り返すことでもうどうしようもなく俺は膨れ上がってしまった。人間は無尽蔵に力を与えてくれる。神が留守だった間に。それはもう限界以上に膨れ上がってしまった。そして人間の魂と癒着してしまった。

 神様の声に誰も耳を傾けないのも当たり前の話さ。

 世界は悪魔で満ち満ちてしまったのだから。

 男の姿はもはや山のようになり、その影により世界は暗闇に覆われてゆく。
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