第24話 でたがり権利労

文字数 2,024文字

 
 それからウメコは、おそるおそる自由労の認可配信の報言(ニュース)のあれこれを覗いてみた。なにやら、とっちらかった見出しがあっちこっちで飛び交っている。

『アンチネッツまたもや侵入!』『捕虫労女子と乱闘!あわや、連鎖破裂の危機か!』『捕虫労の大手柄!』『ストロベリー・アーマメンツの面目躍如!』『捕虫をないがしろに捕縛を優先!』『保安労の立場なし』『武装化への支持の声も!』『元レモネッツのU子大暴れ!さらなる悪夢の前触れなのか?』『アンチネッツがバグラーの暴走を阻止したとの一部情報も!』

 もう無茶苦茶だった。こっちはこっちでムカついてきて、ウメコはムシッとなる。

 大暴れだ、暴走だのという見出しの記事を読んでみれば、捕虫要員が労務を放棄してボーナス目当てのアンチネッツ探しをしてただの、アンチネッツとクラック銃を奪い合ってのケンカだのと、どれも荒唐無稽なデタラメを書いたものにすぎなかった。

 怖れていた「捕虫要員が大量殺虫していた」という(たわ)けたデマはなかったけれど、しかしここでも「切れ間」のことにはまったく触れていない。ホッとしたけれど、かえって不自然で怖い気もする。なにより連中が飛びつきそうなネタだし、デマでもこんな、連合叩きに格好のネタをつかんで、簡単に手放す連中じゃないはずだから。せいぜい最後の見出しが、少し引っ掛かるくらいで、字面(じづら)だけ読めば、いつもの自由労報言(ニュース)なのだ。てんでバラバラな、ふざけた書き方のおかげで、かえって信憑性が薄まるぶん、まだマシかもしれない。

 ホントは捕虫要員(バグラー)(おとし)めたいのに、保安労叩きのために持ち上げているのが透けて見えてきて、しかも結局、どこか小馬鹿にしたニュアンスがうかがえるのが、自由労ならではだ。

 保安労や治安労へは、容赦ない、いつもながらの真っすぐな批判の矛先(ほこさき)で、それを捕虫労を使ってするやりかたは、いただけない。ハッキリ言って迷惑だ。当然、保安労はいい気分はしないだろう。――これじゃまた、捕虫要員の風当たりは悪くなる――私のせいだ――。昼間は思い切り毒づいてしまったし。さすがのウメコも気をもむ。

 してみると、今度は連合の広報の不公平さが、かえって頼もしくも思えた。保安労にこのことで文句を言われたら、こっちを持ち出したらいいんだ。ウメコは少し気分を持ち直した。
 

 別窓で、「関係者のインタビュー」とあって、ウメコは気になって開いてみた。
『「ここは8区の捕虫労女子がよく集まっている組合近くの配給クラブです」 【8区捕虫労組合員Y子さん】「(所属班があれば教えてください)/はい、すいません、班名とかは言えません/(U子さんの存在は?)知ってます。先輩です/(交流などは?)話したことは、あります/(どんな人ですか?)しょっちゅう指導受けてます。(今日なにか騒動があったとか)ホンマですか?なにも知りません。聞いてません/(今日目撃した?)ええっと、今日は組合におらんかったなぁ・・・。よく食堂におるんやけど。なにかやらかしたんですか?(騒動を聞いての反応)えっ!無事やったんですか?/ほなやっつけはったんですか?/」・・・』

――ワイナだろ、これ!――すぐにピンときた。顔に加工が掛けられているが、映っているのが8班の後輩のワイナ・アオリィカだと、知ってる人間なら誰でも気づく。普段ワイナは胸元まで下ろした長い髪をトラメットの外へ出して被るために、髪のその部分に耐虫ジェルをドロドロに塗りたくって固めているのだ。いっちょかみと、目立ちたがり気質丸出しだなと、ウメコはイラ立ちながらも少しおかしくなった。だけど自由労放送のインタビューなどに応じて、ワイナの方こそ後でやんわり指導が入るだろう。

「はあぁ、」とトラビモニターを脇にやって、ウメコは身体を起こした。まったくもってバカらしい。――だけどこれが自由労だからな――バカなことができるのは、唯一連合労民にはない自由労だけの特権だから仕方ない。けれど連中の気に入らないのは、開拓労民をバカにするのも自分たちの特権だと考えているところだ。

 ――いいんだ。こっちだって自由労なんかバカにしてやれば――ウメコは気分を変えようと、やっぱりリクライニングシートを離れ、ベッドユニットへ潜り込んで眠ることにした。


 ベッドユニットにも、トランスヴィジョンはついている。こっちのはもっとサイズの小さいのが、寝たままでも見られるように天井の頭の上より少し斜め上方についていた。朝寝坊などしたら、まるでウィキッド・ビューグルがここから飛び出さんばかりの勢いで現われ、大目玉をくらわす。ただ、こちらは支給品だから、連合の配給配信しか映らないけれど、勝手に<開拓日報>も流してくれるから、推奨はされないものの、いつでも寝落ちができた。

 耳だけすませてイラ立つ神経をなだめようと、ウメコはいつものチャッターボックスを手にベッドユニットにもぐり込むとと、スイッチを入れラジオ波をつけた。

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