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エピソード文字数 734文字

 あたしは黒い口紅を唇に塗る。
 多恵はギョッとした眼差しで、あたしを見つめた。

「まるで黒鬼でござりますな」

 美濃から譲り受けた斎藤家の短刀と、美濃の切り落とした髪の毛を和紙に包み、内ポケットに忍ばせた。

「多恵、真剣ではなく木刀を持って来てはくれぬか」

「刀ではなく、木刀でございますか?それでは敵と戦えませぬ」

「敵を倒すには、木刀で十分だ。俺はもう人を殺めない」

 合戦で自分の身を守るために、あたしは刀を奮い敵陣に乗り込み人を殺めた。

 赤き血に染まり、あたしも信長と同じ鬼になった。

 でも、もう誰も殺さない。

 髪を後ろに束ね、ポニーテールにする。

 多恵は直ぐさま木刀を用意し、あたしに差し出した。

「紅殿、上様の後を追われるのでしょう。馬の用意もして参りました。どうか、ご無事で。多恵は安土城にて、上様と紅殿のご帰還を心よりお待ちしております」

「ありがとう。これが最後の(いくさ)だ。俺はこの戦が終わったら、上様の側にお仕えし女として生きる。その時は、宜しくな」

「まあ、それは素晴らしい。紅殿は美人ゆえ、美しいお方様となられるでしょう」

 あたしは多恵に笑みを浮かべ部屋を出た。

 あたしの風貌に、侍女や家臣は目を見開き道を開けた。(うまや)には1頭の白馬が柵に繋いであった。

 あたしは白馬に跨がり、手綱を掴む。

 信長の行き先はひとつ。
 歴史書通りなら、本能寺しか考えられない。

 ポツポツと小雨が落ち、あたしの髪を濡らす。

「行くぞ!」

 白馬を走らせ、信長の後を追う。

 ――美濃……。
 あたしもすぐに行くよ。

 だから……
 光秀の謀反を食い止めて。

 決して、死に急がないで。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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