月読

文字数 1,096文字

 神沢優はとっさに後ろに跳んだ。
 その判断がなければ、彼女の上半身は黒虎(ブラックタイガー)の爪の餌食になっていただろう。
 
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」

 いったん着地して再び後に飛びながら、九字の呪文と印を結び、道術を発動させる。
 九字護身法(くじごしんぼう)と呼ばれるものだが、元々、道教の六甲秘呪(ろっこうひじゅ)という九字の作法が修験道に流れ込んで統合されたものである。

「――五色龍の術!」

 サイバーグラスを外した神沢優の右目が翠色(みどりいろ)に輝き、五色の龍のひとつの<土龍>を生み出し、アスファルト製の防御壁が彼女を護った。
 秘密結社<天鴉(アマガラス)>の異能の系譜にひかり姫と呼ばれる存在がいる。
 四国の讃岐(さぬき)女木島(めぎじま)、鬼が島とも呼ばれている島に渡り、ひとりで都の軍船数隻を撃破したとも言い伝えられ、その力が解放されれば一国を滅ぼすとも言われていた。
 神沢優はその血脈の末である。
 それは邪馬台国から大和朝廷に受け継がれた<日巫女(ひみこ)>の鬼道(きどう)の力でもあった。

「玲奈ちゃん、逃げて!」

 神沢優の声は聞こえていたが、秋月玲奈はダメージの蓄積でうずくまり動けなくなっていた。
 アスファルト製の防御壁を気の力で強化しているが、黒虎の攻撃は凄まじく、あまり長い時間持ちそうもなかった。
 
 ついに、黒虎の一撃が防御壁を砕いた。
 その勢いで玲奈に殺到しようとするが、神沢優は背中の七支刀(しちしとう)を抜いて、黒虎を両断しようとする。
 が、黒虎の皮膚は硬化して刃が通らない。
 優はそのまま後ろに吹っ飛ばされる。
 うずくまったままで無防備な秋月玲奈に黒虎の凶悪な爪が突き刺さったように見えた。

 だが、黒虎の爪は空を切る。
 不思議なことに玲奈の身体が黒虎の前から消えていた。

「おまたせ、優。月読波奈(つくよみはな)、只今、到着したよ!」

 新宿の高層ビルの上から漆黒のゴスロリファッション姿の少女がパンツ丸見えで腕組みをしている。
 偉そうな厚底ブーツに牛乳瓶の底のようなメガネをかけたブスである。
 素顔は美人だけど。
 隣にぐったりとして倒れている玲奈の姿があった。
 秘密結社<天鴉(アマガラス)>のもうひとつ異能の系譜、月読命(つくよみのみこと)の<時空眼>の力であった。





(あとがき)

 月読命ことモグラ男とひかり姫の物語。

モグラ男と、ひかり姫 作者:坂崎文明
https://ncode.syosetu.com/n1458by/ 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

風森怜(かざもりれい)

女子プロレスラー神沢勇の付き人、新人プロレスラー。
最弱女子プロレスラーで通称トマ子。
由来は悪役レスラーによく頭を割られてるため。
一応、主人公。 

神沢勇(かみさわゆう)

天才女子プロレスラー。
数年前、相手レスラーを怪我させてしまったショックから不遇の時を過ごしていたが、美少女アイドルにして秋月流宗家の秋月玲奈との格闘技エキビジジョンマッチで復活する。

神沢優(かみさわゆう)


神沢勇の姉。公安警察、秘密結社<天鴉(アマガラス)>のリーダーでもある。
満月の日に新宿に出没する人狼を秘かに退治している。 

秋月玲奈(あきづきれな)


元美少女アイドルだが、秋月流柔術宗家でもある。
女子プロレスラー神沢勇との格闘技エキビジジョンマッチで秋月流柔術を繰り出しアイドル引退中。
公安警察の神沢優と共に人狼退治に協力している。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み