第16話 横断歩道の分岐点
文字数 926文字
クローブは3日前、母にメールをした。
「1か月くらい前から幻覚を見ます」
母から心療内科のアドレスが送られてきた。
母:今度の土曜日11時にカウンセリング予約入れたから。最優先で行ってきなさい。
土曜日当日。心療内科はバスで45分のところだった。
バス停まで来たクローブ。
憂鬱な顔で、バス停でたたずむクローブ。
そのとき、誰かからふいに声をかけられる。
クローブが顔を上げると、近くの横断歩道に交通安全の旗を持ったお爺さんがいた。
お爺さんは胸元から州国公務員手帳を見せる。
名前はホウジ。脳機能研究センター所属と児童福祉民生委員の肩書き。
君の場合、病院なんかに行ったら、せっかくの才能が消えてしまうよ。
適当な病名をラベリングされて、適当な薬を処方されて、幻覚は治まるだろうけどね。
君のような磨けば光る原石が、石ころに変わるのは国家の損失だなあ。
お爺さんは脳機能研究センターの名刺をクローブに渡した。