第16話 横断歩道の分岐点

文字数 926文字

クローブは3日前、母にメールをした。

「1か月くらい前から幻覚を見ます」


母から心療内科のアドレスが送られてきた。

母:今度の土曜日11時にカウンセリング予約入れたから。最優先で行ってきなさい。



土曜日当日。心療内科はバスで45分のところだった。

バス停まで来たクローブ。

(バスが来るまで、あと15分か)
憂鬱な顔で、バス停でたたずむクローブ。
(お母さん、私がどんな幻覚を見るのかは聞かなかったな)

(単なる思春期の悩みとでも思っているのかも)


(そういうんじゃなくて、実際に肌で冷気を感じるくらいリアルなのよ)

そのとき、誰かからふいに声をかけられる。


クローブが顔を上げると、近くの横断歩道に交通安全の旗を持ったお爺さんがいた。

ちょっとそこの君、すごいものを背負っているね。
え?
君、このままでは、流氷に落ちて凍え死ぬよ。
私に言っているの?
君以外にいないだろう。


私はこのエリアのスカウトマンだ。

君は自分の才能をスキルとして昇華しないと、病むよ。

お爺さんは胸元から州国公務員手帳を見せる。


名前はホウジ。脳機能研究センター所属と児童福祉民生委員の肩書き。

私はこういう者です。
……私、流氷の幻覚を見るから、これから病院に行くのよ。
君の場合、病院なんかに行ったら、せっかくの才能が消えてしまうよ。


適当な病名をラベリングされて、適当な薬を処方されて、幻覚は治まるだろうけどね。

君のような磨けば光る原石が、石ころに変わるのは国家の損失だなあ。

(なんだろう、このお爺さん胡散臭い)

まあ、病院に行って才能を手放して、楽な道を選ぶのもいいかもね。

才能というのは一種の病気だから。


才能を武器として自分を鍛錬するか、才能を捨てて楽に生きるか、選択するのは君自身だよ。

(自分の才能ってなに?)


じゃ、じゃあ、どうすればいいの?

君は賢いね。話が早くて助かる。

前にスカウトしたヤンキーの子も話が早かったなあ(笑)


ここへお行きなさい。
お爺さんは脳機能研究センターの名刺をクローブに渡した。
州国運営の公的な機関だ。

州立防災技術開発大学校と連携している。

自分特有のスキルを磨き、そして発揮し、州国に貢献できるよう、22才以下の若者達が研修を受けているんだ。


まだ警戒している?

いかがわしい組織ではないよ(笑)

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