スプラッターロマンホラー サメクマ

クマ ~大地より出でし獣の王~

エピソードの総文字数=18,824文字

話者

フランツ・クサーヴァー・フォン・ハイゼ(Franz Xaver von Heyse)

種族:クマ(ヒグマ) 性別:雄 所属:楢蜜騎士団(大将校)
体長:214cm→可変 体重:
成体ヒグマの平均体重よりは明らかに軽い→可変
特記能力:容貌自在ヒト擬態、クマ体臭変更、
クマ計算力、クマ記憶力、標準より高いクマ脊力、クマ脚力、クマ反射神経、クマ動体視力およびクマ再生力

楢蜜騎士団東海支部の支部長。ドグマ防衛組合の領域である関東においても怯むことなく着実に人間やクマの保護活動に邁進する豪傑。人間擬態時の容姿を自在に変えられる特性を生かし、抜き打ちで騎士団のメンバーを査定したり、敵対組織に妨害工作を仕掛けたりする。
基本的に飄々とした態度を崩さないが、知的生物の尊厳を踏みにじる者には容赦なく急所攻撃をお見舞いする。
敬虔なカトリック教徒であるが、オカルトや民間信仰にも造詣が深い。

姜泰元(Kang Taewon
種族:クマ(ツキノワグマ) 性別:雄 所属:楢蜜騎士団(将校)
体長:163cm→本来の姿と同じ 体重:志村よりわずかに重い→志村よりわずかに軽い
特記能力:ヒト擬態、部分的擬態解除、クマ抗菌力、クマ脱臭力、クマ芳香、クマ撥水力、標準より高いクマ動体視力およびクマ嗅覚

高校生。女装の美少年。檀君傍系の子孫を自称する韓国の上流階級グマ「タングンジェ(檀君弟)」の中で、明治期に大阪に定住した氏族の末裔。
彼は人間に擬態している時の方が肉体的・精神的に安定しており、完全に擬態を解くと戦闘能力が格段に向上するが、同時に好戦的・嗜虐的な精神状態になる。また、O市散発占拠事件のさなか志村の血を舐めたことで軽度の人血依存症になってしまった。
普段は優しく穏やかで、しかし正義感に満ち溢れた熊物。志村とは、中学生時代に同級生からの暴行恐喝から助けて以来の恋仲。

知られざるクマ真実
BGM:甘茶の音楽工房『アントワネットの庭』
http://amachamusic.chagasi.com/music_antoinettenoniwa.html
陸上哺乳類の中でもことさら大きな体躯と強い筋力。短い尾。太くて短い四肢。冬眠。イヌの7倍の嗅覚。多くの人間が知る我々は、まあこんなものだろう。
だが我々クマはただの獣じゃあない。人間が考えているよりももっととてつもない暴威を振るうことができるのさ。
はっきり言ってしまおう。食肉目クマ科の動物は人間と同じか、やや低い知能指数を持った知的生命体だ。言葉や道具を『使わない』ことを選択した我らが同胞は、そう生きる方が自分に合っていると思っているからそうしているのだ。
では、言葉と道具を『使わない』という選択肢を『選ばなかった』者はどうしたか?
人間の歴史を築いたのは人間だが、人間の歴史を裏で動かしたのはクマだ。クマは人間に化け、人間の支配階級にいつの間にか入り込み、自分たちに都合のいい環境を日々作り出してきたのさ。
……もっとも、こういった見方も、クマに慢性的に蔓延している根拠のない全能感ゆえの傲慢であるかもしれんがね。人間からすると、我々は寄生虫かもしれない。我々の筋肉に潜む旋毛虫のような。
いつからか知らんけどユーラシアと北アメリカの文明に確実に入り込んでますよね僕ら。
大熊の妖精カリスト、檀君神話、熊皮の戦士ベルセルク、アイヌの生贄儀式イオマンテ、テディベアの流行、ルーマニア東部コマネシュティのクマ祭り、ロシアにおける熊の真の名前が抹消された事実――現在のロシア語では「蜂蜜喰らい(メドヴェーチ)」と呼ばれてますね、そんなん全部クマが人間の歴史に干渉してきた痕跡なんですよね。
あー、ただねえ、スラヴの人狼伝説、あの正体て実は人間に擬態できるクマを人間が「狼に変身できる人間だ」と誤認したのが原因てほんまですか?真実を隠すのにちょうどいい目くらましやから、そのまんまにしとるて。
ボクはそれ確たる資料もないままクマがそう盲信してるだけやと思いますけどね。狼男がほんまにおらんやなんて、ちょっと浪漫がないというか。
せやけど、街で暮らしとうてもでけへんクマも多分おりますやろ?人間に擬態でけへんクマもおるやろし、人間が平気な食べ物が毒になったり、バイオリズム的に冬眠せな生きられへんクマもきっとおります。
いや、みんなできるよ。いいかい、クマが人間の中で暮らすことは一定の修業をすれば可能なんだ。知らなかったクマも、他所からのクマのネットワークからその方法が遅かれ早かれ伝えられる。
まず、クマ健康法というものが4世紀ごろにシベリア中央で確立し、10世紀ごろにはユーラシア全域に伝えられた。北アメリカにはヴァイキングを通じて周知されたよ。
この健康法の実践者は人間の食う毒草を自らの血肉に変えることができ、潤沢な食糧さえあれば冬眠せずとも活動でき、そして非実践者どころか人間よりも老化が遅れる。
貴卿も教えられたはずだ、君の母君である水晶(スジョン)君から。そして実践している。
もっとも多くのナチュラリストのクマは、これを「人為である」と嫌っているようだがね。
あと、ヒト擬態は恐らく紀元前から各地で修練の方法が確立されている。
せやったんか。オモニ(おかあちゃん)から習慣づけるよう言われてたことの中にクマ健康法があったんやね。小さいころ別れたアボジ(おとうちゃん)もクマやったって聞くし、オモニはボクにヒト擬態を覚えさすのに必死やったんやろなあ……。
画面の前のみんな、クマ健康法が何か知りたいやろけど、ちょっと教えられん。おキヌちゃんにも言われへんクマの秘密や。
まあ、誰かを傷つけなあかん行為でも、虐待に当たるほど過酷な行為でもないことは断言しときます。
我々の秘匿している力はまだまだあるぜ。クマ保水力、クマ冷却力、クマ発電力……そういった、通常の生物よりも優れた身体能力。そして独自の修練によるさらなる身体強化。人間の経済活動の掌握。
だがそれだけなら、人間も我々に対してそこまで怯えることはない。野の獣、または胡乱な人間もどきでしかないのだ。
我々にとっても人間にとっても害をなしてしまうクマがいる……わかるね?
せやろか。人間に害をなすのは、人喰いグマだけとちゃいますで。
うん……うん、まあ、そうだね。人間を喰いはしなくても、人間を見下して無体を働くクマは多いね。
でもね、人喰いグマの話をしたかったんだ、私は。
人喰いグマ
「人を襲った」「猟師に撃ち殺された」とニュースで報道されるクマは三下さ。自分の力を過信して、人を喰わないクマにあっさり見つかって制裁されたのさ。
本当の人喰いグマは、もっと密やかに人を攫って殺し、鉄砲1発ぐらいじゃ死なないほどに恐ろしい存在なのさ。
(カン)君、貴卿はクマが身体能力をより高める方法を知っているかな?
呼吸法、筋トレ、実戦経験。まあ人間と同じようなもんや思います。人間よりはよう強くなってくるみたいですけど。
でももっと手っ取り早いドーピング方法があります。
霊長類ヒト科の体組織の摂取。
そうなんだ。クマっていうのは、人間を喰えば喰うほど強くなっていく。クマ健康法実践者と同じように何世紀も生きることができ、傷の再生も早くなって、火も銃弾も平気になる。そして、体臭もどんどん煙くなっていく。
姜君も場慣れすれば、人喰いグマが何人喰ったのか匂いでわかるようになってくるよ。
ボクも中学の頃から大分おキヌちゃんの血を吸うてきましたからね、そろそろ1人分ぐらいたまってきたんとちゃいます?もうボクのクマ脱臭力では隠されへんようになってきたぐらい。
なんて顔で微笑むんだい貴卿は……や、普通にわかんないよ。これは本当にわからない。貴卿のクマ脱臭力とクマ芳香はまあまあすごいから、多分10人ぐらいまでなら喰っても誤魔化せるんじゃあないかな?
無論、騎士団は貴卿を人喰いグマにさせたりなんかしない。保障する。
クマが人を喰うようになるきっかけは野山に生きてたけど食う餌が足りないからとか、殺してしまったから証拠隠滅のために喰ったとか色々だけど、継続して人を襲う理由は大きく分けて3つだ。
・味の虜になってしまった
・手っ取り早く強くなりたいから
・サディズムに目覚めた
そのいずれにせよ、人喰いグマは、自分がどんどん人間よりも煙くなっていくことに頓着しなくなる。心もどんどん荒んで、人を喰うこと以外何も考えられなくなってくる。
そしてたいていの場合、思考が鈍化してボロを出し、人間のハンターやクマの目に留まり、そして死ぬ。哀しいね。
しかし、アレですね。人間喰うたことのないクマは人間を煙い煙い言うて遠ざける割に、いざ口にすると病み付きになってまうのはなんや滑稽ですね。まあ中毒性があるんやろけど、それで煙の臭いが染み込んで差別されてしまうんやからね。
全員が全員人の血肉にハマるわけではない。私は人の血をちょっと舐めただけで吐き出してしまったよ。
クマの個体ごとに嗅覚の受容体が人間の体臭に対して違った働きをするって仮説があるけど、はっきりしたことは分からない。
人喰いグマが感じる「人間の味」は、おおむね「煙いが美味い」らしいが、300人に1人ぐらいは変わった香りと味の人間もいるらしい。例えば花の香り、海の香り、非常に煙臭い、濃厚な脂肪の匂いがするなど……。そういった人間はたいがい何らかの才能に秀でている。
クマにとって厄介なのは、その手合いに単なる芸術家やエンジニア、官僚のみならずサメ使いだったり、あるいはサメやクマや人間を殺す技術や才能に恵まれていたりする奴が混じっていることだ。
サメ使いはたいてい磯臭かったり、焼きサバみたいなにおいがしたり、スイカや香水のマリンノートを思わせる芳香があったりするそうな。
最後になるけど、これは覚えておいて。人喰いグマは、人を喰わないクマが思っているよりずっとずっとたくさんいる。騎士団の統計を見る限り、人を喰わないクマと同じぐらいには。
クマの基本能力
当然のことながらクマには人間より優れた様々な身体的特徴がある。ちょっと紹介していこう。
・クマ脊力、クマ咀嚼力、クマ耐久性
これについては今さら言うこともないだろう。クマは筋肉も、骨も、皮膚も、人間より強靭なんだ。だから散弾ではクマを倒せない。ベアハッグで人間の背骨なんか簡単に折ってしまうんだ。これはクマ健康法のやり方次第でどんどん伸びる。電柱引っこ抜いたりできる奴もいる。
・クマ嗅覚、クマ超音波聴覚
クマ健康法非実践者でも犬の7倍の嗅覚を持ち、人間より高い周波の音で会話できる。これを鍛えるとすごいぞ。漠然と抱いてる感情なんかすぐわかってしまう。下手な嘘もつけない。だろう?姜君。
味覚に関しては実は人間の方が優れているのだが、やっぱり訓練すれば並の人間より鋭くなるらしい。スナック菓子食べただけで何の穀物と調味料をどれだけ使ってるか正確にわかる奴もいる。
・クマ消化力
これは……残念ながらおおむね人喰いグマが優れていることが多い。喰った人間をすぐに吸収して栄養に還元してしまったり、濃塩酸より強力な酸を吐きかけてクマでも石でも溶かしてしまったり。
・クマ再生力
これはクマ健康法を実践するか、さもなくば人を喰わないと向上しない能力だ。だが潜在的にはクマ全員に備わっている……はずだ。
人喰いグマの中には、切断された腕を瞬間接着剤で付けるみたいにくっつけて、すぐに動かせる奴とか結構いる。心臓を攻撃されても、小さな傷ならピンピンしてたりとかね。頭を狙おう。
・クマ肺活量
ツブシの効く能力だよ。長く息を止めたりとか、胃酸や吹き矢を勢いよく吹き付けたりとか。
・クマ持久力、クマ投擲力、クマ毒素分解力
これは本来人間の方が優れている能力だ。だが、クマ健康法のおかげで人間をゆうに上回ることができる。
そのう、クマ健康法はそんな万能なんですか?
ちょっと信じられないくらい万能だ。なんかもう色々と馬鹿みたいに向上する。
とはいえ、クマ健康法は人間にはなかなか真似できないもののようだ。騎士団の知る限り、成功例は1942年、ポーランドの村1つだけ。彼らも精神を病み、「カリストの真実を見出した」と我々に告げたきり東に向かったまま行方が知れない。
クマの遺伝的特殊身体能力
さて、次は遺伝や突然変異によって生まれうるユニークなクマの能力だ。
だいたいが既知の質量保存則に当てはまらない不可解さを秘めているが、サメパワーと違って全て肉体に依存した能力であり、そういう働きを持った器官がそのクマにある。
そしてクマ健康法や人喰いによってより強く働くようになる。
・クマ保水力
毛皮や皮膚に大量の水分を貯蔵・吸着する能力。自分の体積以上の水を蓄積できるクマも多く、甚だしくはプール1杯分以上の水を流出させずに身にまとうクマもいる。見た目からは想像できないがね。
クマ筋力による水の高圧噴射、比較的清潔な水の運搬、クマ冷却力との複合作用による氷の増産などに利用できるが、塩水を貯水し、サメのコンディションを最適に保てるサメ使いとして活躍するクマも割といたりする。
・クマ発電力
デンキウナギやデンキナマズのような発電器官を体のどこかに持つクマもいる。その電流と電圧は訓練によって調節できる。最大威力はおおむね殺傷力を認められるほど強力であり、火花放電を伴う。精密な調節ができればスマホの充電ができて電気代節約できたりする。
実はこの特性、サイボーグ化に非常に向いてるのだ。駆動に必要な電力を自分で賄えるから、電池を携帯したり内蔵したりする必要がない。とはいえ、保守的なクマたちが機械をインプラントするのを「人間の火(電気)を使う金属やプラスチックを肉の内に取り込む穢れた行為」として嫌っていることは貴卿も知っての通りだ。
・クマ冷却力
自身の水分やアンモニアを気化させることで周囲の温度を下げることのできる能力だ。
寒冷地に住むクマがその力を持っていることが結構多くて、温帯に住むクマからは「どうしてこんな寒い土地でわざわざさらに体を冷やす力なんか持ってるんだ」と思われていたが、彼らがもっと暑い場所に進出した時に結構役に立っているようだ。
クマ冷却力とクマ保水力を両方持っているクマは、どこからでも氷を出せるから便利だ。
・クマ高周波振動
体の一部を超音波振動させることのできる能力だ。クマによって振動できる部位が異なるが、ドグマの田沼殿は全身どこでも振動させられるようだ。
体毛や爪を超音波振動させて他の物体に接触すると、摩擦熱で相手を溶断できる。喉や横隔膜を振動させ、クマ肺活量で破壊音波を打ち出すクマもいる。
クマ超音波聴覚に優れていれば、コウモリのようなソナーにもなる。
・クマ抗菌力、クマ脱臭力、クマ撥水力
まあ、代謝がきわめて清潔なクマということだね。
クマ抗菌力を持つクマはいわゆる善玉菌を含む体内常在菌が全くいないが、体内に取り込んだ病原菌も速やかに死ぬから感染症にはかかりにくい。唾液が消毒液代わりになったりもする。
クマ脱臭力はクマを戸惑わせる能力だ。五感の中でもにおいを重視するクマにとっては、体臭が薄いというのはまるで日本人の言うところののっぺらぼうのように思えるだろう。
クマ撥水力。汚れが取れやすいだけのクマもいるが、水泳の速度を上げたり、バランスを取ってイエス様のように水面を歩いたりできるクマもいる。
貴卿のようにこれらの全てを持ってるクマは、昔から「神聖な家系」だと多くのクマに呼称され、支配者や聖職者になる者も多かった。
そうですね、うちの家系は先祖代々「檀君の兄弟ではなく檀君直系の子孫」って言い聞かされて来たそうで。この3つだけじゃなくて麝香と白檀みたいな芳香もあいまって、そう主張されてきました。
まあ、オモニは「正直眉唾やし、仮にそうやったとしても実生活において屁のツッパリにもならん。誇りには思ってええけどえばるもんではない」言うてました。ボクも同感です。
・クマ望遠視力、クマ拡大視力、クマ広域波長電波視覚
本来クマの視力は特に優れてはいないのだが、望遠鏡のように遠くを見ることのできるクマ、焦点を合わせれば細菌の形もわかるクマ、赤外線や紫外線を見ることのできるクマもいる。
これはクマ健康法による訓練よりも遺伝的要素の方が大きいな。普通のクマが修行しても、「ちょっと視力のいい人間」レベルにしかならないから。
・クマ電気受容感覚
要するにあれだよ、サメのロレンチーニ器官。クマとサメの間では子供はできないんだけど、まるでサメのように磁場を把握するクマもいるんだ。
・クマ光度
一部のクマはツチボタルやチョウチンアンコウのように酵素による発光器官を持つ。懐中電灯代わりにしたり、目くらましを行うことが出来たりする。だが、熱量はそんなでもないので火を付けたりとかはできない。
・クマ延焼力
この能力があることが認められたクマは、現状人喰いグマしかいない。元々才能があったのか、人喰いグマになったことで肉体が変化したのかも定かではない。
彼らは燃えやすい脂肪を体外に放出し、火炎を噴射したり、クマ難燃性の高い体毛に絡めて身にまとったりする。
着火方法は主に3つだ。
・何らかの要因で発熱ないし発火する化学物質を分泌する
・他のクマ発電力保有者より比較的低い電流・電圧のクマ発電力による火花で着火
・体の一部の盲管を利用した空気の断熱圧縮で着火。東南アジア発祥のファイヤピストンと同じ原理
ああ、火を使うなんてこれはまた脱人間派が嫌いそうな……。ひょっとしたら、人を喰うてないけどこの能力隠してるクマも、探したらおるかもわかりませんね。
クマ民族
クマ科にはさまざまな種類がある。インドのナマケグマ。南米のメガネグマ。ジャイアントパンダ。実はホラアナグマやエトルリアグマ、クマ科最大のショートフェイスベアは絶滅してない……今も山に街に隠れ住んでるんだ。
でもそれは問題じゃない。生物学的差異なんか問題じゃないんだよ。注目すべきは文化……民族や氏族だ。彼らはムラ単位で牽制し合い、争っているのだ。
そん中でも特に覚えとくべきクマ民族を紹介してくれはるんですね?
世界的に大勢力を築いてる民族、少数派ながら社会的・血統的に重要な民族、そしてここ日本において関わりの深い民族をね。
・アルカディアン(Αρκαδικό,Arcadian)
ギリシャを源流とするヒグマで、神話に語られるカリストとその息子アルカスの子孫を自称している。
ヨーロッパ、ひいては世界において最も成功し繁栄したクマ民族だ。彼らの一部は人間の社会において「銀行」「郵便屋」という役割に侵蝕し、今や世界経済の一端を担うに至った。そうでないクマも他のクマとも積極的に姻戚関係を結び、正確な数は分からないが、ヒグマのうち半数近くがアルカディアンの血を引いているらしい。
宗教は表向きカトリック教徒で、裏でアルテミス熱心主義者であるというのが大半だが、完全にキリスト教に改宗したクマもいる。アルテミス熱心主義については後述する。
・ヴォロスの御使(Ангелы Волос,Angels of Volos)
ヨーロッパロシアや周辺国に居住する、熊神ヴォロスに創造されたと伝えられるヒグマやシロクマ。アルカディアンほどではないが、ここも大勢力。
他のクマより比較的……というか突出して、人間の科学技術に親しむことに抵抗がない熊々で、親ロシアの製薬業、重工業企業にはまず間違いなくヴォロスの御使の研究者や株主がいる。
裏で出回るサイボーグ技術の確立には、ヴォロスの御使が一枚噛んでいたという。
名前から察せられるとおり、東スラヴ古教とロシア正教を同時に信仰しているクマが多い。東スラヴ古教についても後述するよ。
・アルティオの子ら(Children of Artio)
かく言う私もアルティオの子なのだが、これは……ちょっと民族というにはあんまりにもまとまりがない気はする。
古代大陸ケルト人が崇拝したとされるクマの女神アルティオ。その名を自称するクマは世界各地にいる――特にアルプスに多くいる――のだが、アルティオがどんな存在だったのか答えられるクマはいない。それでも、彼らはアルティオの子らであることに誇りを持っている。
だが、独特の文化や技術はある。クマ健康法の様々な応用方法、およびアルティオ式格闘術を世界中に教えたのは彼らだ。
・聖コルビニアンの僕(Servant of Saint Corbinian)
これも正確には民族じゃないな、カトリック教徒のクマが聖コルビニアンをリスペクトしめいめい勝手に名乗ってるものだ。私もアルティオの子にして、聖コルビニアンの僕。
8世紀、ミュンヘン近郊にヴァイエンシュテファン修道院を創設した聖コルビニアンについて人間が伝えている話はこうだ。聖コルビニアンがローマに向かう途中、彼の荷物を運んでいた馬をクマが襲い喰ってしまった。聖コルビニアンはクマを教化し荷物を運ばせた……だがこの話にはクマだけが知る続きがある。そのクマこそヤハウェとイエスの愛に満ちた教えを「クマにも魂があり、天国に行ける」と解釈した上で他のクマに流布し教化した、クマ最初の宣教師だったのだ。
……件のクマが本当に最初の宣教師だったかどうかは大いに疑問が残るが、少なくともクマ達のカトリック信仰に多大な影響を与えたのは事実だ。
楢蜜騎士団の母体になったのは、アルティオの子らと聖コルビニアンの僕だ。
・ベルセルク
古ノルド語で「熊(ber)」の「上着(serkr)」を着た者と呼ばれた、北欧の戦士たち。berは「裸」との意味だという異説の方が最近では主流になってきていると聞くが、まあクマは元々裸だから意味合いが変わったとしても特に問題はあるまい。
正確には彼らはクマと人間との混血だ。人とクマとの結びつきが何らかの作用を及ぼしたのか、彼らは痛みにひるむことなく、半ばトランス状態で戦う。彼らは戦闘が起こると飛躍的に身体能力が高まるのだ。ヴァイキングという集団が消滅した後も、彼らは勇猛な戦士として人間やクマに重用されてきた。
現在の彼らは、スカンジナビアやアイスランド、カナダ東部に小集落が確認されている程度で一見繁栄していないように見える。が、彼らの戦闘能力を引き継いでいるとしか思えないクマが世界各地に散見されている。
姜君も聞いている通り、貴卿が擬態を解除するや否や肉体も精神も戦闘に特化してくるのは、ベルセルクの血が先祖返りしたからではないかと推測されている。
・円卓の騎士
伝説のアーサー王。その名の由来がブリソン語の父称「Arto-rīg-ios」(熊の王)であることを根拠に、アーサーはクマであり、自分たちはアーサーの盟友の子孫であると自称する、イギリスのクマ達。
彼らは水面下でマダー・ティーパーティーと戦っているが、戦況は芳しくないようだ。我々騎士団を「カトリックの干渉」と嫌って、協力を拒んでいるのも一因としてある。我々は確かにカトリックを母体とした組織だが、宗教的組織ではないのだがね。
・ウルサリと共に歩む者
バルカン半島に居住するクマのうち、熊使いを生業とするロマ「ウルサリ」と共同生活を営むクマの総称。この呼称は20世紀末になって彼ら自身が使うようになった。
バルカン・ロマとクマとの関係は、血みどろの抗争もあって複雑なのだが、社会全体の倫理観の変化もありまあ落ち着くべきところに落ち着いた、というべきか。
彼らはクマやゾンビについてさまざまな伝承を蓄えており、大きなクマ組織にとっては良きアドバイザーとなっている。
・鯀血(Gǔn xiě,こんけつ)
中国神話に(こん)という男がいる。彼は(ぎょう)なる帝王の家臣であり、黄河の氾濫を押さえるため「息壌(そくじょう)」なる増え続ける土を天から盗み出し堤防を築いたが、それがバレて殺されたとも追放されたとも伝えられる。彼の息子が夏王朝の始祖である()だ。
重要なのはここからだ。鯀は、処刑されたあと羽山で黄熊となったという伝説があるのだ。黄熊、黄色いクマ。黄ばんだクマと言えば即座に連想されるのはホッキョクグマだが、中国のクマと言えば今日有名なのがいるだろう?
そのう……パンダを黄ばんだクマというのは、ちょっとひどいような気がします。シロクマも。
そうだよ、鯀血は元々鯀を祖として崇めるジャイアントパンダのいち部族のことなんだ。彼らは鯀を「失敗した英雄」と考え、それぞれのやり方で「名誉挽回」のための活動を行ってきた。社会奉仕とか、戦場で英雄となったりとかね。今では鯀が失敗した治水工事などの建設事業に入り込み、地位を得た鯀血もいる。
息壌については、多くのクマが鯀の持っていたクマ身体能力の比喩的表現ではないかと考えている。クマ保水力だとか、人喰いの禁を犯してクマ再生力を高めて無限に肉腫を増殖させたのではないかとか。
・タングンジェ(檀君弟,Dangunje)
 古朝鮮の伝説の王、檀君王倹(タングンワンゴム)の神話については貴卿はもう知っているだろうが、閲覧者諸君のために改めて語っておく。
熊と虎が洞窟で暮らしていて、人間になりたいと願った。文明神の桓雄(ファンウン)は彼らにヨモギ一束とニンニク二十個を与えて、百日間日を浴びず洞窟に籠るよう告げた。虎は修行に耐えられず穴を出たが、熊はやりとげ人間の女になった。女は孤独ゆえに子供を授かりたいと神に祈った。桓雄がこれに応え女と結ばれた。女の息子が檀君である。
そして、クマに言い伝えられる続きでは、女はさらに子を産み、彼らは檀君を守る家臣となったということだ。
タングンジェとは、朝鮮半島において、人間に擬態し支配者層として振る舞ったツキノワグマだ。世襲貴族制崩壊後は、なんやかんやで没落したり、財界で成功したりとまあ色々だ。財界で成功したクマがいるというのがポイントで、韓国での彼らの企業活動には我らが騎士団も大いに助けられてきた。
まあボクらの一族は檀君直系の子孫って聞かされてきましたけどね、眉唾やけど。
ところで、トラはどうなったんですか?我々とはまた違う、知性的なトラがおったりして。
トラについては聞いたことがないな。伝説以上の情報を聞かない。
あとはアレですね……北朝鮮のタングンジェはどうなっているんです?あそこは情報統制が厳しくて、政情が不安定やから、不安で。
……あそこに住むクマについては、調査中であるとしか言えない。本当に情報が入らないんだ。騎士団の潜入もすべて失敗している。タングンジェに関しては、炙り出されてほとんど殺害されている可能性もある。
・熊野衆
名前の通り熊野のクマだ。古事記において「大きなる熊、髣に出で入りて、即ちに失せぬ。爾に、神倭伊波礼豐古命、倏忽に遠延為し、及御軍皆遠延て伏しき」とある。神武天皇の軍隊の前にちらりと現れて彼らを昏倒させたそのクマが彼らの祖先だ。源平合戦で活躍した武蔵坊弁慶も実はここのクマだったという説がある。
彼らは長らく本州のクマの長として君臨してきたが、明治期に騎士団の日本支部が設立された時に、真っ先に参入した集団でもある。まとめ役たる自分たちが率先して西洋に迎合することで日本のクマの外国への反発を鎮めようとしたのだが、残念ながら逆効果だった。以降、日本ではドグマ防衛組合の発足する1990年まで、血で血を洗うクマ戦国時代が続くことになったのさ。
・熊襲
熊本県南部のクマと人間の共同体。球磨という地名は当然「熊」から来た。熊本という地名も、古くは隈本と書いたが当然「熊」から来た。古代においては大和王権に抵抗していたが、リーダーの暗殺によって指揮系統が崩れ去り降伏した。ヤマトタケルによるクマソタケルの征伐譚は知っているね?
熊襲も戦闘においてはピカイチだ。ベルセルクが一時的なトランスによって戦闘能力を爆発的に上げるのに対し、熊襲の血統は常日頃から軽度の興奮状態を維持し、いつでも戦闘に対応できるようにしておくのが特徴だ。戦国最強の呼び声高い薩摩の島津氏も、熊襲と姻戚関係を結んだゆえにあそこまでの強さを得たのだろう。
彼らも熊野衆に続いて騎士団に参入したが、裏切り者の誹りを受けてしまった。
・キムンカムイ
山の神(キムンカムイ)山を領有する神(ヌプリコロカムイ)。そういった呼び名に彼らは冷笑的だ。東北と北海道に住むクマたちはいずれも自分たちを(カムイ)と自称していない。
アイヌ文化はクマを含む様々な動植物に敬意を払っているが、実はクマの方はアイヌを含む人間そのものをそこまで信用していない。イオマンテ(小熊を数年飼育した後屠殺する儀式)もカムイ・ホプニレ(狩ったクマへの葬儀)もカムイの再訪を願うもので、人間の都合でしかないと彼らは言う。自分から獲物になりに行く知的存在などどこにいるものか、と。真偽は不明だが、一部の地域では「我々の先祖は、アテルイが目障りだったので坂上田村麻呂を呼び込み人間同士で殺し合いをさせた」と言う伝説さえ残っているという。一方で、人間に擬態しないまま秘密裏に人間と共同生活を行うクマもいる。
基本的に彼らは自分たちの共同体以外のことには興味がないように見える。が、21世紀に入ってからパンサラッサ図書館やルビー掲揚財団の手の者による実験目的の誘拐やバイオテロによって自分たちの生活が脅かされるようになり、自衛のために連携するようになってきた。資金はTeddy'sに頼っているらしい。
・鬼熊
長野県の木曽に住むクマの集団……だった。クマ脊力の高さと特殊戦闘技術、薬学知識で知られていた彼らは、18世紀にはすでに堕落していた。彼らは人間の拉致・虐待拷問殺に耽溺するようになったのだ。
そんな彼らをマダー・ティーパーティーが見逃すわけがなかった。太平洋戦争終結後、彼らは電撃的にマダーに制圧され、その支配下に置かれたのだ。
最悪だ。
鬼熊は元々人喰いを嫌っていたとはいえ、対人間拷問術・毒術に通じている。奴らの戦闘技術や遊興記録がマダーに流れたことにより、マダーは無敵の力とさらなる地獄遊戯を得た。
今の鬼熊がどこにどれだけ散らばって、どこまで変質しているか、もうはっきりとは分からない。
クマの文化
もう何度も何度も触れてきたとおり、人喰いやない中でも結構な数のクマが人間の中で暮らしながら人間を嫌っとりますね。「火と煙に属する獣」言うて。人喰いグマが嫌われる理由も「隣人である人間を殺して遺体まで冒涜したから」やのうて「クッソ煙い人間を体に取り込んで誇り高き血を穢した」ですからね。
まあ野山に隠れ住んでつつましく暮らしてるクマについてはええとしましょう。割と暖房の効いた部屋で、ネットやりながら「火なぞは人間のものよ」と言いながらスーパーで買ってきた生の豚肉をむしゃむしゃ食う奴も結構いますよね、それも手づかみやのうて箸で。そんで傍らには犯罪計画の邪魔になった人間の死体がゴロン転がってるわけです。
呪われてしまえ!!
そういうクマ達こそ、彼らが言うところの「人喰い熊」「ケガレグマ」「悪熊(アクマ)」なんだ。人間の財産を喰い物にして、それでいて自分達こそ正当だと信じている。そんな思想こそ穢れていることに気付かなければ、我々クマに未来はない。

……ところで流石にクマでも豚の生食はまずいよな。
その思想の根底には、自分たちを「大気と大地に帰属する自然の守護者」と認識しているというのがあるね。クマは森や草原のサイクルを見張り、守る。それは誇りある尊い責務だ。
だからといって、人間やサメを「火の奴隷、水の囚人」と蔑む理由にはならないね。
同様の理由で、クマ社会ではサイボーグ化も敬遠される傾向にある。電気はすなわち高熱であり炎。加えて精錬された自然でない金属やプラスチックを体に組み込むのは、人喰い程ではないが生命への冒涜だという。クマサイボーグは差別されてしまっているんだ。
まあクマの人間蔑視はそのくらいにして、次に各国のクマと人間の関係性をちょっと説明していこうか。
アメリカでは人間に不干渉を貫くクマがまあ多い。
韓国やEU諸国はノブレスオブリージュの立場から、人間をサメや人喰いグマから守る傾向にある。
ロシアでは一時期「全人類文明を滅ぼし大地をあるべき姿に戻す」という運動が広がったが、ロシア政府と多数のクマ・サメ使いによって鎮圧された。
一昔前の日本はひどかった。「大地を守るための害獣の間引き」と称し、全くスポーツの感覚で多数の人間が隠密に狩り殺されてきたのだ――遺体は喰われずに処理された。その事実に気付いた人間たちがクマハンターとなり、クマと人間との血で血を洗う抗争が日常の水面下で行われた。最終的に事態を重く見た親人間派のクマによるクマ粛清が行われ、多くのハンター組織がクマ組織に吸収される形で騒動は収まった。
改めて日本のクマヤバいですね。人間が人間に行う虐殺よりは控えめかもしれないですけど、犠牲者の数の問題ではない。モラル崩壊の問題。
次はクマの宗教について説明しようか。クマはどんな信仰を持っているか……野に暮らすクマは確たる信仰を持たないが、自然が持つ力を大いなる意志によるものと考え、祈りを捧げている。呪物や偶像は持たないし、神の名も神話もない。
では人里近く、あるいは人間の街で暮らしている我々のような人間もどきはどうだろう?我々は信仰の厚さ薄さはともかく、基本的にその土地の宗教を信仰する。キリスト教、イスラム教、大乗仏教、道教、神道。西インド諸島に渡ったメキシコハイイログマやメガネグマはカトリックとヴードゥー教に帰依し、マヤやインカの神々を忘れ去った。
だがネオ・ペイガニズム運動よりずっと以前から成立し、ヨーロッパのクマが独自に信仰している宗教が2つある。アルテミス熱心主義と東スラヴ古教だ。
アルテミス熱心主義はギリシャ神話由来の宗教派閥だ。アルテミスをセレネやヘカテと同一視し、月と森の守護者にして「処女にして処女でない母」として崇拝する。
また、カリストとアルカスをクマの救世主としてアルテミスと同じくらい崇める。信徒の解釈によると、アルテミスは決して処女性を重視せず、カリストはアルテミスに追放されたのではなく熊々の救済のために自ら去ったのだという。
また、オリオンをアルテミスの愛人にして神々の決める運命に抗った人間として崇敬する。
ゼウスは人間の男性を優位としたカースト制度を世界に強いる悪として、ヘラはゼウスに凌辱された世界に嫉妬し災厄を送る魔物として、打倒すべき対象としている。
アポロンとデュオニソスはそれぞれ秩序と混沌の極端な象徴として人気がないな。特にアポロンはオリオンを謀殺し星に変えたからな。
東スラヴ古教は正直不勉強なので、簡単な説明になるが堪忍してくれ。
東スラヴの神話の神々を崇める宗教。主神は豊穣と家畜、商売の神ヴォロス(あるいはヴェレス)。信徒たちは彼を熊の神であると固く信じている。
他にはヴォロスと戦いこれを破った天空神ペルーン、風神ストリボーグと太陽神ダジボーグ、地母神モコシなどを崇拝する。
教義はちょっとわからないが、ロシア正教の影響を多分に受けているらしい。まあ元々ロシア正教も古代の信仰から影響を受けているので、逆輸入とでもいう形になるのかな。
あとちょっと気になることが。動物園にはクマが必ずおりますね。なんで逃げへんのでしょうか。訓練してないクマでも、僕らや人間と同等の知性があるんやったら病んでまう気がするんですけど。
継続的に動物園に住んでいるクマは、ほとんどの場合サメクマ抗争と人間社会の複雑さに嫌気がさし、自ら進んで安全な動物園で暮らしているのさ。もっとも、動物園に入ったものの、そこが悪辣かつ暴力的な人間のハンターが支配していたため、クマ筋力を発揮できないほど飢えや精神的苦痛を受けているクマもいる。
動物園で働いて、晩は人間に擬態して家に戻るクマだっている。
秘匿されたクマ組織
・楢蜜騎士団(Orden Von Eichen Honigs)
形態:国際連合総会オブザーバー(非公式) 規模:世界 指導者:十五人最高評議会 主な構成員:クマ、人間(知性ゾンビを含む)、知性ザメ
地球上最大のクマ組織。公的に知られていない世俗騎士団。我々の組織だね。ドイツ・ベルリン市に本部を置いている。
騎士団の歴史は三十年戦争期までさかのぼり、ナチス台頭時代には多数のユダヤ人やロマを助けて縁故を作った。
日本においては近畿以西のクマ社会を掌握しており、東北・北海道にも進出している。関東と中部はドグマ防衛組合が掌握してるからね。
階級は6等級あり、下から団員、騎士、将校、司令官、大将校、大ウルサ(Ursa)。Ursaとはラテン語でクマのことだ。基本的に入団したクマは団員を飛び越えて騎士の階級を得るが、騎士以上の階級を持つ者は基本的に戦闘などのリスクのある仕事を割り当てられる。
これらの騎士団階級は人間の世俗騎士団を模したものだが、最高位が人間の騎士団の大十字ではなく大ウルサと名付けられたのは、騎士団が設立当初から宗教から分離すべきだという方針があるからだ。
我々は「人類とクマとサメの水面下共存」「弱者救済」「公正な賞罰」「納得こそ理想」を至上命題としている。特にサメクマゾンビ事件の被害者へのサポートを重視している。精神のケアに必要と判断したなら、被害者に世界の真実の一端を――世界にサメやクマが潜んでいることを――明かすこともある。(本物だったり偽物だったりする)事件解決の証拠を送ることもある。
我々は同時に加害者にも寄り添う。人を喰ったクマ、サメおよびゾンビにも、更生の余地ありと判断すれば社会復帰の支援をする。そのために人喰いを生け捕りにすることが、他の組織に比べて比較的多い。とはいえ、一度罪を犯した者が団員より上の階級に昇格できるかは、我々自身の偏見や遺族への配慮も考えると正直難しいだろうな。
組織としての気質と、多くの多国籍企業やNPO法人との癒着により、我々は人間との不干渉を貫くクマからは煙たがられ、人間を見下し支配しようとするクマフィクサーからは怨まれる傾向にある。
一方サメクマハンター組織からの反応は、組織の努力もあって好意的なものだ。他のクマは手あたりしだい殺しても楢蜜の騎士にだけは絶対の信頼を寄せるという態度を取るという人間もいる。
楢蜜騎士団は何かを誓願するとき、その起源は不明だがキリスト教徒が神に誓うように「楢の森の玄き蜜」に誓う。地域や信仰により「イエス(・キリスト)」「栄光あるフランス」「クマソタケル」と最初に付け加えるバリエーションも存在する。
みんなは見たことあるかな?ブナ科コナラ属の蜂蜜は黒いんや、鉄分ぎょーさん含んでますから。「フォレストハニー」でネットで検索してみたらわかる。
・関東中部ドグマ防衛組合
形態:自警団 規模:日本の関東・中部地方 指導者:石カブト(代表理事) 主な構成員:クマ、人間(知性ゾンビを含む)
その名の通り関東と中部で活動するクマ相互支援・人喰い駆除団体。90年代初頭に石カブトなるクマ巫覡が、乱立と闘争を繰り返していた関東と中部のクマ氏族をほとんど根こそぎまとめあげた組織で、各氏族の長である理事会の役員は軒並み日本経済を牛耳る立場を持っている。
石カブト殿自身はかなりの人間びいきだが、組織全体としては比較的人命を軽視し、クマ以外の知性体を低く見る傾向にある。石カブト殿は「大地と社会の掟を逸脱した人喰いを狩る」ことを所属者全員に指示しており、戦闘の練度は高い。
人喰いグマやサメやゾンビ、人間のハンター、およびゾンビ化技術やサイボーグ化技術を(軽蔑しながらも)武力として使うことに全くためらいがないことも特徴だ。うちでは人喰いの知性ゾンビやクマは保護と社会復帰を前提としてるからな。
とはいえ、各々の支部同士での足の引っ張り合いは頻繁にある。ある支部が、別の支部の信用を失わせるためにマダー・ティーパーティーや名隠しの工作員をけしかけるなどといった内ゲバも年に1・2度ほどある。その過程で人間やサメが何人死のうと、たいていの場合仕掛けた側も仕掛けられた側も「隠蔽さえできれば知ったことではない」と考える。
あの恐ろしいBTS-06が引き起こしたO市散発占拠事件も、一部では神奈川支部長の成田紗雪を牽制するために、どこかの県支部長がBTS-06に支援を行ったという話もある。
これシマクマ殿から直接聞いた話なんだがね、石カブト殿とシマクマ殿は結成後の諸々のごたごたが収まり次第、組合を楢蜜騎士団に売り払うつもりだったのだが、それでも思った以上に上層部のクマが複雑な腐り方をしてるから結局断念しているとさ。内緒だよ。
・マダー・ティーパーティー(Madder Tea Party,茜色の茶会)
形態:マフィア 規模:世界 指導者:セバスチャン・インディアンサマー(首領) 主な構成員:クマ(人喰いグマに限る)、人間(知性ゾンビを含む)、知性ザメ
人喰いグマによって組織された、人喰いの人喰いによる人喰いのための組織犯罪集団。世界を食い荒らす唾棄すべきクソ野郎ども。残念ながらイギリス、アイルランド、スペイン、ポルトガルでは我々よりも彼らのほうが圧倒的に優勢だ。
奴らは人間をただ食うのではない。この組織は麻薬取引、暗殺、密輸、恐喝など人間の犯罪組織がやっていることには大体手を染めているが、彼ら特有の風習がある。人命を使用した娯楽だ。
例えば、犠牲者をただ追い回すだけではなく数週間かけて社会的に孤立させ、絶望させたのちに喰らう。例えば、空中を泳ぐサメがいる館に何名かの人間を閉じ込め、どのくらい生きられるか賭けの対象にする。その様子はもちろん隠しカメラで生中継だ。例えば、拘束した犠牲者と共に何度も食事をする――彼の手足や内臓の一部をメインディッシュとして犠牲者に食べさせるのだ。奴らは自分たちにたてついたクマでさえ、快楽のために弄ぶ。
こいつらは他のクマから忌避され軽蔑されるであろう煙臭さを身にまとうことを、あえて好む傾向にある。血と煙の臭いが染み付くほど、仲間内から尊敬される。
奴らは人を喰ったことがあれば、サメやゾンビであっても積極的に勧誘する。実力があればのし上がれる。事実、ポルトガルの支部長は人肉食が趣味のただの人間だ。クロスボウとマチェーテだけで1時間に82匹のクマを殺害できる奴を人間と呼べるのであれば、だが。
・Teddy's
形態:慈善財団 規模:北アメリカ、東アジア 指導者:レッドマグワート(共同議長) 主な構成員:クマ(人喰いグマを含まない)
20世紀初頭にアメリカで勃興した、公式に認められていない財団。自分たちの縄張りからドロップアウトして人間社会に行きついたアメリカのクマたちと、楢蜜騎士団からの離反者たちによって設立された。一説には、セオドア・ルーズヴェルト大統領の狩りに同行していたハンターに殺されかけたクマが設立に関わっていたといわれるが、真実は定かではない。
彼らはとにかくクマが人間社会で生き残るための活動を支援する。どれだけ人間や山のクマが死のうとも自分たちだけは生き残るように、様々な社会的・物理的防衛策を日々考え、金の力でそれを実現してきた。そして、彼らはできるだけ人喰いグマにも、サメにもゾンビにも関わろうとしない。仮に奴らを倒したとして、自分たちが下手に目立ったらやはり死に直結すると考えているからだ。
とはいえ、2度の大戦とマダー・ティーパーティーやルビー掲揚財団などの敵性組織の活性化によって、自己防衛のための軍拡を考えた彼らは韓国のタングンジェ、日本のキムンカムイを取り込み始めている。
そしてTeddy'sが関わった日本企業の中でも、タゴノウラモリヤザメのフォロワー連中やドグマのクマ共が恩恵にあずかろうと舌なめずりをしている。
サメクマ闘争に日和見を決め込んでいたTeddy'sは、大きな裏社会戦乱の渦中に巻き込まれつつある。
・名隠し
形態:環境テロ組織 規模:ユーラシア全域、アフリカ大陸中南部、南アメリカ大陸東部 指導者:“マキナ殺し” 主な構成員:クマ、人間、AI搭載ロボット
人類社会と未開自然領域とを断絶させ、天秤の平衡を保つ……と主張するクマ暗殺集団。19世紀末のロシアで、大規模人間狩りに反発する形で発生した。どこかの土地に拠点を置くことはないが、大規模な会合の際はリトアニア・ジェマイティヤ地方をたびたび選ぶ。
奴らは人を喰らうクマやサメを容赦しない。出来る限り人間社会を騒がせぬよう速やかに暗殺する。ただし、人間側が自然破壊を行い、彼らの基準でそれが「まったく妥当でない、人間にとって無駄なこと」「広域の自然環境が長期的に激変する」と判断された場合、彼らはその活動で主要とされる人物を容赦なく暗殺する。場合によっては、事故に見せかけた虐殺も行う。そのため、人類との共存を模索する我々騎士団とは明確に対立している。
名隠しに所属するクマの多くは、自分たちを番号で呼び合う。個々の人格さえ努めて表に出さぬようにしている。これはロシアでこんにち「熊」を表す単語が忘れ去られ「蜂蜜喰らい(メドヴェーチ)」と呼ばれている事実に由来する。本来の名にあまりにも呪術的な力がありすぎたゆえ、封じ込め忘れ去るのが大地にとって正しい選択であったと彼らは信じているのだ。
名隠しは日本への進出に失敗した。ドグマ防衛組合の母体となり、しかし自分たちの欲望のために森に生きるクマの住処さえゴルフ場に変えてしまうクマ氏族たちの物理的・社会的暴力に、彼らは一度屈したのだ。しかし、彼らは今度は日本領海を泳ぐ知性ザメの力を借り、再び日本を見張りだそうと試みている。
結び
これでもうみんなクマについてバッチリやね!これからクマを見る目が劇的に変わってくるでしょう。
世の中には裏から手を回して私腹を肥やすクマがいる。人間の真似をしながら人間をせせら笑う当事者性の無いクマも。そして恐ろしい人喰いグマ。
でもクマに絶望するなよ姜君、貴卿の母君である水晶君、水晶君の恋人である七島瑠璃彦君のような信念を持った正しく優しい人もクマにはたくさんいるんだ。
姜君、貴卿もそうなりたまえよ。クマであることはすなわち大地に選ばれし勇者であり、本来人間やサメと共に並び立つ誇りある生き物なのだから。
がんばりますぅ。
次の解説はゾンビや。知性ゾンビのシマクマさんと鼓莉帆さんが解説してくれはるようで。またなー。

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