2日目

文字数 1,134文字

「二日連続で同じ願い事をするなんて、キミのプログラムには欠陥があるんじゃないかな」

狭いベッドの上で彼は言った。

「僕は人なので、プログラムは持ち合わせていません。ただ、欠陥があることに異論はありません」

「そう。ではなぜ修復しようとしないんだい?ちゃんと思考は機能しているだろう」

生憎、その思考は劣化の一途を辿っている。正直言って、今の僕には全てがどうでもいいし、何でもいい。食事を抜いても困らないし、そこにあるもので済ませればいい。睡眠すら、適当でいい。堕ちた僕の生き方を気に掛ける人などいないのだから。

「もう、周りを考えることの意味がないので、周りが求めるレベルの思考はしていません」

「なるほど」

評価対象に選定されたなら、普通の人は自分を良く魅せる努力をするだろうに。こんな底辺レベルの僕を相手にせねばならない彼に、若干の申し訳なさを否定できない。

「あの、僕の事はどうでもいいのですが、貴方は大丈夫ですか?こんな願いを聞いて、貴方自身の評価に悪影響はないのですか?」

「奇妙なことを言うね。ボクは向こう側の存在だ。無論、評価対象外だよ。それにボクは、国の監視も管理も制御も及ばぬ独立型アンドロイド。ボクが何をしようと、向こう側は感知できない」

「管理されないなんてあり得るんですか?」

「ボクはあり得ないことは言わないし、紛れもないスタンドアローンだ。管理される必要はない。ボクの評価に寸分の狂いもなく、結果報告に虚偽など一切含まれないと、向こうがそう願ってボクを作ったからね」

「願って……?」

「そうだよ。ボクに限らず、人が作りしものに、確実が叶うと思うかい」

「でも、もしそうであるなら、貴方の下す評価は不安定になるのでは?」

「安心するといい。人特有の“感情に流される”懸念がなく評価基準に忠実で、見逃しや聞き漏らしなくキミの行動を記録できるボクには人を遥かに凌ぐ精度で評価が可能。どうだい、いくらキミでも異論はないだろう」

「そうですね」

「わかってくれて嬉しいよ。キミもある程度は思考できるじゃないか」





確実なんてない。そんなの知ってる。とある事柄が絶対的に正しく見えても、大多数が「そうである」と肯定するから正しく見えるだけで、一夜にして「不正解」に転じることもあるはずだ。しかし、すべからく滅私を前提とし周囲への善行のみを是として生きる「正解」は変わらない。その姿に違和感を感じる人は少なくないはずなのに。

僕自身が淘汰されることに異議はない。一方で、他人(みんな)にこの正解は見合わない。自由に生きていいはずなのに、どうして声を上げないの。どうして自分の声を無視するの。なぜ大多数に合わせて沈黙するの。ねえどうして。


まあ、残り六日しかない僕が何を言おうと、何も変わらないのだけれど。
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