ここはナヴェ村。今日はおまつり。

文字数 1,998文字

 ぶんちゃかぶんちゃ。ぶんちゃかぶんちゃ。
 恒例(こうれい)恒例(こうれい)。村祭りだよ。

 大きな蕪菁(かぶら)()り抜いて、すっぽり被ったおチビが一人、足踏みならして触れ歩く。

 ぶんちゃかぶんちゃ。ぶんちゃかぶんちゃ。
 壮麗(そうれい)壮麗(そうれい)。仮装パレードだよ。

 ここは蕪菁(ナヴェ)村。大きな蕪菁(かぶら)が特産品。
 今日は年に一度の収穫祭。この日に限って無礼講(ぶれいこう)

 村長さんも金持ち旦那(だんな)も学校の先生も坊様も徒弟(アプランティ)たちも小作人(ペイザン)たちも、みんなみんな大張り切り。

 だってそうじゃない?
 一等賞は自慢ができる。
 一等賞は()められる。
 一等賞は賞金が出る。

 だから、みんな毎年趣向をこらす。
 お金のある人はお金を掛ける。だって自慢したいから。
 知恵のある人は知恵を絞る。だって褒められたいから。
 お金も知恵もない人たちはあれこれ持ち寄る。だってみんなお金が欲しいから。
 お金も知恵も色々もない人もそれなりに工夫をする。だって楽しみたいから。

 どんな仮装をするのかって?

 確か一昨昨年(さきおととし)に一等を取ったのは村一番のお金持ちの旦那(だんな)
 金ぴかの女神(エシュタル)像の中に入って、馬車に引かれて練り歩いた。
 本当(ホント)金箔(きんぱく)で飾ったと聞いて、村長さんが(くや)しがった。

「あんな悪趣味な物のどこが良いものか」

 ってね。

 一昨年(おととし)の一等は村の学校の先生様。
 目玉が光る獅子女像(スファンクス)の中に入って、蛇の尻尾を振って練り歩いた。
 光る目玉は銅の聖人奨章(メダイユ)だと聞いて、坊様が怒った。

「あんな罰当たりな物のどこ良いものか」

 ってね。

 去年の一等は山の里の小作人(ペイザン)のみんな。
 三人が人肩車して麦藁(むぎわら)を束ねた大案山子(エプヴァンタイユ)に入って、よろめきながら練り歩いた。
 材料は麦藁苺(フレーズ)畑の()(わら)だと聞いて、徒弟(アプランティ)たちは馬鹿にした。

「あんな馬糞(ばふん)の元のどこが良いものか」

 ってね。


 ところで、金持ち旦那や村長さんの奥方や、学校の先生の友達や、坊様の寺の小坊主や、小作人(ペイザン)たちの地主さんや、徒弟(アプランティ)たちの親方は、連中のやることには閉口しきりだっていう話だよ。

 だって、大きな物を作るには金も手間も時間もかかるじゃないか。

 お金をかけてる間は、他の買い物ができやしない。
 手間をかけてる間は、他の事が(おろそ)かになる。
 時間をかけてる間は、他の仕事が進まない。

 それにそもそも、女神(エシュタル)像や獅子女像(スファンクス)や、それから大案山子(エプヴァンタイユ)の張りぼての中に入って、その上自分一人では動けないときたら、

「それはもう仮装じゃないでしょう?」

「小さな子供がお化けの面を被って回る方が、ずっと仮装大会っぽいじゃないの」

 って(あき)れちゃってるんだって。

 それでもお祭の日はやってきたんだ。

 今年の最初は村長さん。
 金ぴかキラキラの女神(エシュタル)像を雑徭(コォルヴェィ)たちに作らせて、馬車に引かれて練り歩いた。
 一昨昨年(さきおととし)の金持ち旦那(だんな)と同じだってみんなが言うと、

「いいや、像の大きさは倍程もある。金箔だって倍も使った。アレなんかとは全然別だよ」

 村長さんは言うけれど、像の中から喋ったもんだから、誰にも聞こえやしなかった。

 二番手は村の寺院の坊様。
 目玉が光る獅子女像(スファンクス)寺男(サクリスタン)たちに作らせて、龍の尻尾を振って練り歩いた。
 一昨年(おととし)の学校の先生と同じだってみんなが言うと、

「いいや、像の大きさは倍程もある。目玉の聖人奨章(メダイユ)だって黄金だ。アレなんかとは全然別だよ」

 坊様は言うけれど、像の中から喋ったもんだから、誰にも聞こえやしなかった。

 二番手は徒弟(アプランティ)たち。
 麦藁束ねた大案山子(エプヴァンタイユ)弟弟子(おとうとでし)たちに作らせて、よろめきながら練り歩いた。
 去年の小作人(ペイザン)たちと同じだってみんなが言うと、

「いいや、像の大きさは倍程もある。こっちは高竹馬に乗って五人で操っている。アレなんかとは全然別だよ」

 徒弟たちは言うけれど、藁の中から喋ったもんだから、誰にも聞こえやしなかった。

 それでね、他の人たちも仮装をしたのさ。
 親父さんのぶかぶか洋袴(パンタロン)穿()いたり、女将さんのゆるゆる帽子(ボネ)を被ったり、鶏の翼を(むし)って(まと)ったり、蕪菁(かぶら)()()いてお化けの面を作ったり。
 みんな工夫をしたよ。
 だって、一等賞が取れなくても、楽しい方がいいじゃない。

 それで、みんなは村をぐるっと回った。
 大仕掛けの中のみんなはヒイヒイ言いながら、他のみんなもフウフウ言いながら、(すみ)から(すみ)まで回って歩いた。
 笑ったり驚いたり、感心したり軽蔑(けいべつ)したり、みんなそれぞれに楽しんだ。

 それで最後に投票だよ。
 一番好きな仮装に一人一票、無記名投票。

 太鼓(グロスケス)がドンと鳴り、喇叭(クレロン)がプウと鳴り、(クロッシュ)がガランと鳴る。
 村の広場で大発表の時間。
 みんなで見守ったんだ。今年の一等は誰だろうって。

 長老様の言うことにゃ、

「みんなすてき。どれもこれも楽しいけれど」

 太鼓(グロスケス)がドンと鳴り、喇叭(クレロン)がプウと鳴り、(クロッシュ)がガランと鳴る。

「村の名物、大きな蕪菁(かぶら)の中身をぐるりと()り抜いた、お化けのお面を付けた君」

 指で指された蕪菁(かぶら)お化け、ケラケラ笑って宙返り(トンボ)を切った。

 村中の祝福の拍手が止んだ頃、地面には立派な蕪菁(かぶら)がただ一つ、ごろりと転がって笑ってたとさ。
 
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