小菓子

文字数 933文字

[ petits fours  小菓子 ]
【幸福な結末バージョン】
(コーヒーを飛ばして)デザート話からの続きとして、お読み下さい。

 海原良枝と真紀はエントランスホールでお見送りをしている。
「手塚様、ありがとうございました。お料理はお楽しみいただけましたか?」
「料理も雰囲気もサイコーです。感動しちゃいました」
 純一は顔をほころばして応える。
「いい思い出も作れたし、ね?」と、絵里を見る。
 絵里は頷いて、「あの、この店って貸し切りできるのですか?」と訊く。
「え? 今までしたことはありませんが、何かございますか」
「いえ、ウィディングパーティが出来ないかと思ったもので。あ、でも、さっき二人で、ここで出来たら素敵ね、って話しただけなので、いいんです」
「まあ! おめでとうございます。そういうことならお役にたちたいわ。定休日の日曜なら出来るかもしれません。相談ください」
「お願いするかもしれません」
 純一は絵里をつついた。「絵里、気が早いよ。先に親に挨拶だぞ」
「そうね、うわ~緊張しそう。でも嬉しい!」
 顔をくずしたまま二人は手をつないで出て行った。

 和泉と鮎実がゆっくり来る。
「海原さん、ごちそうさま。美味しくいただいたよ」
「おかげでさまで楽しいひと時を過ごせましたわ。ありがとう」鮎実も言う。
「今日の料理はまた一段と美味しかったよ。本当にいい調理師を抱えているね」
「お褒めいただき、ありがとうございます。その言葉が何よりの励みになります。伝えておきます」
 良枝は真紀を見て「タクシーは手配されていないの?」と訊いた。
「いや、今夜は気分がいいし、大通りまで歩いて行くよ。まだまだ話し足りないこともあるし」
 それを聞いた良枝は嬉しそうに微笑んだ。
 和泉も微笑み、鮎実と肩を並べ外へと促した。

 夫妻の背にお辞儀をしている真紀に良枝は言った。
「真紀さん、ここはもういいから事務室へ行ってちょうだい。山田くんが何か話があるようよ」
「え、何だろう?」真紀の顔に小さな喜びが表れた。
「何かしらね。行けば解るわよ。あ、真紀さんハンカチ持っている?」
「はい、持っていますけど?」
「いや、ちょっと気になっただけ。あとで私も行くからね」
 良枝はやさしい目で真紀の後ろ姿を見送った。
  【了】
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