アルバイトの話

文字数 1,014文字

 飲みサーと化しているオカ研部員の俺だが、一応名前の通りオカルトに関する小レポートを月一で提出するというルールがある。とはいっても成績評価に関わるレポートのように真面目に書く必要はないのだが、月一なのでテーマに困る事がある。文芸部に所属する友人から何かないか聞いてみた。お清さんは今年の夏休み、いつもと違うアルバイトを請けたのだという。

「洒落怖の某バイト的な?」
「そういうのとちょぉ違うんやけど……」

 祖父母の旧知が、急用で一ヶ月と少し家を空ける事になったのだが、ずっと無人にしておくのも怖いし親戚に頼んだが急すぎて断られ、雇う人間を吟味する時間もない。ギリギリまで駆け回った末、話がお清さんの家にまで話がやってきたという。少し悩んだが、弟と泊まりに行った。

「で、何か変な約束事とかさせられるんだろ。夜に庭に出るなとか謎のお供え物とか」
「あらへんだ」

 ごくごく普通の二階の一軒家で、自家用車がないと買い物や出勤通学が不便だなと思う程度の立地。事前に話を聞いていたのだろう、近所の人の態度も自然だった。デッカイ蜘蛛か蜈蚣が出たオチかと思いきや。

「同じになってきて、二週間くらいで止めた」

 お清さんが最初に気づいたのは硝子だった。家中の硝子が全て、昭和型板硝子になっていたのだ。

「あの模様入ってるやつ?」

 昔の家なら珍しくない。初日から数日はバタバタしていたので「うちの家と一緒だな」くらいに捉えていた。更に数日後、弟が「姉ちゃん、庭いじってへんよな」と聞いてきた。危険な生物でも現れない限り、他人様の家で有り得ない。裏庭を確認すると、昔飼育用の小屋があったのだろう残骸があった。来た時は草木しかなかったはずだ。

「お母さんの実家にあるんよ、元ニワトリ小屋」

 一夜で作り出したとは思えない時間経過が見られる。それから夜を越すたび、家具や部屋の位置、食器や生活用品の種類が生家に寄ってきた。

「姉ちゃん、今すぐ出てこ。バァちゃん達の部屋がある」

 物置きだと思って開けた部屋が、同居している祖父母の自室そっくりだったと言う。お清さん達が荷物を持って家から出る時、お清さんはまた見つけてしまった。二階へ上がる階段の位置が変わっている。玄関から入って奥まった所にあったのに、実家と同じ場所になっていた。

 それから、夏休みの留守番が関係しているのかは謎だが、祖父母と旧知は喧嘩別れして交流は絶えたので例の一軒家が現在どうなっているかは不明である。
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