プロット

文字数 1,641文字

起)主人公の天之川コノミ(あまのがわこのみ)は訳在ってとある街『八百万』へ引っ越すことになった若い【人形屋】。この街はありとあらゆる家に様々な『屋号』を持った人々がいるという噂がある。引っ越し先は以前にも別の【人形屋】が住んでいた大きなお店。片付けもそこそこに近所の人々に挨拶をしようとしたところ、何やら紙袋を被っている燕尾服姿の人物に出会う。軽いノリで「怪しい人ではありませんヨ!」と語るその人物の名は百々目(どどめ)。挨拶もそこそこに百々目に引越し挨拶の品物を押し付けて次の隣人の元に向かうコノミであった。

承)【人形屋】を開店する前に、街の情報を知ろうと外出をするコノミ。人形作りの材料を持ち、店の外に出たと同時に誰の姿もいないのに見られている様な感覚に陥ったが、気にせず街の探索に向かう。しかし街の住民にはシャボン玉の中に入りながら話しかけてくる【泡沫屋】の少女、一人しかいないのに「僕たち」と名乗る【飛行屋】、口にした言葉全てが全く聞き取れない言葉で喋る【雑音屋】の女性、気が付いたら別のところに本人が移動している【幽玄屋】の青年、しまいには神様との縁を売っている【神縁屋】と名乗るキラキラ光る布に包まれている様な奇妙な生き物も住んでいるのであった。コノミはこの街に『一般人』がいないことに驚き、また人間や動物以外の不可思議な『生き物』も住んでいることにも度肝を抜かれた。呆けていると百々目に出くわす。好き勝手話しかけてきながらも、二代目人形屋として楽しみにしておりますよと言われてコノミは「先代の【人形屋】と比べないでよね!」と少しばかり不機嫌になる。更にはコノミがこの街に来る一因である人物からの電話もかかってきて「この街に来た理由を忘れないでくださいね?」と言われる。頭を悩ませながらも帰り道を歩いた。すると何処かから視線を感じる。誰もいない、飛んでいるカラスからの視線でもない、薄気味悪い感じに苛まされながらも大急ぎで家の中に駆け込むのだった。そして思う。「誰が私を見ているの?」と。

転)それから店を開くまであと二日になった。だけど流石にずっと見られている感覚に耐え切れなくなり、またその感覚が百々目と出会った後から起きていることに気づいたコノミは町中を走り回った末に百々目を見つけ出し、「アナタ、私のことを追っているでしょう!?」と言った。言われた百々目は急に笑い出す。「まさか、こうも早く気づかれるとは!やはり【人形屋】は侮れませんねえ!」と言い、紙袋を脱ぎ捨てた。そこには人間にはある筈の頭部が存在していない、何処までも黒くて暗いノイズの様な霧と『目』が広がっていたのだ。百々目は自分が人間ではないこと、頭以外の体は先日まで住んでいた前の【人形屋】から難題の答えとして与えられた蝋人形であること、自らの屋号を『この街の人々を観察する【観察屋】』であり『この街の日々を記録する【記録屋】』であることを明かした。そしてある人物から、コノミに難題を与えることを託されていると。そうして百々目からコノミに与えられた難題は「私の『頭』を作り、私に与えてくれませんか?」という、奇天烈極まる難題であった。

結)急に与えられた難題に対し、コノミは考えに考えた。そしてある方法を閃く。新しく【人形屋】が開くその日の早朝、店の前に訪れた百々目に対して作り上げた人間の頭と同じサイズの植木鉢を差し出して口を開く。「前の【人形屋】が『一つの体』を与えたのなら、私がこの街に住んでいる間でアナタに『九十九の頭』を与えるよ!」と言い放つコノミに対し、押し黙り、そして大声で笑った百々目は嬉々として一つ目の『植木鉢の頭』を受け取った。「やはり【人形屋】は面白い!…これからよろしくなァ、【人形屋】のお嬢さん?」と、不敵な雰囲気を醸し出されながらも、コノミは宣言するかのように言った。「私はこの街でやるべきことをやり遂げるよ、絶対に!」その表情は、青空にピッタリなくらいに綺麗な笑顔であった。
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