2 ✿ ジャパンドリーム

エピソード文字数 2,247文字



 昔の夢を見た。幼いジョンが経験した、恐ろしい出来事を。けれど久々に両親とパソコンを通じて会話をすると落ち着いた。家族の他愛ないおしゃべりはつづく。その中でジョンの母は、彼に「日本の剣道を習わせた理由」を話して聞かせた。

 一に、二に、三に、ジョンの母が日本を大好きだったから。
 四に、息子が自分の身を守れるようにである。

四番目が、とってつけのように感じるのですが、母さん?」

「いいえ、四番目が一番重要なのよ。だから最後に持ってきたの」

 彼女の名はクロエ・リンデン
 目は碧眼で、亜麻色の髪は肩のところでふんわりと内巻きにしている。
 器量豊かな顔だちだ。

良い師にめぐりあえて良かったなぁ、ジョン」

 父の名は、クリストファー・リンデン
 整った顔立ちで、ジョンと同じく銀髪はナチュラルショート。
 栗色の目に黒ぶちのメガネをかけていた。
「ジョン、あの食玩すばらしいわ! 同じものを、もう1セット送ってくれない?」
「飛行艇のシリーズもな。たのんだぞ」
「はいはい」
 ジョンが嘆息した時、コンコンッとノックがした。

「ジョン、お母さんがホットミルクをつくったから、持ってきたんだけど…」
「今、開けます」

 ジョンが扉を開ける。咲良が部屋へ入って、テーブルにカップを置こうとしたが、真ん中にパソコンが置いてある。
「すみません、ちょっと…」
 ジョンがパソコンを横に移動させる。
 パソコンのカメラに、咲良の姿が映った。
 咲良がそちらを見ると、画面の中でジョンの両親が目を丸くしていた。
「僕の両親です」
「あのおもちゃを作った方? …あっ。いきなり私が出たから、びっくりしたみたい」
「お話しします? 僕も、紹介したいので」
「ええ」
 ジョンはヘッドセットを、咲良にかぶせた。
「Hello? My name is Sara Tatewaki. Nice to meet you.」
 これでいいかな、と思いながら自己紹介をする。
「クロエ・リンデンです」
「クリストファー・リンデンです」
 相手は日本語で、順に自己紹介をした。

「女の子だわ…まちがいなく…。ああクリス、私、夢を見ているんじゃないかしら。本物の大和撫子よ。どうしましょう、忘れていたジャパンドリームが…」
「クロエ、落ち着いて」

 二人は早口の英語でしゃべった。
「そうだ、咲良さん。この食玩、きみが教えてくれたと聞いたが…」
 クリスは日本語で訊ね、フィギュアを見せた。
「その戦艦、もうイギリスに届いたんですね。良かった」
 咲良は柔和な笑みを浮かべた。
「迷惑でないなら、そちらになにか送ってもいいかい? 息子がお世話になっているし」
「やっぱりこちらから送るとしたら、おもちゃ…かしら…」
「うちで作っているものとはいえ、武道のお家に送るのは失礼だろう。やはり食べ物とか…」
「だって。スペインにいる義妹(いもうと)に、イギリスの食べ物を贈ったら不評だったもの。食べ物はだめよ。――咲良ちゃん、なにか欲しいものはない?」
「お気を使わず…」
 そう言った咲良の視線が、画面の右奥にとまる。
「そ、そ、それは…!!」
 純白の大きなお城が、テーブルに飾ってある。咲良の好きなドールハウスシリーズの中でも、めったに手に入らないとされるものだ。


「後ろにあるのは、イギリス限定発売……フォレストキャッスルでは!?」
知ってるの!?」

 クロエは後ろを向くと、テーブルごとドールハウスを引いて、画面の前に持ってきた。「床に傷が…」とクリスがうなだれる。
「このお宝の価値に気づいてくれるお客さんがいつ現れるだろうと待ちに待ち続けたけど、海の向こうにいらっしゃったなんて。画面の向こうで申し訳ないけど、ご覧になって。注目して欲しいのは、舞踏会場のシャンデリアと王の間でね、これはドールハウスの概念を打ち壊したと思うのよ。ハウスからキャッスルに変わったところがね」
 クロエはカメラを移動させる。
 咲良は画面を食い入るように見ていた。

「こんなふうに、日本人と話せる機会があるなんて。夢にまで見ていたけど、何度夢から覚めたことか。ジョンに、女の子の友だちができたことも嬉しいわ」

「確かに。女子の友だちは久しいな。二〇年ぶりくらいか」

 咲良は「にっ」と、言葉につまる。
「あっ、いけない。咲良ちゃん、私、ちょっと用事を思い出したから、ここでおいとまさせてもらうわね」
「クロエ、どこに……えっ、あぁ、僕も? それじゃ咲良ちゃん。またね」
 クロエは日本に贈るものを買いに出るようだ。クリスは付き添いである。
 通信が終わると、咲良はヘッドセットを取った。
「両親は、なんと?」
「その…。ジョンに女の子の友だちが出来て、すごく驚いている…みたいだった」
 それを聞いたジョンは、パシッと自分の額を手で打った。
「実は…僕…」
 ジョンはミルクのカップを持ったまま、ベッドに腰を下ろし、視線を落とす。

本当は、その、女性が苦手なので…」

 咲良は目をぱちくりとし、自分を指さした。
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登場人物紹介

帯刀 咲良(たてわき・さら)


高校2年生の、剣道少女。
ドールオタク(俗にいう、シルバニアン)

ジョン・リンデン


インターポールの捜査官。
所属は、IWCI(INTERPOL Wizard Complex for Innovation)


天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生の、合気道少女。
アニオタ。

ラルフ・ローゼンクランツ


インターポールの捜査官。
IWCIのリーダー

マリー・ローゼンクランツ


ラルフのイトコ。

絵画修復士になるためにイタリアの大学で学んでいたが、行方不明になる。

マルコ・ローリエ


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

イタリア人。お菓子が大好き。

レイ・マグノリア


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

フランス人。透視能力者。

鞍馬 勝(くらま・まさる)


警視庁特殊科の捜査官。

日本の魔法使い。忍者。

ブレイク・アンショー


赤の国際手配書が出された犯罪者。

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