最終回:女のコはメンドクサイ

文字数 2,661文字

 さて本題は、私がアカネの両親に紹介されに行くということである。

「とにかくウチはパパとママにハナシして、ほんでひーちゃんちに引っ越して、結婚して、一緒に暮らすねん」
「せやな、そうしよな」
「せやからウチいまから、いぃーっぱい、オカネ貯めへんとあかんねん」
「そんな頑張らんでも。心配せんでええて」
 とは言いつつも、私も余裕資金はあまりないのだが。強がりである。
「私んとこ来たら家賃浮くんやし、バリバリ貯まるやろ」
「あぁ、そっか」
 結婚披露宴(ひろうえん)や新婚旅行くらいは、アカネの両親に頼らなくとも、二人だけでどうにかなりそうな気がする。

「まあ私はアカネと一緒やったらこっちでのうても、大阪でもええんやけどな。なんやったらお父さんの会社の跡、継いでもええし」
「いやいやいやいやいや……こんな高スペック、もったいない。ひーちゃんやったらもっとおカネ稼げるし(えろ)うなれるし!」
「まぁそれはおいおい考えるとしてや。お父さんまだそこまでトシちゃうやろ? いくつ?」
「ゴジュウニぃ」
「まだまだバリバリやん」
「せやねんせやねん。せやから、ひーちゃんは気にせんでええねんっ!」
「まあ『いずれ』の話や。十年先か二十年先か。どうせ私には継ぐ親なんておらへんしな。天涯孤独」
「テンガイコドク?」
「……まぁ……天外魔境みたいなもんや」
 アカネの顔にはハテナがたくさん浮かんでいた。

 アカネにはあって、私にはないもの。
 私には、親も祖父母もこの世にいない。もともと一人っ子である。近くもない親戚に頼るつもりはないし、実際、頼れないだろう。
 私にはアカネが頼りで、そして――生きがい。

「とにかく私は、『これがウチの相方(あいかた)ですー』ゆうて紹介されるわけやな」
「そう。『これがウチの相方ですー』」
「どもー。相方にはいつもお世話になっとりますー。ほんでこれが相方のボケ担当アカネですー」
「どもー。相方にはいつもようさんツッコんでもらってますー」
「なんでやねん!」
「ニシシシシ……」
 アカネはこの笑いである。『えへへ』『あはは』『うふふ』はない。デヘヘかイシシかニシシ。それもアカネの面白い……いいところだ。
 そしてこの母親は輪をかけて面白い人なのだろう。強敵だ。

「ほんでや」と私。「大阪いつ行く? 私も挨拶(あいさつ)に行くわけやろ?」
「さっそく今度の年末年始。それともひーちゃん都合あえへんかな?」
「行けるで。でもいきなりやな」
「ほら、『善は急げ』てゆうやん?」
「せやな」
 しかしアカネがこういうときにボケをかまさないとは、肩透かしだ。アカネのボケは計算ずくだと思っていたのに。『善は急げ』はありきたりすぎる。
「ということはアカネも今年は、クリスマスも仕事やなぁ」
「そうやねん。正月休むとなると、もう決めとかなあかんねん」
「アカネの場合は土日出勤いうことやな?」
「そう。メッチャ休んでもうたしー。もう今年はハロウィンも休まれへんかな」
 今年のハロウィンも平日であるはずだ。が、その直前の日曜も、ということだな。まあ私も、ハロウィン当日は休めないだろう。有休(ゆうきゅう)の残数の問題ではない。職場の人間関係の問題だ。先日はアカネの看病で、あの日は当日朝になって欠勤の連絡をいれた。翌週の月曜まで休んだ。
「土日出勤ということは、や。アレは休みやな」
 そう、『アレ』というのは阪神優勝のことだ……ウソ。『花嫁修業』のことである。
「そのへんも日程はすりあわせるとしよ」
 今年は仮装団も休み(←それはよかった)、クリパ返上(←残念)、と。
「正月に二人で御両親に挨拶に行って、戻ってきたらアカネの引っ越しやな」
「せやよ。メンドクサイけどよろしくお願いします」
「お願いされます。つか、来年早々引っ越してくるんやったら、私も家、片付けへんとな」
「せやねん。大変やけどお願い。ウチもココ出る準備せなあかんし」
「荷造りもやけど、家主に退去予告せなあかんもんな」
「アッ、それもか」
 まさか、頭になかったのか……。
 ともかく私も、アカネのために部屋を一つ空っぽにしなければならない。大忙しである。
「ドーセーしたらもう、ムフフですよムフフ」
 グフフフフ……。
 それ、ムフフやないやろ! アカネの笑いはムフフではなかった。それは不気味な含みを感じさせる。
「まさか。まさか。毎晩やないやろな? 毎晩『女のコ』はさすがに困るっ! 仕事に差し支えるっ!」
 金曜の夜だけならまだしも毎晩帰ってきて、わざわざ女のコでムフフしていたら、身がもたない。可愛い女のコでいるというのはかくもメンドクサイ。それを毎日やっているアカネは立派だとは思うが、それとてもメイクするのは朝だろう。帰ってきたらオフするだけだ。それを、帰ってきてからメイクして、イチャイチャして、オフして、ってやっていたら。眠る時間がないではないか。
「え~~。ケチぃー。いけずぅー」
「『えー』やないっ! それとも私が失業してもええ言うんかっ」
「むぅー。残念……。」
 ――それにしても『いけず』ってなんだ。アカネは分かっていて言っているのだろうか? いや私も知らんけど。

「あー、でも、またTDR行こー。それはいーでしょー?」ニヤ。
「女のコでか」
「もちろん!」
「ハードルたかっ!」
 外出時はトイレにすらも困っているというのに?
「大丈夫やて、夢の国やもん、ゆ・め・の・く・に!」
 そういう問題か?
「なんやったらもう二人、ユナっちとかユイにゃんとか誘って女のコだけグループで行けば、目立てへんて!」
「たしかにな……」
 いや、それはそれでその二人にまた披露することになるのだが。結婚披露宴には呼ぶとしても、そっちの披露は……なぁ。
 せめてそれもハロウィンイベントのときならばよかったのだが。
「決まり決まりー。今度はパーク代、ウチがおごるでー」
 食費やグッズ代など諸経費まではおごると言っていないところがポイントであろう。
 まあ、いいんだが! どうせ結婚するし!
「あー、いつにするかなー、バレンタインかなー、ウチの誕生日のときにするかなー」
 もう既定路線である。あの二人を誘うんなら、バレンタインではないのではないか。もう付き合っている人、おるだろうに。
「アカネ、とにかく先、大阪行くんと、引っ越しな。まずそれが先な」
「せやな」

 そうして今年も終わりつつある。

 しかし――大阪ついでにUSJに連れ込まれるのではないか? すでに来年のことが心配である……。女のコ(はじ)めか……。

 私らは、可愛い。
 そして、メンドクサイ。

「ひーちゃん、遅くなったケド誕生日おめでとー!」

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