文字数 2,902文字

〈P.1〉


暗がりの路地。


ドゴッ

「ぐっ...」


振り下ろされるバット

ドゴッ

「ぐっ...」


血まみれの男

「や...め...」


〈P.2〉


ドゴッ

血まみれの男が壁にもたれかかり、ビクッビクッっと痙攣している。

ドゴッ


振り抜いたバットをそのままに、レインコートを着た人物が肩で息をしている。


〈P.3〉

扉絵

世界は悪意に満ちている


〈P.4〉


広いオフィス。


「申し訳ありませんでした」

部長に深々と頭を下げる新人の男


40代、優しそうな顔をした男が笑顔で応じる。

部長「次、同じ失敗をしなければそれでいい。あまり気にしすぎるな。」


うるっとする若い男

「部長...。申し訳ありませんでした。」


〈P.5〉


パソコンに向かいながらその様子を横目にため息をつく黒木。


パソコンに視線を戻す。

黒木(今日はさくっと帰ろう…。)


「黒木君、この間お願いした資料の準備進んでる?」

黒木を呼ぶ部長。


黒木、営業スマイルを浮かべる。

「もちろんです。今日中には仕上がります」

(やっべー、忘れてた。)


オフィスに一人残り残業する黒木。


〈P.6〉

電車に乗り込む黒木。

終電間際。閑散とした車両。


妻にライン「今電車乗った」

入口付近にもたれかかる。


震える携帯。


携帯画面ライン

「さくらもう寝ちゃったよー」

「(赤ちゃんマークのスタンプ)」


(お疲れさん…っと)

ため息し、携帯をポケットに。


何かに気づく黒木。


〈P.7〉

反対側の扉、泥酔したサラリーマンが乗り込んでくる。見るからに吐きそう。

黒木(あ、やべーわ。)


車両を移る黒木。


盛大に吐くリーマン。

近くに座っていた中年の男が驚いている。


別の車両に移り、座り込む黒木。

[幸せかと問われれば、幸せだと答えられる程度には満たされている。]


もっと深く座り込む。

[ただ、これがあと数十年続くと思うと吐き気がする。]


〈P.8〉

黒木

煙草に火をつける。ジッポ。


自宅マンション付近の公園。ベンチに腰掛け、煙を吐き出す。


空を見上げる。煙が空に溶けている。


ブルっと震える。

黒木(だいぶ冬らしくなってきたな…)


携帯灰皿でタバコをもみ消す。

黒木(さて、帰るか…)


〈P.9〉

マンションの外観。


エレベーターに乗り込む黒木。


エレベーター止まる。5階。

降りる。


マンションの通路。

ポケットから鍵を取ろうとする仕草。


〈P.10〉

自分の部屋から2つ隣、一番奥の部屋の扉ががちゃりと開く。


ん?っと顔を向ける。


高校生くらいの少女がふらりと出てくる。

少女らしい服に不釣り合いな大きなカバン。


〈P.11〉

目が合う。会釈する少女。


黒木「あ、ども…。」

すれ違う。

バットのグリップがかばんから少しはみ出ている。


(あの部屋にあんな娘住んでたか...?)

鍵を差し込む。


〈P.12〉

「ただいまー」

靴を脱ぐ。


「お疲れー。遅かったねー。」

妻の優子。ねむそうに寝室から出てくる。


黒木「ごめん。起こしちゃった?」

スーツの上着を脱いで、クローゼットかけている。


〈P.13〉

台所に移動する黒木。

優子「何か作ろうか?」


少し考えて、首を振る。

黒木「…いいや。ありがとう。」

冷蔵庫からビールを取り出す。


ネクタイを緩める。

優子「じゃあ、私先に寝るね?」


〈P.14〉

黒木「おう、おやすみー」

ビールのプルをあけて、グビグビ。

暗がりの部屋、テレビをつける。


テレビをみて笑う。目は笑っていない。

「ははは…」


(疲れた…)


〈P.15〉

娘、さくらが黒木の顔をペチペチ

「あーうー」


「いて、さくら痛いって」

さくらの頭をがしがし撫でる


さくらにこーっと笑顔。


トントントン

台所。優子は朝ごはんとお弁当づくり。


〈P.16〉

黒木「朝から元気いっぱいでちゅねー」

寝転がりながら、たかいたかい


「ご飯できたよー。」

優子が台所から呼ぶ


「うーい」

メガネをかけて、さくらの頭をがしがし。


〈P.17〉

食事風景。優子はさくらに離乳食。


玄関で鏡をチェック。


黒木「いってきます」

優子「いってらっしゃーい」

さくらと手を振る。


がちゃりと扉を開く。


〈P.18〉

電車


黒木。

満員電車。痴漢冤罪防止のカバン抱っこスタイルで耐える。


おばさんの胸が肘に当たる。

睨むおばさん。


懸命に体をひねり肘を移動する。


〈P.19〉

出社。


自部署のフロアが騒がしい。


気になりつつも、

デスクについて伸びをする黒木。


後ろのデスクから、同僚。

「おい、聞いたか?部長、昨晩殺されたらしいぞ。」


「はぁ?朝から何の冗談だよ。」

訝しげな顔。


〈P.20〉

「ニュース見てねーのかよ。バットでボコボコ。今朝見つかったって。」


「ほら」

スマホのニュースサイト。

「バット連続殴打殺人事件。3人目の被害者か」の文字


ニュースには部長の名前と顔写真。

「ほんとだ...」


〈P.21〉

朝礼。

役員「えーニュースで知ったものもいるかも知らんが...」


話を続ける役員。


役員「通夜、葬儀の日時についてはおって連連絡する。」


泣いている女子社員。

みな神妙な顔。


〈P.22〉

役員「えーマスコミに何か聞かれても安易に答えないように」


黒木も神妙な顔をする、


まわりをチラリ、泣いている人の姿

[上司の葬式を面倒くさいと思うおれは薄情だろうか]


〈P.23〉

葬儀


坊さんの後ろ姿。参列者多数。


部長を慕う若い男の他、何人か泣いてる。


〈P.24〉

高校生くらいの娘が泣いている。


黒木(部長、娘いたんだな...)

娘号泣「パパ...」

奥さんもしんしんと涙


同僚涙ぐむ。

「子どもと奥さん残して、死んでも死にきれねーよな」


黒木「ああ」


〈P.25〉

マンション近くの公園。

いつものようにベンチで一服。

ネクタイを緩めて深く座る


(しかし、バットでボコボコって)


(よっぽど恨まれてたか)


(あるいは事件に巻き込まれたか)


〈P.26〉

煙を吐く。

(バットで殴られるってどんな感じだろうか)


空を仰ぐ。


バットを振りかぶる少女と目が合う。


ドゴッ


薄れていく意識

(ああ、こんな感じか)


ドゴッ


〈P.27〉

(黒木回想)

[昔から要領だけはよかった]


[勉強で苦労した記憶はなく]

小学校低学年の黒木。

授業中。クラスメイトの前で問題を解き、先生に褒められている。


[そこそこ友人もいたし]

中学校時代の黒木。バスケ部、5番のユニフォーム。シュートを決め、チームメイトと喜びあっている。この頃にはメガネをかけている。


[それなりの青春を過ごした]

高校時代の黒木。

夏服。彼女との帰り道デート。

別れ際のキス。ファーストキスなのか彼女は少し震えている。


〈P.28〉

[明るい未来を信じ]

大学の合格発表。

大学まで出向き受験番号を探す。

数字を見つけ、ガッツポーズ。

講義を受ける黒木。

パソコンに向い、レポートを作る。


[社会に溶け込むように努力した]

就職活動、面接。

仕事に打ち込む姿


[そして、家族もできた]

優子との結婚式。

さくらが生まれる


[それでもまだ...]



[満たされない]

割れた家族写真


〈P.29〉

[つまらない映画を見続けているような感覚]

暗がりにブラウン管のテレビひとつ

画面の中で虚ろな表情を浮かべる黒木。


[全てを捨てる覚悟はない]

黒木の前に積まれたガラクタの山

ガラクタがどんどん増えていく

ガラクタに埋もれる黒木


[死んだように生きている]

路地で撲殺された男の死体と黒木が重なる


[いっそ誰か殺してくれ]

レインコートの人物がバットを振り下ろす


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