ハティナモン編(4)

エピソード文字数 3,350文字

「気をつけろ、化け物は人を木に変えるらしいぞ!」

一団が一瞬ひるむ。にわか武器のバットを掴んだアビスがナギにしがみつくように寄り添う。ナギも怖かったけれど、大丈夫、大丈夫と心の中で自分に言い聞かせた。

一団の歩くスピードは遅くなる。おそるおそる、いつ現れるかわからない恐ろしいモンスターを警戒する。森は暗く。絶えない不気味な風鳴り。

ふと、アビスは、あることに気づいた。気づいて、反射的に叫んだ。

「いやあああ!!」

バットを落とし恐怖に凍りつくアビスを、ナギは思わず抱き寄せる。何が? だがナギもすぐに、アビスが何に恐怖したのか気づいて体が震えた。

リンも気づいた。右手の上にマウスを出す。

アビス達の後ろを歩いていた人達がいない。通って来たはずの道に、消えた人数分の等身大の木が生えている。

「みんな!! ひとかたまりになれ! 離れるな!!」

一団は武器を構え、辺りを警戒した。

おおおおん……

葉擦れの音さえなく、ただ不気味な風鳴りが続く森の中。息を飲み、耳を澄ます。

「ナギ……怖いよ」

「しっ。静かにして。何かいるわ」

リンが制する。みんなが武器を構え直す。

鍬を持って目を凝らしている男、その背後の木の枝が、じりじりと、じりじりと男の首に迫る。じりじり、じりじり、

ギャアギャア! リョータが突然騒ぐ。ナギは魔壊銃ビューラを構える。リンが気づく。

「そこの人! 逃げて!」

「えっ!? うぐっ!!」

シュルシュル。瞬時に男の首に枝が巻きつく。

「おい!!」

駆け寄る別の男、しかしその足元から蔦が飛び出し、男の足を捕らえ、

「っ!!」

男は叫ぼうとした。が、声を発する前に、
男は木になってしまった。

「うわああああ!!」

散る男達。首を絞められた男は既に絶命している。

「じっとしていたら狙われるわ! 動いて!!」

リンの指示でみんなは森の中を駆ける。やがて周りの木々がメキメキと動き出し、

「正体を現したわね。ナギ、気をつけて!」

迫る樹木のモンスター。蔦の鞭が宙で唸る。かわすリン。かわすナギ。

「アビス、わ、私の後ろにいて!」

ナギはビューラを構える。私の魔法、お願い!

眼前のモンスターを撃つ。撃たれたところから、モンスターが燃え出す。

「ナギ、いいわ、その調子よ!」

リンは地を蹴り木を蹴って飛び跳ねながらマウスを操る。クリック、ドラッグ、クリック、モンスターを消して行く。ナギもモンスターを撃つ。燃えるモンスター。

「ナギ、すごい……」

ナギの背ろでアビスは感嘆する。

樹木のモンスターは次々と現れる。男達も持参の武器で戦う。ナギの後ろに突然現れるモンスター。

「キャアアアア!!」

力任せに振ったアビスのバットがモンスターを撃退する。

「あ、ありがとう、アビス」

「きりがないわっ! こいつらのボスはどこ!?」

リンは次々とモンスターを消して行く。しかし、後から後からモンスターは現れる。ナギは蔦の鞭をよけながらビューラを撃つ。しかし、

敵にダメージを与えられなくなって来た。

(ナギのMPが切れたのね)

リンはそう察すると、素早くナギに迫りつつあったモンスターどもにマウスを向けた。


「諸君、遊びはそこまでだ」

突如、声が森に響いた。

森の奥に、軍服を着た一人の男が立っていた。
ふてぶてしい面構え。短髪に刈り上げたその男は、細い目でニヤニヤと笑っていた。

その左右。銃を構えた兵士が現れる。筒先が冷たくリン達を狙っている。そして、

その後ろには、縛られた子ども達が。

誘拐された被害者達だ。

男達が次々に自分の息子、娘の名前を呼ぶ。応えて縛られた子ども達が泣き叫ぶ。

その中に、ムジカもいた。

「ムジカ!!」 アビスが呼びかける。

「アビス? アビスー!」

「ムジカ! ナギだよ! ナギがいるんだよ!!」

「え? ナギ? あ、ナギー! ど、どうしてー!?」

「ムジカ! 必ず助けるから、助けるから」 ナギがそう叫んだが、

「うるさあい!」

軍服の男が吠える。カチャリ、兵士の銃が脅す。

「おとなしくしないと、人質達の命はないぞ」

兵士が、ムジカ達に銃を向ける。子ども達から悲鳴が上がる。

「キマラ! 誘拐は立派な犯罪じゃ! そんなことをして許されると思っておるのか!」

「ほお、これはこれはゲオ博士。博士自らお出向きになられるとは、光栄です。娘さんも喜んでおられますよ」

人質達の中から、一人の少女が引きずり出された。水色のワンピース。銀色の髪、銀色の瞳。

「ルナ!!」

「おとうさま」

兵士が少女の銀の髪を乱暴に掴み引く。身を乗り出す博士。突き出される銃口。

「感動的な親子の再会もここまでだ。この森に来たからには、ローズゴーレム様の肥やしになってもらうしかあるまい」

そう言ったキマラの背後から、
大きな薔薇の花が現れた。

いや、それは大輪の花を咲かせた薔薇のモンスター。

ローズゴーレム。毒々しい薔薇の花の顔を持つモンスター。

恐ろしいモンスターを従えて、キマラは嗤う。バカげている。こうも堂々と、モンスターと手を組むなど。

「あっきれるほど醜い花ね。今すぐ消してあげるわ」

リンはそう言ってローズゴーレムにマウスを向ける。だが、

「リン、駄目っ!!」

その手にナギがしがみついた。

「っ! 何するのよナギ! モンスターを討伐するのがアタシ達の仕事よ!?」

「で、でも、人質の人達が」

「バカね! みんなやられるわよ!」

「でも、でも……」

その時。巨大な薔薇の花がしなり、黄色い液体をリンに吐きつけた。

「っ! 何するのよ汚い!! あったま来るわね!! なんなの……」

ふっ。リンの肩から力が抜ける。リンの目つきがおかしい。ふらふら。よろよろ。

「? リン? どうしたの?」

「あーっ、もんすたあ、こぉんなとこにぃー」

リンがナギにマウスを向ける。くるくると目が回っている。リンは、混乱させられているのだ。

「リン! やめて! 目を覚まして!」

ナギが叫べどリンは聞いていない。クリック。二次元結界がナギを封じる。ナギが! その時、マウスの前にリョータが飛んで来た。ドラッグ。リョータが。

「あれぇー? あっははー、いんこさんおっきくなったあー」

ナギの代わりにリョータが、ニワトリほどの大きさにされてしまった。

「こけこっこー」

バタバタ。リョータが悪ノリしてニワトリの真似をする。

「リン! リン!」

ナギが必死に呼びかける。酔っ払いのようにふらふらとくるくると回るリン。その足元から。

二本の蔦が剣のように突き出し、リンの太ももを貫いた。

「あああああっ!!」

激痛にのけぞるリン。蔦はさらに伸びてリンの体に巻きつき締め上げる。

「あうっ!! うっ!! うっ!!」

「リ、リン!! リン!!」

「おのれ化け物!」

ゲオ博士が鉈を振り上げてリンを締め付ける蔦を叩き切ろうとした。その時。

さらにもう一本の蔦が光線のように土中から突き出し、博士の胸を貫いた。

「ぐわあっ!!」

蔦は博士を貫いたまま、宙に持ち上げる。博士の腕が足がもがいて空をかきむしる。

「博士!!」

「おとうさま!」

「ル、ルナ、ルナよ……」

博士の声がかすれる。腕が命を失い垂れ下がる。

「ふん、バカめ」

せせら笑うキマラ。両足を貫かれ、締め付けられてどうすることも出来ず泣き叫ぶリン。ナギは、

泣き震えながらもしゃがみ込み、青地に金の五芒星、胸のペンダントをぎゅっと握りしめて、必死に、うわごとのように呪文を唱えた。

「今こそ我に力を、エロイムエッサイムエロイムエッサイムエロイムエッサイム」

ナギの目の前に、

雷が、落ちた。

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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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