【幕間2】 船霊祭 -美しさの本質を知る者-
文字数 4,041文字
「あなたがご存知ないのも無理ありませんわ。何しろ七年前。私の父と、あなたのお父様――グラヴェール中将がお話していたのを、私が聞いただけですから」
「初耳……です」
思わずどもりがちにシャインは口を開いた。
シャインの戸惑いを察して、ディアナは密やかに微笑した。
「だから、ご存知なくて当然だと言いましたでしょう? それに……」
ディアナは再びシャインの隣に歩み寄り、大理石の長椅子へ腰を下ろした。
「私――みそっかす、ですから。だから、あの父がその気なら、父の気に入った方の所へ嫁いでも……それでいいと思ってました」
「ディアナ様。あの、それはどういう……」
話が見えてこない。できればもっと詳しい状況が知りたい。
シャインはそう思いつつも、すっかり落ち込んで、急に口調が暗くなったディアナの様子に戸惑った。
「……私には十才以上年の離れた兄が一人と、姉が二人おります。兄のアルフレッドは三年前に結婚して、男児を授かりましたから、アリスティド家の後継問題は当面大丈夫です。姉達……ベアトリスとエリザベートは、私とは違い、父親ゆずりの濃い金髪と真っ青な瞳。そして整った容姿を備えてましたから、エルシーア王家の流れを汲む貴族に見初められて、それぞれその家に嫁ぎました。だから家に残っているのは、私だけなのです」
ディアナは月明かりを受けて、白銀に輝く己が髪を右手の指に絡め、吐息と共にそれを放した。
「私の母には二分の一ほど、エルシーアと今も対立しているシルダリア人の血が入っていて、私と同じように銀に近い金髪ですの。瞳も淡いすみれ色」
「……だからご自分の事を『みそっかす』だなんて、言われたのですか」
ディアナの頬がぴくりと引きつる。
「そうでしょう? 私のどこがエルシーア人にみえて? せめてこの髪がもっと濃い金色をしていれば。この瞳が青味を帯びていれば。母も私の事で思い悩まれないのに……」
ディアナの声は語尾が小さく震えていた。シャインの前で体面を保とうとするが、胸にこみ上がってくる感情を抑えきれなかったのだろう。
シャインはそれをすぐに察した。
ディアナも先程のミュリン王女ではないが、いくつものしがらみによって形成された、貴族社会での生活を強いられているのだ。
特に上流階級の貴族の家に生まれた女性は、十七才になると王宮で行われる晩餐会に出席しなければならない。
晩餐会は毎年七の月から十の月まで三ケ月間開催され、ここでお披露目をすることにより、晴れて一人前の大人の女性として扱われることになる。
当然のことながら、この晩餐会の席で上流貴族の男性に見初められ、結婚の申し込みを受けることはあるし、娘の親はむしろそれを期待している。
ディアナの口ぶりから察すると、彼女の年の離れた姉達は、期待通りの男性と知り合い、(もしくはアリスティド公爵の思惑通りに)結婚できたのだろう。
そして彼女自身は――。
結果を想像するのは難くない。
どちらかといえばエルシーアの北に位置する、シルダリア国の人間の容貌を持つ彼女は、どうしても偏見の目でみられるのだろう。
家柄が家柄だけに、容姿は気にせず、金と地位目当ての貴族が求婚したとしても、父親であるアリスティド公爵が、娘の幸せを望んでいたら、首を縦に振らないのはわかりきっている。
もっとも、庶民であるシャインとは縁遠い世界の話だ。だから、自分が今、落ち込む彼女に何をしてやれるかと考えても、良い案は何一つ思い浮かんでこない。
できることといえば、彼女の思いを黙って聞いてあげることだけだ。
隣で膝の上に両手を重ね、すっかり黙り込んでうつむいたディアナを一瞥して、シャインはやおら彼女の髪に手を伸ばした。
「……!」
髪に触れられてディアナが顔を上げた。しかしシャインは構わず、その丁寧に編み込まれた三つ編みを右手に受ける。
「この海軍本部から東に行った所に、ルゴール織りの職人達の工房があります。彼等があなたの髪を見たら、殴り合いになるほどの喧嘩になるでしょう」
「それは……どういう意味ですか? シャイン様」
ディアナはその白い頬を少し紅に染めていた。いきなり髪に触れるという非礼に加え、何の関連もないことをシャインが言い出したのだから無理もない。シャインはそれに気付き、慌てて彼女に詫びた。
「申し訳ありません、ディアナ様。けれど、貴女の髪は銀をかけた絹糸よりも滑らかで美しい」
「……」
ディアナはあっけにとられて、シャインを見つめている。その真っすぐな視線を受け止めながら、シャインは名残惜し気に、彼女の三つ編みから手を放すと再び口を開いた。
「ルゴール織りをご存知ですか? 銀の粉を混ぜた銀糸と、実はシルダリア産の極上の絹糸を使って織られる、壁掛け用のタペストリーが有名なのですが」
「ええ……それは勿論。うちにも客間に一つありますから……」
シャインは穏やかに微笑んだ。
「何故客間にルゴール織りを? この織物は銀糸しか使わないので、意外に地味なものでしょうに」
「あら、銀糸だけでも美しいですのよ」
ディアナはシャインの笑みにつられるように目を細めた。
「シャンデリアの明かりが反射して、タペストリーの表面が、虹のような光沢を放ってきらきらと輝くの。まるで水晶みたいに。こんな見事なものは、中々みられないと、屋敷にみえたお客様によく言われます。……とても……よく……」
ディアナは自分の言った言葉にひっかかることを覚えたのか、はっと息をつめて瞬きを繰り返した。
「ディアナ様。ルゴール織りは元々、シルダリア国の織物です。けれど……その美しさを知っていて、惹かれる者がいるから、エルシーアでも高値で取引されるし、国内に工房もあるのです」
「シャイン様、あなたは一体……」
金と銀の月が一つに重なる今宵の月光は、いつものそれよりも数倍明るくて白々としている。シャインは目を細めた。月光はその光に照らされる者をひどく神秘的なものにみせることがあるが、隣に座っているディアナほど、この光にふさわしいものはいないと感じた。
あたたかな陽の光よりも、澄んだ月の光に包まれた方が、その銀に近い金髪も――夕闇のようなすみれ色の瞳も――ほのかに赤いふっくらした唇も、その色彩が鮮やかで目を奪われそうになる。
「美しいものは、その価値を知っているものが必ずいます。例えば、貴女のお父上――アリスティド公爵閣下とか」
「父が?」
「ええ。公爵ご夫妻の仲睦まじさは、風の便りでも、今夜の晩餐会の席でも耳にいたしました。あなたはお母上の容貌を、そのまま受け継がれたそうですから……」
シャインはここで一呼吸置いて、こちらをひたと見つめるディアナの顔を見た。不安に揺らめいているすみれ色の瞳がそこにある。
「お父上はお母上にとても強く惹かれたのでしょう。ただ、アスラトルの領主である公爵家に、シルダリア人の血を濃く受け継ぐお母上を迎え入れることに、周囲の反発は相当おありだったでしょうが……今はそれを乗り越えられて、お幸せな時を過ごされているとお察しします」
ディアナがこくりとうなずいた。
「ええ……祖父にかなり強く反対されたそうです。けれど父は思いを押し通したそうです。それに……母は細やかで、周囲に気遣いを忘れない優しい方だから、今は母のことを悪く言う人は屋敷にはいません。そして私の事をとても……心配してくれますの……」
「だったら尚更、ご自分の事を『みそっかす』だなんて、貶めるような言い方はなさらないで下さい。それはあなたを産んで下さったお母上を、否定することだと思いませんか? ディアナ様」
「それは――」
揺らぐディアナの瞳に、反発という強い感情が一瞬だけ浮かぶ。
しかしそれは肯定するかのように、徐々に弱いものへと変わっていった。
認めたのだ。心の片隅で、否定とまではいかないけれど、このような容貌に産んだ母親への怒りが確かにあったことを。
「ディアナ様、月をご覧下さい」
シャインは再び表情が硬くなったディアナへ話しかけた。
渋々といった感じで、ディアナがゆっくりと空を見上げる。
いつしか双子の月は、たちこめた薄雲によってその姿を消していた。
しかし、ぼんやりと円形状の白い光が雲を透かすように放たれていて、そこに月があるということだけは確かにわかる。
「月の光は美しい。けれどこのように雲に隠れてしまえば、その美しさはわからなくなってしまいます。それと同じように、あなたもその容姿だからこそ、他者にはない魅力をお持ちなのに、自らを貶めるせいで、その輝きを隠してしまわれているのです。それでは本当の貴女の姿を、美しさを見ることは叶いません。違いますか?」
「……」
ディアナは手袋をはめた両手を膝の上で組み、それをきゅっと握りしめた。視線は雲に隠れた月を見つめ続けている。
真昼の空とは違った青い瑠璃色のそれが、不意に明るさを増した。雲が風によって流され、再び白い光を放つ月が現れる。
「シャイン様……」
その光を全身に浴びながら、ディアナは疲れたようにふっと息を漏らす。
そして白銀の睫で鮮やかなすみれ色の瞳を伏せながら、シャインの方へ顔を向けた。
「確かにおっしゃる通りかもしれません。母も自分の容姿には悩んでいましたが、その生き方はとても前向きです。私もそれを見習いたい……」
ディアナがそっと身を乗り出して、シャインの左腕に右手を添えた。
まるで支えを求めるように。
「けれど、どうすればよいのかがわかりません。私自身が、自分に自信がもてないのに、どういう風に振る舞えばよいのでしょう」
夜風に当たって随分時間が経ったせいだろうか。腕にかけたディアナの手が少し冷たくて、わずかに震えているのがわかる。
そろそろ本館に戻るべき頃合だろう。そこで温かい紅茶かワインを飲んで、体を温めた方がいい。
シャインはそう思いながら、けれど無意識のうちに右手を上げて、ディアナの手を包むように乗せた。
「初耳……です」
思わずどもりがちにシャインは口を開いた。
シャインの戸惑いを察して、ディアナは密やかに微笑した。
「だから、ご存知なくて当然だと言いましたでしょう? それに……」
ディアナは再びシャインの隣に歩み寄り、大理石の長椅子へ腰を下ろした。
「私――みそっかす、ですから。だから、あの父がその気なら、父の気に入った方の所へ嫁いでも……それでいいと思ってました」
「ディアナ様。あの、それはどういう……」
話が見えてこない。できればもっと詳しい状況が知りたい。
シャインはそう思いつつも、すっかり落ち込んで、急に口調が暗くなったディアナの様子に戸惑った。
「……私には十才以上年の離れた兄が一人と、姉が二人おります。兄のアルフレッドは三年前に結婚して、男児を授かりましたから、アリスティド家の後継問題は当面大丈夫です。姉達……ベアトリスとエリザベートは、私とは違い、父親ゆずりの濃い金髪と真っ青な瞳。そして整った容姿を備えてましたから、エルシーア王家の流れを汲む貴族に見初められて、それぞれその家に嫁ぎました。だから家に残っているのは、私だけなのです」
ディアナは月明かりを受けて、白銀に輝く己が髪を右手の指に絡め、吐息と共にそれを放した。
「私の母には二分の一ほど、エルシーアと今も対立しているシルダリア人の血が入っていて、私と同じように銀に近い金髪ですの。瞳も淡いすみれ色」
「……だからご自分の事を『みそっかす』だなんて、言われたのですか」
ディアナの頬がぴくりと引きつる。
「そうでしょう? 私のどこがエルシーア人にみえて? せめてこの髪がもっと濃い金色をしていれば。この瞳が青味を帯びていれば。母も私の事で思い悩まれないのに……」
ディアナの声は語尾が小さく震えていた。シャインの前で体面を保とうとするが、胸にこみ上がってくる感情を抑えきれなかったのだろう。
シャインはそれをすぐに察した。
ディアナも先程のミュリン王女ではないが、いくつものしがらみによって形成された、貴族社会での生活を強いられているのだ。
特に上流階級の貴族の家に生まれた女性は、十七才になると王宮で行われる晩餐会に出席しなければならない。
晩餐会は毎年七の月から十の月まで三ケ月間開催され、ここでお披露目をすることにより、晴れて一人前の大人の女性として扱われることになる。
当然のことながら、この晩餐会の席で上流貴族の男性に見初められ、結婚の申し込みを受けることはあるし、娘の親はむしろそれを期待している。
ディアナの口ぶりから察すると、彼女の年の離れた姉達は、期待通りの男性と知り合い、(もしくはアリスティド公爵の思惑通りに)結婚できたのだろう。
そして彼女自身は――。
結果を想像するのは難くない。
どちらかといえばエルシーアの北に位置する、シルダリア国の人間の容貌を持つ彼女は、どうしても偏見の目でみられるのだろう。
家柄が家柄だけに、容姿は気にせず、金と地位目当ての貴族が求婚したとしても、父親であるアリスティド公爵が、娘の幸せを望んでいたら、首を縦に振らないのはわかりきっている。
もっとも、庶民であるシャインとは縁遠い世界の話だ。だから、自分が今、落ち込む彼女に何をしてやれるかと考えても、良い案は何一つ思い浮かんでこない。
できることといえば、彼女の思いを黙って聞いてあげることだけだ。
隣で膝の上に両手を重ね、すっかり黙り込んでうつむいたディアナを一瞥して、シャインはやおら彼女の髪に手を伸ばした。
「……!」
髪に触れられてディアナが顔を上げた。しかしシャインは構わず、その丁寧に編み込まれた三つ編みを右手に受ける。
「この海軍本部から東に行った所に、ルゴール織りの職人達の工房があります。彼等があなたの髪を見たら、殴り合いになるほどの喧嘩になるでしょう」
「それは……どういう意味ですか? シャイン様」
ディアナはその白い頬を少し紅に染めていた。いきなり髪に触れるという非礼に加え、何の関連もないことをシャインが言い出したのだから無理もない。シャインはそれに気付き、慌てて彼女に詫びた。
「申し訳ありません、ディアナ様。けれど、貴女の髪は銀をかけた絹糸よりも滑らかで美しい」
「……」
ディアナはあっけにとられて、シャインを見つめている。その真っすぐな視線を受け止めながら、シャインは名残惜し気に、彼女の三つ編みから手を放すと再び口を開いた。
「ルゴール織りをご存知ですか? 銀の粉を混ぜた銀糸と、実はシルダリア産の極上の絹糸を使って織られる、壁掛け用のタペストリーが有名なのですが」
「ええ……それは勿論。うちにも客間に一つありますから……」
シャインは穏やかに微笑んだ。
「何故客間にルゴール織りを? この織物は銀糸しか使わないので、意外に地味なものでしょうに」
「あら、銀糸だけでも美しいですのよ」
ディアナはシャインの笑みにつられるように目を細めた。
「シャンデリアの明かりが反射して、タペストリーの表面が、虹のような光沢を放ってきらきらと輝くの。まるで水晶みたいに。こんな見事なものは、中々みられないと、屋敷にみえたお客様によく言われます。……とても……よく……」
ディアナは自分の言った言葉にひっかかることを覚えたのか、はっと息をつめて瞬きを繰り返した。
「ディアナ様。ルゴール織りは元々、シルダリア国の織物です。けれど……その美しさを知っていて、惹かれる者がいるから、エルシーアでも高値で取引されるし、国内に工房もあるのです」
「シャイン様、あなたは一体……」
金と銀の月が一つに重なる今宵の月光は、いつものそれよりも数倍明るくて白々としている。シャインは目を細めた。月光はその光に照らされる者をひどく神秘的なものにみせることがあるが、隣に座っているディアナほど、この光にふさわしいものはいないと感じた。
あたたかな陽の光よりも、澄んだ月の光に包まれた方が、その銀に近い金髪も――夕闇のようなすみれ色の瞳も――ほのかに赤いふっくらした唇も、その色彩が鮮やかで目を奪われそうになる。
「美しいものは、その価値を知っているものが必ずいます。例えば、貴女のお父上――アリスティド公爵閣下とか」
「父が?」
「ええ。公爵ご夫妻の仲睦まじさは、風の便りでも、今夜の晩餐会の席でも耳にいたしました。あなたはお母上の容貌を、そのまま受け継がれたそうですから……」
シャインはここで一呼吸置いて、こちらをひたと見つめるディアナの顔を見た。不安に揺らめいているすみれ色の瞳がそこにある。
「お父上はお母上にとても強く惹かれたのでしょう。ただ、アスラトルの領主である公爵家に、シルダリア人の血を濃く受け継ぐお母上を迎え入れることに、周囲の反発は相当おありだったでしょうが……今はそれを乗り越えられて、お幸せな時を過ごされているとお察しします」
ディアナがこくりとうなずいた。
「ええ……祖父にかなり強く反対されたそうです。けれど父は思いを押し通したそうです。それに……母は細やかで、周囲に気遣いを忘れない優しい方だから、今は母のことを悪く言う人は屋敷にはいません。そして私の事をとても……心配してくれますの……」
「だったら尚更、ご自分の事を『みそっかす』だなんて、貶めるような言い方はなさらないで下さい。それはあなたを産んで下さったお母上を、否定することだと思いませんか? ディアナ様」
「それは――」
揺らぐディアナの瞳に、反発という強い感情が一瞬だけ浮かぶ。
しかしそれは肯定するかのように、徐々に弱いものへと変わっていった。
認めたのだ。心の片隅で、否定とまではいかないけれど、このような容貌に産んだ母親への怒りが確かにあったことを。
「ディアナ様、月をご覧下さい」
シャインは再び表情が硬くなったディアナへ話しかけた。
渋々といった感じで、ディアナがゆっくりと空を見上げる。
いつしか双子の月は、たちこめた薄雲によってその姿を消していた。
しかし、ぼんやりと円形状の白い光が雲を透かすように放たれていて、そこに月があるということだけは確かにわかる。
「月の光は美しい。けれどこのように雲に隠れてしまえば、その美しさはわからなくなってしまいます。それと同じように、あなたもその容姿だからこそ、他者にはない魅力をお持ちなのに、自らを貶めるせいで、その輝きを隠してしまわれているのです。それでは本当の貴女の姿を、美しさを見ることは叶いません。違いますか?」
「……」
ディアナは手袋をはめた両手を膝の上で組み、それをきゅっと握りしめた。視線は雲に隠れた月を見つめ続けている。
真昼の空とは違った青い瑠璃色のそれが、不意に明るさを増した。雲が風によって流され、再び白い光を放つ月が現れる。
「シャイン様……」
その光を全身に浴びながら、ディアナは疲れたようにふっと息を漏らす。
そして白銀の睫で鮮やかなすみれ色の瞳を伏せながら、シャインの方へ顔を向けた。
「確かにおっしゃる通りかもしれません。母も自分の容姿には悩んでいましたが、その生き方はとても前向きです。私もそれを見習いたい……」
ディアナがそっと身を乗り出して、シャインの左腕に右手を添えた。
まるで支えを求めるように。
「けれど、どうすればよいのかがわかりません。私自身が、自分に自信がもてないのに、どういう風に振る舞えばよいのでしょう」
夜風に当たって随分時間が経ったせいだろうか。腕にかけたディアナの手が少し冷たくて、わずかに震えているのがわかる。
そろそろ本館に戻るべき頃合だろう。そこで温かい紅茶かワインを飲んで、体を温めた方がいい。
シャインはそう思いながら、けれど無意識のうちに右手を上げて、ディアナの手を包むように乗せた。