第3話 君はどこかの砂山、私もどこかの砂山
文字数 1,227文字
夢は無職にも平等だ。
夢想するだけなら税理士もいらない。
私は今日も散歩する。
いつもなら朝早く起きて歩くのだが、閉じられたシャッターばかり見るのも少々さみしく思い、今日は人々が生活を営みだす時間帯の、普段はいかない遠くにある駅の周辺を、ご迷惑にならぬように散歩する。
……ま、こんなことを述べているが、単に寝坊して朝に歩けなかっただけである。
しかしながら、感じることは多々あった。当然だ。世間はそうでなくちゃ面白くない。
とくに心を動かされたのは、ある美容室を見つけたときだ。
今や美容室は全国でもそこかしこに存在し、今日歩いた駅の周辺でもいくつもの美容室が点在していた。ちなみに私は千円カットだ。それはいいとして。
しかしそれだけ多いと競争率も高くなるのは当然のことで、そのなかで二つの美容室に目が留まる。それらはどちらもマンションの一階で経営しているのだが、その美容室同士の距離が、なんと20mもない。一棟のマンションを間に挟んだ先の、すぐそこにライバルがいる状況。
私はその前を歩いて店内を見比べてみた。
片方は、従業員の数に合わせて、複数の客の髪を切っていた。
もう片方は、受付で一人、自分の髪を撫でていた。
言わずもがな、ここは資本主義。弱肉強食の世界。経営という名の殴り合い。
こればかりは仕方のないことだが、どこからも必要とされてないあの光景を見ると、どうにも可哀そうに思えてくる。きっとオープンした当初は「儲けてやるぞ!」とか「有名になってやるぞ!」とか、人間らしい夢をもっていたはずだろうに。まことに失礼ながら、素人目から見ても、そんなに長くはないなと判断できてしまう。
今までやってきたことが徒労に終わる。
店の内装を考えたことや、新しい商売道具を買ったことや、その他諸々が。
そう思ったとき、他人のことながら、終わってしまう悲しさが胸の奥から込み上げてきた。
その美容室に限ったことじゃない。
世間では今もなお終わってしまった、夢破れた人が吐く息のごとく平然と生産され続ける。
才能のなかった者、運に見放された者、自分に勝てなかった者、諦めた者……。
私は考える。はたして彼らのやってきたことは無駄だったのか。
否、私はそれを認めたくない。
我々の夢は砂粒で、その業界を砂山と考える。
たとえ夢が破れたとしても、その夢という砂粒が無数に集まったからこそ、その業界の砂山が高く大きくなっていったのだと、一角になれず端まで転がり落ちて破れた夢がその山を支えているのだと。
私は、そう思いたい。
人が何かをはじめた時、それはすでに意味を持ち、役に立っている。
無論、成就するに越したことはない。
あの美容室は、無駄なんかじゃない。
それに長くないなんて言うのは、やっぱり失礼だ。これからだ。きっとこれからなのだ。
がんばろう。
しかしながら、無職という砂粒はどの砂山に当てはまるのだろうか。
……まさか黄砂ではないよな?
夢想するだけなら税理士もいらない。
私は今日も散歩する。
いつもなら朝早く起きて歩くのだが、閉じられたシャッターばかり見るのも少々さみしく思い、今日は人々が生活を営みだす時間帯の、普段はいかない遠くにある駅の周辺を、ご迷惑にならぬように散歩する。
……ま、こんなことを述べているが、単に寝坊して朝に歩けなかっただけである。
しかしながら、感じることは多々あった。当然だ。世間はそうでなくちゃ面白くない。
とくに心を動かされたのは、ある美容室を見つけたときだ。
今や美容室は全国でもそこかしこに存在し、今日歩いた駅の周辺でもいくつもの美容室が点在していた。ちなみに私は千円カットだ。それはいいとして。
しかしそれだけ多いと競争率も高くなるのは当然のことで、そのなかで二つの美容室に目が留まる。それらはどちらもマンションの一階で経営しているのだが、その美容室同士の距離が、なんと20mもない。一棟のマンションを間に挟んだ先の、すぐそこにライバルがいる状況。
私はその前を歩いて店内を見比べてみた。
片方は、従業員の数に合わせて、複数の客の髪を切っていた。
もう片方は、受付で一人、自分の髪を撫でていた。
言わずもがな、ここは資本主義。弱肉強食の世界。経営という名の殴り合い。
こればかりは仕方のないことだが、どこからも必要とされてないあの光景を見ると、どうにも可哀そうに思えてくる。きっとオープンした当初は「儲けてやるぞ!」とか「有名になってやるぞ!」とか、人間らしい夢をもっていたはずだろうに。まことに失礼ながら、素人目から見ても、そんなに長くはないなと判断できてしまう。
今までやってきたことが徒労に終わる。
店の内装を考えたことや、新しい商売道具を買ったことや、その他諸々が。
そう思ったとき、他人のことながら、終わってしまう悲しさが胸の奥から込み上げてきた。
その美容室に限ったことじゃない。
世間では今もなお終わってしまった、夢破れた人が吐く息のごとく平然と生産され続ける。
才能のなかった者、運に見放された者、自分に勝てなかった者、諦めた者……。
私は考える。はたして彼らのやってきたことは無駄だったのか。
否、私はそれを認めたくない。
我々の夢は砂粒で、その業界を砂山と考える。
たとえ夢が破れたとしても、その夢という砂粒が無数に集まったからこそ、その業界の砂山が高く大きくなっていったのだと、一角になれず端まで転がり落ちて破れた夢がその山を支えているのだと。
私は、そう思いたい。
人が何かをはじめた時、それはすでに意味を持ち、役に立っている。
無論、成就するに越したことはない。
あの美容室は、無駄なんかじゃない。
それに長くないなんて言うのは、やっぱり失礼だ。これからだ。きっとこれからなのだ。
がんばろう。
しかしながら、無職という砂粒はどの砂山に当てはまるのだろうか。
……まさか黄砂ではないよな?