第一話 はじまり
文字数 7,513文字
(――お母さん)
ぼんやりと足元が照らされている。
自身の足音が反響し、立ち止まると余韻を残してようやく収まりを見せた。まるで深い水底にでもいるかのようだ。
手に触れる懐かしさを含む温もり。それは少女の母によるもので、互いに手を取り合いながらこの暗い螺旋階段を登っていた。
(あそこに行けば、ここから抜け出せる……)
暗闇に差し込む微かな光。螺旋階段の先を見上げると、天井から一筋のそれが差し込んでおり、その微かな残滓がこちらまで辿り着けているようだ。
暗闇に覆われた者であれば、皆同じ行動をするであろう。足は自然と吸い込まれてゆき、一段、また一段と階段は音を鳴らした。
水面に大きな石が投げ込まれたかのようであった。突如、聞き覚えのない鈍い音が螺旋階段に鳴り響いた。急いたせいか、手を引かれていた母がつまずき、地に手をついてしまったのだった。
慌てて振り返る。良かった、何処も怪我をしていない。するりと抜けていた手を、少女は今一度差し出した。母は微笑んで、少女のその手を取り立ちあがる。
さぁ前を向いて、再び歩き出そうとした時、また聞き覚えのない音が螺旋階段に響いた。その声は酷く重々しい。
「……無理だ。お前如きでは抜け出せない」
首筋に冷たい汗が伝う。振り返ると、真っ黒なぼろ布を羽織った大きな鎌を持った骸が、自分のいる螺旋階段の数段下から、こちらを見上げているではないか。
(いや!)
母の手を強く握り締め、光の差し込む方へ駆け出した。激しい律動が螺旋階段に反響し、不規則な旋律を奏でた。
「……無理だと言っているだろう」
その声には不気味な笑みが混じっている。
「……お前では救えない」
少女の腕が突然がくん、と重くなり、掴んでいた母の手を離してしまった。振り返ると、骸が母の足を掴み、螺旋階段の下方へ引きずっている。
「……お前では助けられない」
骸は母を引きずりながら、より深い笑みを浮かべる。
母は必死に少女の方へ手を伸ばす。少女も母へ手を伸ばす。しかし届かない。
「……お前では無理だ」
骸は立ち止まり、こちらを向くと、大きな鎌を母へと振りかざした。
「お前は誰も救えない」
「いやあぁぁぁ!」
少女は大きな叫び声をあげながら、目を覚ました。額には滝のような汗が滴っている。
何度か、はぁはぁと肩を上げながら大きな呼吸をした後、ようやくここが、いつも自分が寝ていたベッドの上だと気がついた。
(……また夢を)
彼女の名はオリビア。齢は十四。宝石を思わせる緑色の瞳、肩にかかる金糸を束ねたような髪、色素の薄い頬にうっすら残るそばかすは、いかにもこの地域に住む者らしい特徴をとらえている。
彼女は、ひと月前にたった一人の家族である母を亡くしてから、毎夜眠りにつく度、悪夢に襲われていた。
(……お母さん)
部屋の片隅で高熱にうなされ、苦痛に歪んだ母の表情をはっきりと覚えている。そして何より、その苦痛に対し、ただ寄り添う事しかできなかった自分の弱さが、強い痛みとして心を覆っていた。
思えば、知人と町に行った辺りから、母の様子はおかしかった。初めは乾いた咳が目立ち、いかにも風邪ひいたような症状だった。いつものように、横になり十分な休息を取らせていれば、すぐに良くなるだろう。そう思っていた。
しかし、日に日に母の容体は悪化し、身体はやせ細り、ぶつけたような不気味な青い痣が全身を覆いはじめた。その症状は、二百年近く前にこの国を襲ったと聞く、流行り病と全く同じものだった。
一度終息したはずの病が何故再び姿を現したのか。そして何故母が……。
死……。
父は物心つく前に亡くなったと聞いており、ここまで身近で死を感じた経験は今までになかった。当たり前のように日常が過ぎて行き、これからも訪れるとばかり思っていた。
いつか物事には必ず終わりを迎える。当たり前の事なのに、どうして今まで気がつかなかったのだろう。もっともっと伝えたい事が沢山あったのに。何故こんなにも早く終わりが訪れたのだろうか。
答えの出ない問いや悔いは、毎晩瞼を閉じると、こうして悪夢に姿を変え、彼女を襲っていた。
大きなため息をついた時、少し気が休まったのか、ようやく叩きつける強い雨風の音に気がついた。これが原因で、あの暗い螺旋階段にいる夢を見たのかもしれない。窓や屋根をつたう水の音は、まるで川の中にでもいるかのようだ。
雨風の唸り声の中、微かに外からカラカラと何かが転がる音が聞こえ、やがてどん、と家の壁にぶつかった。近所の井戸から水を汲んでくる時に使う桶が、強風で転がっているのかもしれない。
オリビアは重い腰を上げて、ベッドから這いずり出ると、部屋の隅に置いてある燭台に火をつけ、玄関へと向かった。最近少ししか食事が喉を通っていなかったのもあってか、普段開けている玄関の木の扉は石のそれのように重い。
扉を開けると、滝の前にでもいるかのごとく、雨が地面を叩きつけていた。
身体が濡れないよう、家の壁に沿うようにして音のした方向に向かうと、予想した通り、水汲み用の桶が風に煽られ、くるくると回っている姿が、ガラス窓から差し込む燭台の灯りにうっすらと照らし出されていた。
──ゴロゴロ……。
桶を取ろうと、手を伸ばした瞬間だった。雨の音が聞こえなくなるほどのすさまじい轟音と、眩しい光が全身を貫いた。
「雷!?」
音の大きさからして、すぐ近くに落ちたようだ。オリビアは思わず辺りを見回した。
「あれ…は?」
家の目の前にある、チェルネツの森の向かいの草地に目をやった時、そこに何かがあるのに気がついた。灯りひとつない暗闇の中で、ぼんやりと何かが白く光っている。
よく目を凝らして見ると、それは柱のような棒状の物に、丸い球体が先端に付いており、全体に布がかぶさっているように見える。
(まさか……人?)
それは人間が跪いた姿に良く似た形をしていた。
より目を凝らして見つめていると、それは崩れ去るように地面へと倒れた。
(もしかして、誰か雷に打たれたんじゃ!!)
そう思った瞬間、全力でその光るものへと駆け出していた。雨風など気にしていられない。跳ねた泥で服が汚れることなど頭になかった。
僅か数秒後。その光る物体に駆け寄ると、オリビアは息を飲んだ。積りたての雪のように、真っ白い肌に真っ白な髪。半ば浮世離れした風貌の女性が、ぬかるんだ地面に横たわっていたのである。
その者は神話に出てくる神の使いように、たるんだ長いローブをまとっている。すっとした細い顔立ちから、自分よりも年上に見えるが、もはや人なのだろうか、うっすらと淡い光を放つその姿は、この世のものではないように感じられる。
ここチェルネツの森周辺は、ある理由から、人々に忌み嫌われており、古くからこの地には少数の人間しか住んでいない。オリビア自身も、赤子の頃からずっとこの家で暮らしていた。
その白き女性は、今までこの地に住んでいて一度も見たことがない人物であった。瞼を閉じ、眉間にしわを寄せているが、禍々しい雰囲気は醸していない。もしかしたら、本当に神の使いが天から落ちてきたのかもしれない。そう思うほどに神秘的であった。
「……う」
不思議そうに眺めていると、その者はかすかに口を開き、声を漏らした。同時に閉じられていた瞳が、微かに開かれる。
白き女性のその行為は、少女に後ずさりを促した。数呼吸後、オリビアは困惑を交え、声を発した。
「……あ、あの?」
それを聞き、白き女性の顔はこちらを向いた。はっきりと見えていないのだろうか、瞳はこちらを定めておらず、見開いたまま宙を仰いでいる。
「……グ……ンデに」
弱々しい声はところどころ豪雨にかき消されて聞こえない。
「え?」
少女は思わずは屈みこんで、その者の口元に耳を近づける。
「グリンデに」
「グ、グリンデ?」
その白き女性はそう言うと、オリビアに手を伸ばした。指先には古ぼけた丸い板状の物が握られている。
「チェルネツの……森深くに住む魔女にこれを渡して」
「待ってください。貴方はいったい……」
「時間がないの……。お願い、これをグリンデに」
こちらの問いに答えることなく、彼女は必死に訴えかける。その表情は苦痛にゆがんでいる。
あまりに突然、そして予想もしていなかった言葉を受けた者として当然の行動かもしれない。呼吸も忘れ、呆然としていると、ぼんやりと輝いていた彼女の身体がより強く輝き始めた。少女は驚き、再び一歩退き下がる。
「どうか……おねが……」
次の瞬間、彼女の背から光る羽根のようなものが飛び散り、辺りは強い光に包まれた。
輝きが薄れ、かざしていた手を瞼からどかすと、更なる意表を突かれた。なんと彼女の姿は何処にも見当たらなかったのである。辺りを見回しても、何もない。見慣れた風景にただ豪雨が降り注いでいるだけであった。
(え……)
一体何が起きているのか。全くもって理解が出来ない。自分はまだ、あの悪夢から覚めてはいないのだろうか。
足元の地面には、先ほどの白き女性が手渡そうとしたコインのような物が転がっている。
恐る恐る震える手で、そっとそのコインに手を伸ばした。冷たく硬い感触が指先に触れた。
グリンデの伝説について、この国で知らない者はいない。オリビアも幼い頃から多く聞かされてきた。
服を着替え、乾いた布で濡れた髪を拭きながら、昔、自分が聞かされたその話を思い出していた。
今から百六十年ほど前、世にも奇妙な術を使い、この”アリエ帝国”中で暴動を起こした者がいたそうだ。
名をグリンデ。
彼女の力を見た大衆は様々な反応を示した。大半は恐怖に怯え、悪魔呼ばわりする者が占めていた。しかし一部の人間は、彼女の持つその奇妙な力……「魔法」が世界を救うものだと信じ、グリンデこそ神だと崇め始めたのだ。
彼女を救世者だと信じた者……崇拝者達は組織だった集団となり、帝国に対し反旗を翻した。そして当然、帝国側はそれを弾圧にかかった。
当時の世の中は、彼女を悪魔と罵る帝国側と、神と慕う崇拝者達との紛争が相次いだそうだ。
オリビアが産まれる数十年前には、その長きに渡った小競り合いもすっかり終息したそうだが、今でも帝国の王族たちは、その者達が再び大きな勢力になる事を恐れ、水面下で「魔女」を語る者達を弾圧しているとの噂を聞いたこともある。
オリビアは、真の天使の血を引く帝国の王族が、過去に魔女を弾圧した事によって、この国に生きる民は今も平和に生きていられるのだ、と教えられていた。
彼女に対する伝説は多く残っているのだが、事の発端であるグリンデが姿を現わしてから一世紀以上の年月が経っており、何が本当の話なのか、ましてその話自体が真実であるのか、田舎暮らしの一庶民の自分には知る術がないのが事実であった。
黒い髪に黒い瞳。数多くある伝説の中で、彼女に対する容姿の共通点はそれくらいで、ある時は真っ黒な仮面をまとい、ある時は小柄で黒い翼の生えた老婆となり、はたまたある時は額に滑らかな角が生えていることもあった。
グリンデの伝説には数多くのぶれが存在しており、語る人間によって姿を変えた。しかし、どの伝説にも、ぴたりと軸を変えない唯一の箇所があった。それがチェルネツの森であった。
森はグリンデが最後に目撃された場所だと言われている。
母の知人の伝手を使い、はるばる帝国の城下町に行った機会があるのだが、ふとその町の者にチェルネツの森のそばに住んでいる事を告げると、皆そろって渋そうに顔をゆがめるので、不思議に思い、そのことを母に尋ねると、グリンデの伝説が原因で、森周辺に住む人々を不気味に思う人も多いとの話を聞かされた。
このチェルネツの森周辺に、人がほとんど立ち寄らない理由もグリンデが原因だそうだ。
オリビアは、母に伝えられた伝説の中でも、チェルネツの森の奥に入ると、どこからともなくグリンデが現れ、その者をこらしめるという話を、何度も幼少の頃に聞かされていた。特に、グリンデは笛の音が嫌いで、森の中では絶対に吹くなと教えられている。
とにかくグリンデと森に関する話は多く存在していた。
しかし今となっては、その話は、森奥に子供たちが行かないようにする為の、こじつけだと結論づけている。
森の奥深くには、多くの獰猛な獣達が生息していると古くから言い伝えられており、大人達も足を運ぶ事は全くなかった。奇妙な術を使える魔女とはいえ、そのような森の奥に人が住んでいるはずがないのである。
オリビアは髪を拭いて湿った布を籠へ入れると、テーブルの上に置いたあのコインを見つめた。
見た事のない白き女性は、チェルネツの森奥に住むグリンデにこのコインを渡すように伝え、そして消えた。
コインは、灯された燭台の灯りを鉛色の身に重ね、より不穏な存在感を放っている。動揺していたのもあってか、深く考えずに手でつかみ、家へ持ち帰ってしまったが、今こうして見つめていると不気味で仕方がなかった。
何か良からぬ事が起きるのではないか。このまま家に置いておくと拙いのではないか。頭の中には不安が渦巻いている。コインが置いてあるテーブルに、近づいては離れることを何度も繰り返し、気が付けば部屋の中をぐるぐると歩きまわっていた。
このままじゃ気が落ち着かない。いつもきまって考え事をするときに飲んでいる、お気に入りの紅茶を淹れる事にした。
竈の炭に火を付け、部屋の角に置いてある水甕から水を掬い、薬缶に入れる。薬缶を竈に置き、あとは水が沸騰するのを待つだけ。そう思いベッドに腰掛けた。
後少しで水が沸騰する寸前、紙に茶葉を包むのを忘れていた事を思い出し、急いで棚の引き出しを開けた。薄手の濾紙を手に取り、竈の隣にある小さな調理台に広げると、先ほどの棚の一番上に置いてある、筒缶を開けて中身を濾紙に乗せる。少し急いでいたせいか、いつもより多く葉を乗せてしまったが、今日は特別に許すことにした。
ちょうど水が沸いたようだ。濾紙をくるっと丸め、紐で縛りカップへ入れると、そこにお湯を注ぐ。
待っている時間が長く感じる。少し早かったように思ったが、直ぐにでも落ち着きたかった。いつもより早く口元へ近づけられたカップは、少女の舌に熱を教えた。熱さが和らいだ後も、少し濃い茶葉の香りがまだ鼻に残っている。
(……夢ではない)
やはりこれは現実の出来事であると、確かに伝えているのであった。
カップを机の端に置き、椅子に腰かけると、少し遠くから再びあのコインを見つめた。
グリンデに会いにチェルネツの森へ……。それはとても馬鹿馬鹿しい話である。
そもそもグリンデは百六十年前に生きていた魔女だ。普通に考えたら生きているはずがない。その摩訶不思議な術……魔法を使い生き延びているとでも言うのだろうか。
(そんなものはありえない……ありえないけど……)
先ほど見た白き女性が、光を放ちながら消える姿が頭から離れる訳がない。それに目の前で起きたあの奇妙な現象が夢ではない事は、紛れもない事実だと舌の痛みがしっかりと語っている。
あの人は何処から来て、何処へ消えたのか。そして何の意図を持って、このコインをグリンデに渡すように頼んだのか。チェルネツの森に行けば何か分かるのだろうか。
再び紅茶を口に注ぐ。少し冷めてきたからだろうか、淹れたての頃より、味や香りが濃く感じられた。
(グリンデ……)
記憶の中にある、彼女の様々な伝承が頭の中を駆け巡る。その中で、彼女が人を治癒する薬を所持しているという伝承を思い出した。その薬を飲むと、たちまちどんな病でも治ってしまうという。いかにも神話や伝説によくある話だ。そういった話は、現実に叶う事の出来ない願いや希望を反映した創作物だ、と誰かが言っていたような記憶もある。中には、彼女が死者を蘇らせる力を持っているという伝説もあった。
(その伝説が本当なら、お母さんも生き返らせれるのかな)
記憶は徐々に現在へと近づいていく。グリンデの話は、母の思い出も引き連れてきた。もしこんな時、母がいてくれたらどんなに助けになってくれただろう。母なら何と自分に言葉をかけるのだろう。
(森へ行っては駄目。そんな気持ち悪いもの捨てなさい、とか言うのかな……)
景色が歪み、手にしているカップは霧に覆われたかのように霞を見せている。頬には既に一筋の滴がつたっていた。
死者を生き変えらせる事はできない。そんなことは自分でもわかっている。おそらくその話も人々が希望を求めた結果なのだろう。世の理に反した力など持っているはずなどない。
(……でも)
一瞬だけでも良い。もし母に再び会う事が出来たら……一言だけでも良い、言葉を交わせるならどんなに幸せだろうか。
今まで、母が亡くなった事に対して少し目を反らしていたのかもしれない。さっき起きた出来事が、現実の事だと強く伝えているのを実感し始めたのもあってか、気がつくと、嗚咽と共に大粒の涙が溢れ出てきた。
さっきから降り続いている豪雨も、オリビアの涙に同調するように、より強く音をたて始めた。
どれくらい泣いていたのだろう。着ていた服は、涙をぬぐわれて、ぐちゃぐちゃになっている。
自分が静かになると、先ほどより外が静かになっている事に気がついた。雨は降っているようだが、窓を叩く音はずいぶんと穏やかになっている。
今度は恐怖を感じなかった。オリビアは立ちあがり、いつも使っている少し大きな革の鞄に例のコインを入れた。そして、一風奇妙な形をしているランタンと、使い古された傘と松明を手に取り、立ち上がった。
(確かめるだけでも……)
そう自分に言い聞かせた時には、玄関の扉に手がかかっていた。不思議と先ほどより軽く感じている。迷わずそれを押し出した。
玄関に出ると、ランタンを置き、革の鞄から火打石を取りだした。開きかけの玄関の扉を風除けにして、松明に火をつける。ぼうっという音と共に辺りは明るみを彩った。
松明には油が染み込んである。少しの雨なら濡れても平気だろう。とはいっても、森の中に入って少しでもしたら、このたいまつは意味を持たなくなくなってしまうのだが。
多くの危険があることに対し恐怖心はあったのだが、自分にはもう帰りを待つ者はいない、半ば自棄を起こしている部分もあるだろう。もはや頭の中は、再び母に会えるのではないかという希望だけが占めていて、グリンデが存在しているのかを確かめる事の方が、恐怖心や疑念より大きく勝っているのであった。今すぐにでも会いたい……日が登って、明るくなってから行けばいいという考えは浮かばなかった。
ランタンの取っ手を左腕にかけ、右手に松明を握りしめる。オリビアは一度大きく深呼吸すると、一人暗闇の中、森へと駆けだしていった。
ぼんやりと足元が照らされている。
自身の足音が反響し、立ち止まると余韻を残してようやく収まりを見せた。まるで深い水底にでもいるかのようだ。
手に触れる懐かしさを含む温もり。それは少女の母によるもので、互いに手を取り合いながらこの暗い螺旋階段を登っていた。
(あそこに行けば、ここから抜け出せる……)
暗闇に差し込む微かな光。螺旋階段の先を見上げると、天井から一筋のそれが差し込んでおり、その微かな残滓がこちらまで辿り着けているようだ。
暗闇に覆われた者であれば、皆同じ行動をするであろう。足は自然と吸い込まれてゆき、一段、また一段と階段は音を鳴らした。
水面に大きな石が投げ込まれたかのようであった。突如、聞き覚えのない鈍い音が螺旋階段に鳴り響いた。急いたせいか、手を引かれていた母がつまずき、地に手をついてしまったのだった。
慌てて振り返る。良かった、何処も怪我をしていない。するりと抜けていた手を、少女は今一度差し出した。母は微笑んで、少女のその手を取り立ちあがる。
さぁ前を向いて、再び歩き出そうとした時、また聞き覚えのない音が螺旋階段に響いた。その声は酷く重々しい。
「……無理だ。お前如きでは抜け出せない」
首筋に冷たい汗が伝う。振り返ると、真っ黒なぼろ布を羽織った大きな鎌を持った骸が、自分のいる螺旋階段の数段下から、こちらを見上げているではないか。
(いや!)
母の手を強く握り締め、光の差し込む方へ駆け出した。激しい律動が螺旋階段に反響し、不規則な旋律を奏でた。
「……無理だと言っているだろう」
その声には不気味な笑みが混じっている。
「……お前では救えない」
少女の腕が突然がくん、と重くなり、掴んでいた母の手を離してしまった。振り返ると、骸が母の足を掴み、螺旋階段の下方へ引きずっている。
「……お前では助けられない」
骸は母を引きずりながら、より深い笑みを浮かべる。
母は必死に少女の方へ手を伸ばす。少女も母へ手を伸ばす。しかし届かない。
「……お前では無理だ」
骸は立ち止まり、こちらを向くと、大きな鎌を母へと振りかざした。
「お前は誰も救えない」
「いやあぁぁぁ!」
少女は大きな叫び声をあげながら、目を覚ました。額には滝のような汗が滴っている。
何度か、はぁはぁと肩を上げながら大きな呼吸をした後、ようやくここが、いつも自分が寝ていたベッドの上だと気がついた。
(……また夢を)
彼女の名はオリビア。齢は十四。宝石を思わせる緑色の瞳、肩にかかる金糸を束ねたような髪、色素の薄い頬にうっすら残るそばかすは、いかにもこの地域に住む者らしい特徴をとらえている。
彼女は、ひと月前にたった一人の家族である母を亡くしてから、毎夜眠りにつく度、悪夢に襲われていた。
(……お母さん)
部屋の片隅で高熱にうなされ、苦痛に歪んだ母の表情をはっきりと覚えている。そして何より、その苦痛に対し、ただ寄り添う事しかできなかった自分の弱さが、強い痛みとして心を覆っていた。
思えば、知人と町に行った辺りから、母の様子はおかしかった。初めは乾いた咳が目立ち、いかにも風邪ひいたような症状だった。いつものように、横になり十分な休息を取らせていれば、すぐに良くなるだろう。そう思っていた。
しかし、日に日に母の容体は悪化し、身体はやせ細り、ぶつけたような不気味な青い痣が全身を覆いはじめた。その症状は、二百年近く前にこの国を襲ったと聞く、流行り病と全く同じものだった。
一度終息したはずの病が何故再び姿を現したのか。そして何故母が……。
死……。
父は物心つく前に亡くなったと聞いており、ここまで身近で死を感じた経験は今までになかった。当たり前のように日常が過ぎて行き、これからも訪れるとばかり思っていた。
いつか物事には必ず終わりを迎える。当たり前の事なのに、どうして今まで気がつかなかったのだろう。もっともっと伝えたい事が沢山あったのに。何故こんなにも早く終わりが訪れたのだろうか。
答えの出ない問いや悔いは、毎晩瞼を閉じると、こうして悪夢に姿を変え、彼女を襲っていた。
大きなため息をついた時、少し気が休まったのか、ようやく叩きつける強い雨風の音に気がついた。これが原因で、あの暗い螺旋階段にいる夢を見たのかもしれない。窓や屋根をつたう水の音は、まるで川の中にでもいるかのようだ。
雨風の唸り声の中、微かに外からカラカラと何かが転がる音が聞こえ、やがてどん、と家の壁にぶつかった。近所の井戸から水を汲んでくる時に使う桶が、強風で転がっているのかもしれない。
オリビアは重い腰を上げて、ベッドから這いずり出ると、部屋の隅に置いてある燭台に火をつけ、玄関へと向かった。最近少ししか食事が喉を通っていなかったのもあってか、普段開けている玄関の木の扉は石のそれのように重い。
扉を開けると、滝の前にでもいるかのごとく、雨が地面を叩きつけていた。
身体が濡れないよう、家の壁に沿うようにして音のした方向に向かうと、予想した通り、水汲み用の桶が風に煽られ、くるくると回っている姿が、ガラス窓から差し込む燭台の灯りにうっすらと照らし出されていた。
──ゴロゴロ……。
桶を取ろうと、手を伸ばした瞬間だった。雨の音が聞こえなくなるほどのすさまじい轟音と、眩しい光が全身を貫いた。
「雷!?」
音の大きさからして、すぐ近くに落ちたようだ。オリビアは思わず辺りを見回した。
「あれ…は?」
家の目の前にある、チェルネツの森の向かいの草地に目をやった時、そこに何かがあるのに気がついた。灯りひとつない暗闇の中で、ぼんやりと何かが白く光っている。
よく目を凝らして見ると、それは柱のような棒状の物に、丸い球体が先端に付いており、全体に布がかぶさっているように見える。
(まさか……人?)
それは人間が跪いた姿に良く似た形をしていた。
より目を凝らして見つめていると、それは崩れ去るように地面へと倒れた。
(もしかして、誰か雷に打たれたんじゃ!!)
そう思った瞬間、全力でその光るものへと駆け出していた。雨風など気にしていられない。跳ねた泥で服が汚れることなど頭になかった。
僅か数秒後。その光る物体に駆け寄ると、オリビアは息を飲んだ。積りたての雪のように、真っ白い肌に真っ白な髪。半ば浮世離れした風貌の女性が、ぬかるんだ地面に横たわっていたのである。
その者は神話に出てくる神の使いように、たるんだ長いローブをまとっている。すっとした細い顔立ちから、自分よりも年上に見えるが、もはや人なのだろうか、うっすらと淡い光を放つその姿は、この世のものではないように感じられる。
ここチェルネツの森周辺は、ある理由から、人々に忌み嫌われており、古くからこの地には少数の人間しか住んでいない。オリビア自身も、赤子の頃からずっとこの家で暮らしていた。
その白き女性は、今までこの地に住んでいて一度も見たことがない人物であった。瞼を閉じ、眉間にしわを寄せているが、禍々しい雰囲気は醸していない。もしかしたら、本当に神の使いが天から落ちてきたのかもしれない。そう思うほどに神秘的であった。
「……う」
不思議そうに眺めていると、その者はかすかに口を開き、声を漏らした。同時に閉じられていた瞳が、微かに開かれる。
白き女性のその行為は、少女に後ずさりを促した。数呼吸後、オリビアは困惑を交え、声を発した。
「……あ、あの?」
それを聞き、白き女性の顔はこちらを向いた。はっきりと見えていないのだろうか、瞳はこちらを定めておらず、見開いたまま宙を仰いでいる。
「……グ……ンデに」
弱々しい声はところどころ豪雨にかき消されて聞こえない。
「え?」
少女は思わずは屈みこんで、その者の口元に耳を近づける。
「グリンデに」
「グ、グリンデ?」
その白き女性はそう言うと、オリビアに手を伸ばした。指先には古ぼけた丸い板状の物が握られている。
「チェルネツの……森深くに住む魔女にこれを渡して」
「待ってください。貴方はいったい……」
「時間がないの……。お願い、これをグリンデに」
こちらの問いに答えることなく、彼女は必死に訴えかける。その表情は苦痛にゆがんでいる。
あまりに突然、そして予想もしていなかった言葉を受けた者として当然の行動かもしれない。呼吸も忘れ、呆然としていると、ぼんやりと輝いていた彼女の身体がより強く輝き始めた。少女は驚き、再び一歩退き下がる。
「どうか……おねが……」
次の瞬間、彼女の背から光る羽根のようなものが飛び散り、辺りは強い光に包まれた。
輝きが薄れ、かざしていた手を瞼からどかすと、更なる意表を突かれた。なんと彼女の姿は何処にも見当たらなかったのである。辺りを見回しても、何もない。見慣れた風景にただ豪雨が降り注いでいるだけであった。
(え……)
一体何が起きているのか。全くもって理解が出来ない。自分はまだ、あの悪夢から覚めてはいないのだろうか。
足元の地面には、先ほどの白き女性が手渡そうとしたコインのような物が転がっている。
恐る恐る震える手で、そっとそのコインに手を伸ばした。冷たく硬い感触が指先に触れた。
グリンデの伝説について、この国で知らない者はいない。オリビアも幼い頃から多く聞かされてきた。
服を着替え、乾いた布で濡れた髪を拭きながら、昔、自分が聞かされたその話を思い出していた。
今から百六十年ほど前、世にも奇妙な術を使い、この”アリエ帝国”中で暴動を起こした者がいたそうだ。
名をグリンデ。
彼女の力を見た大衆は様々な反応を示した。大半は恐怖に怯え、悪魔呼ばわりする者が占めていた。しかし一部の人間は、彼女の持つその奇妙な力……「魔法」が世界を救うものだと信じ、グリンデこそ神だと崇め始めたのだ。
彼女を救世者だと信じた者……崇拝者達は組織だった集団となり、帝国に対し反旗を翻した。そして当然、帝国側はそれを弾圧にかかった。
当時の世の中は、彼女を悪魔と罵る帝国側と、神と慕う崇拝者達との紛争が相次いだそうだ。
オリビアが産まれる数十年前には、その長きに渡った小競り合いもすっかり終息したそうだが、今でも帝国の王族たちは、その者達が再び大きな勢力になる事を恐れ、水面下で「魔女」を語る者達を弾圧しているとの噂を聞いたこともある。
オリビアは、真の天使の血を引く帝国の王族が、過去に魔女を弾圧した事によって、この国に生きる民は今も平和に生きていられるのだ、と教えられていた。
彼女に対する伝説は多く残っているのだが、事の発端であるグリンデが姿を現わしてから一世紀以上の年月が経っており、何が本当の話なのか、ましてその話自体が真実であるのか、田舎暮らしの一庶民の自分には知る術がないのが事実であった。
黒い髪に黒い瞳。数多くある伝説の中で、彼女に対する容姿の共通点はそれくらいで、ある時は真っ黒な仮面をまとい、ある時は小柄で黒い翼の生えた老婆となり、はたまたある時は額に滑らかな角が生えていることもあった。
グリンデの伝説には数多くのぶれが存在しており、語る人間によって姿を変えた。しかし、どの伝説にも、ぴたりと軸を変えない唯一の箇所があった。それがチェルネツの森であった。
森はグリンデが最後に目撃された場所だと言われている。
母の知人の伝手を使い、はるばる帝国の城下町に行った機会があるのだが、ふとその町の者にチェルネツの森のそばに住んでいる事を告げると、皆そろって渋そうに顔をゆがめるので、不思議に思い、そのことを母に尋ねると、グリンデの伝説が原因で、森周辺に住む人々を不気味に思う人も多いとの話を聞かされた。
このチェルネツの森周辺に、人がほとんど立ち寄らない理由もグリンデが原因だそうだ。
オリビアは、母に伝えられた伝説の中でも、チェルネツの森の奥に入ると、どこからともなくグリンデが現れ、その者をこらしめるという話を、何度も幼少の頃に聞かされていた。特に、グリンデは笛の音が嫌いで、森の中では絶対に吹くなと教えられている。
とにかくグリンデと森に関する話は多く存在していた。
しかし今となっては、その話は、森奥に子供たちが行かないようにする為の、こじつけだと結論づけている。
森の奥深くには、多くの獰猛な獣達が生息していると古くから言い伝えられており、大人達も足を運ぶ事は全くなかった。奇妙な術を使える魔女とはいえ、そのような森の奥に人が住んでいるはずがないのである。
オリビアは髪を拭いて湿った布を籠へ入れると、テーブルの上に置いたあのコインを見つめた。
見た事のない白き女性は、チェルネツの森奥に住むグリンデにこのコインを渡すように伝え、そして消えた。
コインは、灯された燭台の灯りを鉛色の身に重ね、より不穏な存在感を放っている。動揺していたのもあってか、深く考えずに手でつかみ、家へ持ち帰ってしまったが、今こうして見つめていると不気味で仕方がなかった。
何か良からぬ事が起きるのではないか。このまま家に置いておくと拙いのではないか。頭の中には不安が渦巻いている。コインが置いてあるテーブルに、近づいては離れることを何度も繰り返し、気が付けば部屋の中をぐるぐると歩きまわっていた。
このままじゃ気が落ち着かない。いつもきまって考え事をするときに飲んでいる、お気に入りの紅茶を淹れる事にした。
竈の炭に火を付け、部屋の角に置いてある水甕から水を掬い、薬缶に入れる。薬缶を竈に置き、あとは水が沸騰するのを待つだけ。そう思いベッドに腰掛けた。
後少しで水が沸騰する寸前、紙に茶葉を包むのを忘れていた事を思い出し、急いで棚の引き出しを開けた。薄手の濾紙を手に取り、竈の隣にある小さな調理台に広げると、先ほどの棚の一番上に置いてある、筒缶を開けて中身を濾紙に乗せる。少し急いでいたせいか、いつもより多く葉を乗せてしまったが、今日は特別に許すことにした。
ちょうど水が沸いたようだ。濾紙をくるっと丸め、紐で縛りカップへ入れると、そこにお湯を注ぐ。
待っている時間が長く感じる。少し早かったように思ったが、直ぐにでも落ち着きたかった。いつもより早く口元へ近づけられたカップは、少女の舌に熱を教えた。熱さが和らいだ後も、少し濃い茶葉の香りがまだ鼻に残っている。
(……夢ではない)
やはりこれは現実の出来事であると、確かに伝えているのであった。
カップを机の端に置き、椅子に腰かけると、少し遠くから再びあのコインを見つめた。
グリンデに会いにチェルネツの森へ……。それはとても馬鹿馬鹿しい話である。
そもそもグリンデは百六十年前に生きていた魔女だ。普通に考えたら生きているはずがない。その摩訶不思議な術……魔法を使い生き延びているとでも言うのだろうか。
(そんなものはありえない……ありえないけど……)
先ほど見た白き女性が、光を放ちながら消える姿が頭から離れる訳がない。それに目の前で起きたあの奇妙な現象が夢ではない事は、紛れもない事実だと舌の痛みがしっかりと語っている。
あの人は何処から来て、何処へ消えたのか。そして何の意図を持って、このコインをグリンデに渡すように頼んだのか。チェルネツの森に行けば何か分かるのだろうか。
再び紅茶を口に注ぐ。少し冷めてきたからだろうか、淹れたての頃より、味や香りが濃く感じられた。
(グリンデ……)
記憶の中にある、彼女の様々な伝承が頭の中を駆け巡る。その中で、彼女が人を治癒する薬を所持しているという伝承を思い出した。その薬を飲むと、たちまちどんな病でも治ってしまうという。いかにも神話や伝説によくある話だ。そういった話は、現実に叶う事の出来ない願いや希望を反映した創作物だ、と誰かが言っていたような記憶もある。中には、彼女が死者を蘇らせる力を持っているという伝説もあった。
(その伝説が本当なら、お母さんも生き返らせれるのかな)
記憶は徐々に現在へと近づいていく。グリンデの話は、母の思い出も引き連れてきた。もしこんな時、母がいてくれたらどんなに助けになってくれただろう。母なら何と自分に言葉をかけるのだろう。
(森へ行っては駄目。そんな気持ち悪いもの捨てなさい、とか言うのかな……)
景色が歪み、手にしているカップは霧に覆われたかのように霞を見せている。頬には既に一筋の滴がつたっていた。
死者を生き変えらせる事はできない。そんなことは自分でもわかっている。おそらくその話も人々が希望を求めた結果なのだろう。世の理に反した力など持っているはずなどない。
(……でも)
一瞬だけでも良い。もし母に再び会う事が出来たら……一言だけでも良い、言葉を交わせるならどんなに幸せだろうか。
今まで、母が亡くなった事に対して少し目を反らしていたのかもしれない。さっき起きた出来事が、現実の事だと強く伝えているのを実感し始めたのもあってか、気がつくと、嗚咽と共に大粒の涙が溢れ出てきた。
さっきから降り続いている豪雨も、オリビアの涙に同調するように、より強く音をたて始めた。
どれくらい泣いていたのだろう。着ていた服は、涙をぬぐわれて、ぐちゃぐちゃになっている。
自分が静かになると、先ほどより外が静かになっている事に気がついた。雨は降っているようだが、窓を叩く音はずいぶんと穏やかになっている。
今度は恐怖を感じなかった。オリビアは立ちあがり、いつも使っている少し大きな革の鞄に例のコインを入れた。そして、一風奇妙な形をしているランタンと、使い古された傘と松明を手に取り、立ち上がった。
(確かめるだけでも……)
そう自分に言い聞かせた時には、玄関の扉に手がかかっていた。不思議と先ほどより軽く感じている。迷わずそれを押し出した。
玄関に出ると、ランタンを置き、革の鞄から火打石を取りだした。開きかけの玄関の扉を風除けにして、松明に火をつける。ぼうっという音と共に辺りは明るみを彩った。
松明には油が染み込んである。少しの雨なら濡れても平気だろう。とはいっても、森の中に入って少しでもしたら、このたいまつは意味を持たなくなくなってしまうのだが。
多くの危険があることに対し恐怖心はあったのだが、自分にはもう帰りを待つ者はいない、半ば自棄を起こしている部分もあるだろう。もはや頭の中は、再び母に会えるのではないかという希望だけが占めていて、グリンデが存在しているのかを確かめる事の方が、恐怖心や疑念より大きく勝っているのであった。今すぐにでも会いたい……日が登って、明るくなってから行けばいいという考えは浮かばなかった。
ランタンの取っ手を左腕にかけ、右手に松明を握りしめる。オリビアは一度大きく深呼吸すると、一人暗闇の中、森へと駆けだしていった。