第26話 恥部を晒す

文字数 891文字

今朝、母からメールがあった。
母は携帯電話を持っていないので、父のものを借りてメールをしてくる。

「きれいなきって ありがとう」

私のせめてもの思いは伝わった。
もらったものを受け取らずに送り返す。
それは、その関係を拒否すること。
例えば、別れた恋人からネックレスが送られてきたら。
なにこれ…と思う。そして受け取らない。送り返す。もうこんなものをもらう関係じゃありませんと。

でも、あなたの存在をないがしろにしたいわけじゃない。
その気持ちを、母がすきそうな絵柄の切手にこめた。
それは伝わった。

良くも悪くも母はプライドのあるひとだから。

距離をとったほうがいい。

顔を合わせていたらこのメールのような言葉は聞けなかったと思う。

母はとにかく誰かに頼りたい。頼りたい一心なのだ。

母は私が幼いころから
「ひとを頼ったらあかん」
と言って聞かせた。

母に文句を言われない正解はなにか、誰にも頼らずに生きていくとはどういうことか、考えた結果、私は必死の思いで公務員になった。

いま思えば、あれは母が母自身に言い聞かせていた言葉なのだと思う。
本当は父に、もっと精神的に支えてほしかったのだと思う。

一昨日父が家に来たこと、そして昨日電話をかけてきたこと。
母となんらかの話をしているのだろう。

そうして話してください。

父も母もまだ元気なのだから。

こどもの手が離れて、晴れてふたりの時間をのんびり過ごせるようになったのだから。
けんかしながらでも父との時間を楽しんだらどうですか?

あんなに父に尽くしたのだから。

母の愚痴を散々聞いてきたけど、母が父を憎んでるようには最後まで思えなかった。

あなたが一番望んでいるのは、父と向き合うことじゃないですか?

私がその役を担おうとしても無理だったのだから。

まずはふたりで向き合ってみたらどうですか?

それでも無理なら、なにか楽しみを見つけてください。

本当に困ったらほっとくわけにはいかないのだろうから。

そのときに少しでもいい関係でいられるように、今は距離を置きましょう。

おかげさまで、私はあなたたちに頼らなくても生きていけるようになりました。

育ててくれてありがとう。

本当にありがとうございました。


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