3 理事種族バールゼブルの意見

文字数 1,018文字




「旧皇帝領復興開発長官バールゼブルもまた、厳しい意見を持っています。彼女は大戦勃発時、皇帝親衛軍の提督でしたが、先帝を守護し、その真意を確認するため、独断で皇帝直轄領に進入しました。しかし、超空間駆動を装備する中枢種族ゾフィエルの秘匿艦隊から、反乱軍と断定され、超新星化攻撃を含む奇襲を受けました。彼女は自艦隊と皇帝領の全滅を阻止すべく、機転によって自らもやむを得ず複数の恒星を先行破壊し、重力場の攪乱(かくらん)による超空間離脱点の変動を利用して、辛くも敵艦隊の撃破に成功しました。しかし、この戦闘では多数の臣民が巻き込まれて犠牲となり、他種族間での戦闘もあいまって、皇帝領の大半が不可住宙域となってしまいました」

バールゼブルは小柄だが気品があり、育ちの良さそうな少女の姿をしていた。彼女は王族・女官・労働者からなる生物学的階層社会を築く、蜜蜂に似た社会性昆虫から進化した種族だ。かつてはその冷酷非情さと、〝アバドン〟と呼ばれる群知能(ぐんちのう)兵器を駆使した戦術で恐れられる軍事種族だった。しかし彼女もまた、量子頭脳への人格移転(マインドアップローディング)を機に、民主的で平和的な種族に生まれ変わっている。これは中枢種族の専制化が、人格群への権限配分の偏りと固定化にあるとみたサタンが、処置を担当する友好種族ストラスに助言して、改善を図ったことによる。

「戦後彼女は自ら現在の地位を希望して、〝地獄王〟の異名を甘受しつつ星域の復興に尽力しました。彼女はまた大戦の真相を究明すべく、技術部門副長官アミーと情報部門副長官グラシャラボラスの良き補佐を得て、旧帝国遺物の回収と分析に努めました。特に最近の業績としては、星域内で〝先帝〟のものと思われる記憶組織の破片が発見され、そこには中枢種族による途上種族への重罪を構成する、多数の発展歪曲・対立煽動工作が記されていました。この事実は旧体制下における歴史的犯罪と、証拠隠滅工作を含む内紛による先帝の崩御または重大な損傷を推認させるものであり、これにより彼女もまた、旧帝国の責任ある種族に対する厳正な処罰、あるいは修復・再生の放棄を求める意見を有するに至ったのです」

かつては命令と本能で動くだけの個体を数多く抱え、政治的には下級種族と見られていたことや、人格量子化後の不調を名目に親衛軍の第一線から外れていたことから、彼女の変心は広く知られることはなかった。しかし、以後の発展を考えると彼女にも、交渉のために強硬派を演じている部分があるのだろう。
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