第20話

文字数 1,027文字

「翌朝、ドロシーがレストランにつくと、先に来ていたミカエルとノーラがやけにそわそわしているのを目にした。

 すると、ミカエルが『おかみさんがまだ来てないんだ』と教えてくれた。
 とっくにおかみさんは来ている時間だったから、ドロシーの口からは『えっ』と声が漏れてね。

『三階にも二階にもいないのよ』ノーラも言いながら、握っていた鍵束を示した。

 ドロシーも念のためニ階、三階と順に見てみたけど、確かにおかみさんの姿は見当たらない。

『裏の厩は?』ドロシーが訊くと、ミカエルが『行ってみよう』と先頭になって外へ出た。


 厩と言っても、そこに馬は一頭もいなくてね。物置き小屋の下に位置する、単なるゴミ捨て場だったんだ。

 そこで野菜の皮など捨てているおかみさんが『あら、あんたたち。どうしたの』と声をかけてくる、なんてことはなかった。やはり、ここにもいない。

 三人はそばのはしごを登り、残る物置き小屋も見てみることにした。鍵束の中から、目的の鍵はすぐに見つかってね。

 ただし、中に入ったはいいけど、そこはしばらくの間、鼠一匹も侵入したことがないとはっきりわかる、埃だらけの場所だった。
 三人が歩くたび、そこら中で埃がもうもうと舞い、床にはそれぞれの足跡が新しくついた。

 もう使えなくなったほうきや片方だけの靴など、雑然と置かれた古道具の中に、ドロシーが見覚えのある物を見つけ、それを指差した。

『あれって、ミカエルのお爺さんが使っていた物じゃない?あの絵の中で』
『本当だ』ミカエルが言うと、みんなそれに歩み寄っていった。

 それは、部屋の隅にある古びたタンスに乗っかっていてね。他の諸々の物と同様、かなり長い間そこに放置されていたようだった。
 小さな蓄音器のよう。だけど蓄音器ではない。ラッパのような筒は二本あって、片方は太く長いひもで本体とつながっている。

 ドロシーは絵で見たように、その筒を取ってみようと手を伸ばした。しかし、いくら背伸びをしても、ドロシーには届かない。無理して触れようとするうち、その道具ががたがた揺れて、落ちそうになってしまってね。
 びっくりしてしまった三人は、追い払われるようにして、また外に出た。

 さて、おかみさんはどこにもいなかったわけだけど、調理台に戻ったノーラがいつもとは違うものを見つけてね。
『流しがつまって、水が流れないの』
 ノーラの訴えに、二人もそこを覗き込んでみると、確かに」

「わかりましたよ」
 突然、探偵の話をさえぎるように声がした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み