識者、不変を望む

文字数 528文字


閉ざされてる。
唯一、持ってる方位磁石は
自分の全霊が指し示す眼前には
そびえる壁。

どうやら、壁には“向こう“があるらしい。
壁の内側で、苦悩が満ちた世界で
その現実を受け入れて、生きる事が出来る人間。
適応した人間が“優れている“らしい。
薄い空気から酸素を取り込み
淀んだ環境で生活を送れる人が。

分からない。
息苦しいと、感じる事が、悪いのか。
壁の向こうの存在を、主張する事がタブーなのか。

壁。
誰もが、その本質を知らない。
知らないから、恐れる。
この壁は、自分たちを守っているのか
自分たちの可能性を、閉ざしているのか
ただ、存在しているだけなのか

触れない。
怖いから。

怖いから 知らないまま
知らないままだから 怖いまま。

疑問を思った一人が
触れてみた。

壁は、ハリボテであった。
ボロボロと崩れ、新鮮な空気が流れ込んできた。
大衆は“なんていうことをしたんだ“と、そいつを取り囲み
口々に非難した。
“オマエは頭がおかしい“

長く、長く、長く
時間が流れて
壁の瓦解は、我らの世界の拡張と、人生の改善をもたらしたと、思い至った。

人々は、ようやく
“何も知らない“ということが、それそのものが、“壁“であると気付いた。
最初に壁に触れた変人に、
感謝をする者も、謝罪をする者も
誰一人として、いなかった。
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