第21話 ベートーベンピアノソナタ幻想 とCatari Catari

文字数 981文字

古いアパートにこもる。BGMはベートーベンのソナタ。1番から流れる。

幻想……
よく知ってるね。13番だよ。

僕の知識も幻想。ひとつだけ勉強になった。アポリネール。喜びのあとには……

ミラボー橋? ミラボー橋、歌って。音楽室で聴いてた。

ふたりだけの世界。建て替えの決まったアパートから住人は消えていく。

隣も下もいなくなった。このアパートには僕たちだけ。大声出しても聞こえない。

あなたは歌う。音楽の時間に習った、

Catari Catari……

イタリア語でつれない心を情感込めて。

歌も上手なのね。


父はもっとうまいよ。聞き惚れる。


【作詞】CORDIFFERRO RICCARDO

【作曲】CARDILLO SALVATORE

カタリ カタリ
優しいあの言葉思い
胸痛まぬ時はなしカタリ
楽しきあの日
忘れじカタリ 忘れじカタリ
カタリ 君はわれを
早 忘れたまいしや
嘆けども君は知らじ
悲しみも知り給うまじ

 ああ つれなくも
 いとおしの瞳よ
 我を思い給わぬ

 ああ つれなくも
 いとおしの瞳よ
 我を思い給わぬ

高校の音楽の歌のテスト。この曲をイタリア語で歌った男子がいた。素敵だった。

私を抱きしめ歌う。今度は英語で。私は夢見心地。はっきり聞き取れるのは、

Don't give up.

ベートーベンのソナタ32番が終わる。4回目だ。アパートで過ごした40時間。

 

私は覚えてきた詩を暗唱した。

退屈な女より もっと哀れなのは 悲しい女です。
悲しい女より もっと哀れなのは 不幸な女です。
不幸な女より もっと哀れなのは 病気の女です。
病気の女より もっと哀れなのは 捨てられた女です。
捨てられた女より もっと哀れなのは よるべない女です。
よるべない女より もっと哀れなのは 追われた女です。
追われた女より もっと哀れなのは 死んだ女です。

あなたは衝撃を受けた。私を離すと携帯を取った。

バカな、そんなことって……

あなたは震えた。同時に携帯が震えた。

死んだ女よりもっと哀れなのは忘れられた女です。
マリー・ローランサンの鎮静剤を検索したらありました……

詩はマリー・ローランサン。訳は堀口大学なのです。

曲は伝説のフォークシンガー・高田渡さん。知りませんでした。

和幸(かずこう)とは、加藤和彦ザ・フォーク・クルセイダーズサディスティック・ミカ・バンド)と坂崎幸之助THE ALFEE)の2人によるユニットである。
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登場人物紹介

作者

英幸《えいこう》

亜紀 英幸の義母

英輔 英幸の父

美登利

瑤子 亜紀の従妹

幸子 英幸のママ 英輔の前妻

香《こう》

三島 英輔の会社の部下

圭 英幸の友人

葉月

夏生

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