第19話 絶対的な母親としての感情

文字数 1,182文字

優和は慎重だった。
今起こった出来事について、改めて考えてみる必要があると思っていた。




正人は案外あっさりと優和と会うことに承諾してくれた。
というより、むしろ正人から優和と会うことを求めていたぐらいの勢いだった。
さっきまでの正人とはまるで別人物だ。







正人は父親に向いていない。
少なくとも、勇の父親には向いていない。
優和にとって、正人とこれ以上一緒にいられない理由は、それが全てだった。





正人は度々落ち込み、一人で考え込んでしまうことがあった。
時には一人になりたいとでも言うように、静かに自室に籠るのだった。
優和にとってその行動は父親として許せる行動ではなかった。
優和自身が母親として余裕がなかったのかもしれない。
でもそれくらい優和は親としての行動には徹底して気を張っていた。



たしかにその程度というくらいのことだったのかもしれない。
でも無理だった。
それは正人に限ったことではないかもしれない。
でも優和は優和と同じように親としてあるべき行動をとってくれる人でないと無理だった。
それは実の父親だとしても難しかったのかもしれない。
でも優和は自分のことであれば妥協できたことでも、子どものことでは一切妥協できなかった。




正人には闇があった。
それは優和も同じだった。
だからこそ、その闇に負けてしまうかもしれない可能性が怖かった。
それは優和自身も理解できるからこそ、余計に心配してしまうことだった。
もし2人の闇が共鳴してしまったら、落ちるだけ落ちてしまいそうだった。
優和は神経質すぎるほど慎重になっていた。
それくらい優和にとって、勇が大事だった。




勇にはその闇とできる限り関わってほしくなかった。
正人と一緒にいることで勇にまで闇が及んでしまうのではないか。
優和自身は母親だからその点は十分気を付けていた。
でもそれができるのは母親だからだ。
優和は、それが並大抵の努力でできることではないということが分かっていた。
それは母親だからできることだと思った。
本当の母親だから、だ。




その闇があるこその正人の確かなやさしさが正人らしさともいえた。
その優しさが愛おしかった。
でも優和にとってもっと大事だったのは正人の優しさより、勇の父親だった。





その時、スマホが鳴った。
電話番号からのメールだった。
件名に「明美」と表示されていた。




明美「久しぶりです。正人から連絡先を聞きました。私のこと、覚えていますか?」




優和はすぐに連絡を返さなかった。
相変わらず、この人は調子がいい。
明美にとっては高校の時の出来事はすべて過ぎたことなのだ。
腹が立った。



優和は思った。
明美は正人のことをどう思っているんだろう。
優和は明美に連絡を返した。
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