捨テラレタ海

文字数 309文字

手のひらを眺めながら
その刻まれていく一つ一つのしわに
  帰ろう
古ぼけた写真の見つめる先が
どうか希望でありますように

思い返せば
たまたまと呼ぶにはあまりにも
  偶然で
縁もゆかりもないこの土地が
誰かの生まれ故郷になるなんて

ぼくの嘘ばかりだった人生を
うまい具合に肯定してくれた
  嘘のような青空
春の音を知ったのは
故郷の海を捨てた瞬間だった

帰ろう
きみの町へ
  海のない町
カッコウの鳴く
ぼくたちの古い町

空間は無限ではない
空間は有限だ
  時間も
思い出も
ポケットの中のコインも

――宇宙も
  生きているという実感も
  それは無限すらも

捨てるんじゃない
笑顔でお送りするんだ
  捨テラレタ海
ぼくはノートに書き出す
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