第25話 おしゃべり自由労
文字数 3,142文字
‟『ビトーとケッタのチャナスカ、毒虫ナイト!』”
自由労放送<チャットフリー・スカラボウル>の夜の人気番組「チャットナイトinスカラボウル」通称「チャナスカ」の時間だった。時事の話題をネタにする人気のラジオ放送で、捕虫圏居住民から、非捕虫圏までスカラボウルの若者には必聴の放送だった。
<チャットフリー・スカラボウル>は、かつて口述の労役化、口述労の制定を企画し、「おしゃべりを労務に!」のスローガンを掲げ、口述の自由を訴え、反適合 宣伝を作ったかどで、開拓連合から権利労身分を解雇剥奪されたトランスネット系元情報労、宣伝要員のビトー・ゴマドフと、やはり解雇剥奪されたトランスヴィジョン系の元情報技術労、ケッタ・シミドフからなる、自由労ラジオ波放送局だ。
運営する<チャッターボックス>社は、トランスヴィジョンに頼らないラジオ波受信機の製造、販売及び放送権を連合から許可された自由労企業である。
ウメコが愛聴している比較的穏健な<ラジオフリー・アンダーネッツ>とは違い過激な放送で、しばしば当局からの検閲で停止することも少なくなかった。そういうアクシデントも<チャットフリー・スカラボウル>の人気の一つだった。
今夜はその二人の番組担当日だった。――しまった――ウメコはつけなきゃよかったと後悔するけれど、もう遅かった。いつもなにをしゃべるのか、怖いもの聴きたさが勝ってしまい、ついつい引きずりこまれてしまうのだ。過激なおしゃべりによる刺激の誘惑に抗えない。しかも、冒頭の話題はまさに自分のことだったから。
‟ケッタ(以下ケ)「・・・ここだけの話ですけどねビトーさん、今日8区で小競り合いがあったの」
ビトー(以下ビ)「報言してるね」
ケ「捕虫要員の女が原因らしいですよ」
ビ「レモネッツにいた奴だろ?浜納豆って。襲われたんじゃないの?」
ケ「逆にやっつけちゃったらしいです。なんのための保安労って話ですよ。治安労よりはマシだと思ってましたけど」
ビ「保安労ってあれ、虫の保安だからね、捕虫圏居住民守ってるわけじゃありませんよ」
ケ「ずっと言ってますね、ビトーさんそれ」
ビ「今回の件もね、それでもめてんだよ。内輪もめだよこんなの。わざとアンチネッツ誘導して引き入れてさ、生意気な捕虫労襲わせたんだと思うね。じゃなきゃどうやって入ってくんだよ圏内に。このシステムに侵入するのって大変だよ」
ケ「ですね私も技術やってたからわかりますけど、まあ、そこはどうでしょう。頭よくても悪いことするやつはいますから」
ビ「利権争いやってんだよ」
ケ「治安と保安は昔から仲悪いって言われてますけど」
ビ「でもホントに悪いのは捕虫労ですけどね。みんな気づいてないだろ」
ケ「そんなに接点ないですからね、保安とか治安からの嫌がらせはありますけど。エンストとかで勝手に高い虫捕りなんかしちゃうとね、ウルサイですけど」
ビ「偉そうだろ、あいつらよ。虫の独占してるからね、捕虫労組 が。高い虫みんな捕っちゃうんだから。治安労も保安労も高い虫なきゃ、たいしたことないからね。結局一番力持ってんだよ、捕虫労が。最近、治安とズブズブらしいから。その辺のイザコザだね」
ケ「なるほどね・・ビトーさんの見解はね」
ビ「知り合いに土建労いますけどね、この前言ってました。大変らしいですよ、燃料、現場調達だってさ、虫回してくれないらしいからね」
ケ「だって開拓の最前線でしょ。一番エネルギー消費するんじゃない?」
ビ「現場で自分達で虫捕りしてるんだって、それでみんな逃げちゃうんだって圏外に。やってられないって」
ケ「アンチになっちゃうの多いってね、土建が」
ビ「何度も言うけどね、あんなものただの巨大な油虫 だぞ。破裂するから危ないってウソ言って捕らせないようにしてるんだから。利権守りたいから。虫を独占にしたいんだよ。大体おかしいだろ、虫が爆発するなんて、するはずないんだから」
ケ「いや、ありますよ。みんな経験あるでしょ」
ビ「だから、あれはケツに火薬つめ込んで飛ばしてんの。<イデムシ>あたりの仕込みに決まってるよ。そのための仕込み要員がいっぱいいて工場でせっせと虫に火薬つめてんだから。人工的に作ってんだよ、あんなもん。逆に言えばだよ、こんだけ虫だらけで火傷した経験なんて、そんなにないだろ?こんだけ虫いんなら触れただけで破裂するの、もっと多くても不思議ないよ、そうだろ?」
ケ「それこそレモネッツの大爆発あったじゃないですか」
ビ「だから、あんなの自作自演だっての。あれで被害受けたのオレ達だぜ」
ケ「われわれの本社は8区にありますから。あのとき大変でしたね」
ビ「前から言ってるけどよ、あんなのオレ達狙った連合の自作自演に決まってるって、いい加減気づいたほうがいいですよ」
ケ「でも実際バグモタ動いてますけどね、虫で」
ビ「だからバカだな、虫の破裂で動いてるとか、あるわけないだろ!あんなのオマエ、中で虫が回してんだぞ。古代の格闘場の地下で働かされてる奴隷みたいに中でグルグル回してるんだから、虫が。女王虫にムチで打たれながら、『あ、もっと』だって」
ケ「だから、そっちの方がありえないって!」
ビ「だいたい虫で機械が動くわけないんだから、いい加減、真に受けてちゃいけませんよ。ワタシは昆虫愛護家ですから、虫を動力源に使うなんて、まして燃やすなんてとんでもない!断固反対です!」
ケ「ビトーさん、蟲煙草のコマーシャルやってますけど、大丈夫ですか?」
ビ「あれは美味いですよ、みなさん。あれさえあれば脱法草なんて必要ないですから。『ヤミツキになる美味さ!』」
ケ「もう、いい加減にしてください。えー、ボクらはあくまで公認自由労ということで、非捕虫圏居住民 の非合法活動アンチ活動には、断固としてNOを突き付けております。えーたまにですね、捕虫にアンチを表明するアウトネッツの活動なんかに接すると、たまにね、ちょっと肩入れって言うか、共感してしまうようなこともありますけれど、そこは人間ですから、多少ミミを塞いでいただいて、えー何度も言いますけれど、我々はあくまで連合の規定するところに則っての配信を続けていきますので。そこだけはハッキリ言っておきます」
ビ「だからこういう浜納豆みたいな、れっきとした開拓労民のくせに『お前が破裂する虫だろ!』みたいな人は好きですな~全力で応援したくなりますな。破裂する捕虫要員として、ぜひ連合の本部にでも突っ込んでいただいて、弾虫 全力突入!・・・どうも失礼しました」
♪チャ、チャ、チャ、チャッナイィン、スカラボー♪
『ヤミツキになる美味さ!一服で安心、二服で夢心地、三服で天国へ! スモーキンフリー、自由煙連社の蟲煙草 <黄金蟲 >!プカプカフーフーこれで虫霧なんか吹き飛ばせ!お買い求めは、各公認配給店へ。ワタシはこれで連合やめました』
『ヒメサマガエル、ガマガエル、カエルにゃいろいろあるけれど、<ケロッククラック>のカエルシード<フログレッシヴ>は、最新B3型のバグモタエンジン搭載の人型搭乗ケロックいやクラックウォーカーだ!シード級 の常識がここに、くつガエル!』 ”
「チックショー・・・自由労のクッソノンコどもめ・・・」ウメコはイライラとベッドの上で転々とした。
まったくこういう非開拓労民である連中は、捕虫圏居住民とはいいながらも本質は、捕虫圏内の合法アンチネッツなのだ。公認されているぶん、たちが悪い。虫のくだりはあまりにバカげていて思わず笑ってしまったけれど、だから余計に腹立った。ウメコは疲れもあって、そろそろ眠気に襲われてきたけれど、今度は自分への悪口を聞き洩らしてたまるかと、眠気にあらがい、もう少し我慢して聴いてみることにする。
自由労放送<チャットフリー・スカラボウル>の夜の人気番組「チャットナイトinスカラボウル」通称「チャナスカ」の時間だった。時事の話題をネタにする人気のラジオ放送で、捕虫圏居住民から、非捕虫圏までスカラボウルの若者には必聴の放送だった。
<チャットフリー・スカラボウル>は、かつて口述の労役化、口述労の制定を企画し、「おしゃべりを労務に!」のスローガンを掲げ、口述の自由を訴え、
運営する<チャッターボックス>社は、トランスヴィジョンに頼らないラジオ波受信機の製造、販売及び放送権を連合から許可された自由労企業である。
ウメコが愛聴している比較的穏健な<ラジオフリー・アンダーネッツ>とは違い過激な放送で、しばしば当局からの検閲で停止することも少なくなかった。そういうアクシデントも<チャットフリー・スカラボウル>の人気の一つだった。
今夜はその二人の番組担当日だった。――しまった――ウメコはつけなきゃよかったと後悔するけれど、もう遅かった。いつもなにをしゃべるのか、怖いもの聴きたさが勝ってしまい、ついつい引きずりこまれてしまうのだ。過激なおしゃべりによる刺激の誘惑に抗えない。しかも、冒頭の話題はまさに自分のことだったから。
‟ケッタ(以下ケ)「・・・ここだけの話ですけどねビトーさん、今日8区で小競り合いがあったの」
ビトー(以下ビ)「報言してるね」
ケ「捕虫要員の女が原因らしいですよ」
ビ「レモネッツにいた奴だろ?浜納豆って。襲われたんじゃないの?」
ケ「逆にやっつけちゃったらしいです。なんのための保安労って話ですよ。治安労よりはマシだと思ってましたけど」
ビ「保安労ってあれ、虫の保安だからね、捕虫圏居住民守ってるわけじゃありませんよ」
ケ「ずっと言ってますね、ビトーさんそれ」
ビ「今回の件もね、それでもめてんだよ。内輪もめだよこんなの。わざとアンチネッツ誘導して引き入れてさ、生意気な捕虫労襲わせたんだと思うね。じゃなきゃどうやって入ってくんだよ圏内に。このシステムに侵入するのって大変だよ」
ケ「ですね私も技術やってたからわかりますけど、まあ、そこはどうでしょう。頭よくても悪いことするやつはいますから」
ビ「利権争いやってんだよ」
ケ「治安と保安は昔から仲悪いって言われてますけど」
ビ「でもホントに悪いのは捕虫労ですけどね。みんな気づいてないだろ」
ケ「そんなに接点ないですからね、保安とか治安からの嫌がらせはありますけど。エンストとかで勝手に高い虫捕りなんかしちゃうとね、ウルサイですけど」
ビ「偉そうだろ、あいつらよ。虫の独占してるからね、捕虫
ケ「なるほどね・・ビトーさんの見解はね」
ビ「知り合いに土建労いますけどね、この前言ってました。大変らしいですよ、燃料、現場調達だってさ、虫回してくれないらしいからね」
ケ「だって開拓の最前線でしょ。一番エネルギー消費するんじゃない?」
ビ「現場で自分達で虫捕りしてるんだって、それでみんな逃げちゃうんだって圏外に。やってられないって」
ケ「アンチになっちゃうの多いってね、土建が」
ビ「何度も言うけどね、あんなものただの巨大な
ケ「いや、ありますよ。みんな経験あるでしょ」
ビ「だから、あれはケツに火薬つめ込んで飛ばしてんの。<イデムシ>あたりの仕込みに決まってるよ。そのための仕込み要員がいっぱいいて工場でせっせと虫に火薬つめてんだから。人工的に作ってんだよ、あんなもん。逆に言えばだよ、こんだけ虫だらけで火傷した経験なんて、そんなにないだろ?こんだけ虫いんなら触れただけで破裂するの、もっと多くても不思議ないよ、そうだろ?」
ケ「それこそレモネッツの大爆発あったじゃないですか」
ビ「だから、あんなの自作自演だっての。あれで被害受けたのオレ達だぜ」
ケ「われわれの本社は8区にありますから。あのとき大変でしたね」
ビ「前から言ってるけどよ、あんなのオレ達狙った連合の自作自演に決まってるって、いい加減気づいたほうがいいですよ」
ケ「でも実際バグモタ動いてますけどね、虫で」
ビ「だからバカだな、虫の破裂で動いてるとか、あるわけないだろ!あんなのオマエ、中で虫が回してんだぞ。古代の格闘場の地下で働かされてる奴隷みたいに中でグルグル回してるんだから、虫が。女王虫にムチで打たれながら、『あ、もっと』だって」
ケ「だから、そっちの方がありえないって!」
ビ「だいたい虫で機械が動くわけないんだから、いい加減、真に受けてちゃいけませんよ。ワタシは昆虫愛護家ですから、虫を動力源に使うなんて、まして燃やすなんてとんでもない!断固反対です!」
ケ「ビトーさん、蟲煙草のコマーシャルやってますけど、大丈夫ですか?」
ビ「あれは美味いですよ、みなさん。あれさえあれば脱法草なんて必要ないですから。『ヤミツキになる美味さ!』」
ケ「もう、いい加減にしてください。えー、ボクらはあくまで公認自由労ということで、
ビ「だからこういう浜納豆みたいな、れっきとした開拓労民のくせに『お前が破裂する虫だろ!』みたいな人は好きですな~全力で応援したくなりますな。破裂する捕虫要員として、ぜひ連合の本部にでも突っ込んでいただいて、
♪チャ、チャ、チャ、チャッナイィン、スカラボー♪
『ヤミツキになる美味さ!一服で安心、二服で夢心地、三服で天国へ! スモーキンフリー、自由煙連社の蟲煙草 <
『ヒメサマガエル、ガマガエル、カエルにゃいろいろあるけれど、<ケロッククラック>のカエルシード<フログレッシヴ>は、最新B3型のバグモタエンジン搭載の人型搭乗ケロックいやクラックウォーカーだ!シード
「チックショー・・・自由労のクッソノンコどもめ・・・」ウメコはイライラとベッドの上で転々とした。
まったくこういう非開拓労民である連中は、捕虫圏居住民とはいいながらも本質は、捕虫圏内の合法アンチネッツなのだ。公認されているぶん、たちが悪い。虫のくだりはあまりにバカげていて思わず笑ってしまったけれど、だから余計に腹立った。ウメコは疲れもあって、そろそろ眠気に襲われてきたけれど、今度は自分への悪口を聞き洩らしてたまるかと、眠気にあらがい、もう少し我慢して聴いてみることにする。