第1話(1)

エピソード文字数 2,632文字

「アンタっ、なんてことしてくれたんだ!! ちょっとこっち来い!!

 衝撃の発表の直後。俺はリリウの服を引っ張り、魔王様に「すみません少々お待ちください!」と断りを入れて廊下に飛び出す。

「わわっ、痛いっスよっ! なんなんスか!?
「誰もそんなお願いはしていない! 俺は、魔法使いにしてくれと頼んだんだ!!

 両肩を掴み、ガクガク揺さぶる。そりゃもうガクガク揺さぶる。

「こっちが使いたいのは、魔法っ! 魔王じゃないんだよ!!
「あちゃ~、聞き間違えたっス。『お』ではなく、『ほ』だったんスねぇ」
「そう! ま・ほ・う・使いになりたかったの!」

 一字違うだけだけど、中身は大きく違う。扱うモノが物騒極まりないぞ。

「どうしてキミが、この世界にはないジョブを知ってるのか疑問だったんスよね~。合点がいったっス」
「呑気に得心するな! 神力使って超特急で契約解除して陳謝して、帰ってもらって俺を魔法使いにしてくれ!」
「スンマセン、それは不可能っス。今ので奇跡は三回目で、百年の間に四回使うと世界がリセットされちゃうんスよね」

 本日2度目の御登場。また出たよ、リセットが。

「じゃあどうするのさ! あの人メッチャ怖そうだぞっ!」

 目付き、魔王然としていて鋭い。オーラ、魔王然としていてヤバい。
 反感買ったら、この星ごと無に還されそうだ。

「けどあそこにいる魔王さんは、ワタシの契約に同意してくれたんスよ? まあ一番近くにいた魔王にお願いしたんで素性は一切知らないんスけど、オッケーしてくれたんだから人畜無害な方なんじゃないスっかね~」
「契約同意は、俺を利用して人間界を支配するためじゃないのか!? てかつーかというか貴様っ、素性を一切知らないヤツに頼んでたのかよ!!

 両肩を掴み、ガクガク揺さぶる。そりゃあもうガクガク揺さぶった時より、激しく乱暴に揺さぶる。

「アンタアホかっ! いい加減な仕事をするんじゃねーよ!!
「なんか今晩は、ある程度大雑把に選んだ方がいい気がしたんスよ~。ワタシの勘はよく当たるんで、きっと平気っス!」
「ふざけるなっ!! そんなんで安心できるかよ!!

 根拠は、第六感。全身全霊を注いで張り倒してやりたい。

「大体人畜無害なら、あんな雰囲気醸し出してる!? 出してない! 出してないから何とかしろ!! 逆らうと何かされそうだから、一方的に解決できるやり方でどうにかしなさいっ!!
「大丈夫と自負してるんスけど、しょうがないっスねぇ。何とかするっスよ」
「……よかった。そういう方法があるんだね」

 正直言うと、神力以外でやれるのか不安だった。でもそれは杞憂だったようです。

「本来契約は、もう一回同意しないと破棄できないんスけどね。色紙さんは裏ワザを使えるんスよ」
「ほほぅ。どうやるの?」
「魔王使いは文字通り、契約した魔王を使える――その魔王に命令をできるんス。一応無茶苦茶なコトは命じられないという規則はあるんスけど、契約解除をする程度なら可能なはずっスよ」
「なるほどね。その手があったか」

 魔王と一緒にいるのが嫌なら、『契約解除して帰って』で戻せばいい。簡単なことだ。

「契約した魔王は契約者と同じ世界に居ないといけないので、契約を解除する前に帰ってと命じても帰還できないっス。逆にしちゃって、『契約が解除できたのに、魔王帰らにゃいよ~』って号泣しないでくださいっスよ?」
「するはずねーでしょ。俺がそんな風になると思いますか?」
「思わないっス~。小粋なギャグっスよ~」

 ニシシと笑って、軽くステップを踏む。だから僕は、もう一度脳天にチョップをした。

「いたた…………とにかくこうやっとけば、また普通の人間になれるっスよ。いつか再契約をしたくなった場合は、その時は奇跡なしで出来るので――」
「ならないからね。絶対に有り得ない」

 断言します。契約を再希望することはありません。

「ぇ~っス。言語文化が酷似してる世界の魔王だから、きっと会話が弾むっスよ~?」
「魔王との会話なんて、弾まんでいい。ホント怖いんだよ」

 例えるなら、意識のある殺戮兵器との同居だ。不安で夜も眠れないぞ。

「そんなコト言って、あとでしたくなるモンっスよ~。人間は特に、心変わりをしちゃう生き物っスからね」
「いやいやいや、人間でも心変わりしない時は多々ある。これだってしないっての」

 ウソ吐いたら針千本飲む、と誓ってもいい。それは絶対にありません。

「でもでも色紙さんは、結構心変わりする人じゃないっスか~。高知県から引っ越してきたのに高知グッズがどっさりあるから、時々はまた高知県で暮らしたいと思ってるんスよね~?」
「バカ者、俺は高知を捨てたんじゃない。親の仕事の都合でこっちに来ただけだ」

 なので当然、愛する気持ちはある。
 昔は多くの野球チームがキャンプをしていたほど、温暖な気候。普段は気前よく振る舞い困った時は親身になってくれる、あったかい人々。カツオやユズを初めとした豊かな山の幸海の幸などがある、日本の南国・高知県が大好きでございまするよ。

「あ、そうなんスか。心変わりじゃないんスかぁ」
「そっ。だから――」
「でも100%ないとは言い切れませんっスよねっ? なので消える時間を早めて、一回だけ『カモンマイゴッド!』でワタシを安全に呼べるようにしときますっスよ!」

 リリウは俺の眉間を指でトンと押し、「その時は再び契約のお手伝いをするっス」とウィンクする。
 はぁー。コイツ、ちっとも人の話を聞きませんね。

「さて、ぼちぼち時間っス。神界に舞い戻るっスよ」
「タンマっ。不安だから、魔王がいなくなるまでいて!」
「ノンノン、ダイジョーブっス。命令があれば、万事上手くい」

 ここで、神様消失。速攻呼び出してやろうと思ったが、マイゴッドを口にしたくないので止めときました。

「………………まー、あれだよね。アイツが言ったように命じられるんだから、木っ端微塵にされたりはしないんだ。気軽にいこう」

 そう、俺は命じられるのだから大丈夫。木っ端微塵にされたりはしないのだから、気軽にいこう。大丈夫。大丈夫。大丈夫。なにも怖くはない。
 ぼくは何度も己に言い聞かせ、やっぱり不安だけどいざ出発。魔の王が待つ、リビングへと向かったのだった。
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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