第１話

最初に言っておきますが、ペンギンが念力を持っているなんて話、普通は信じませんよね。でも、それがこの話の発端です。


オフィスビルの屋上に、ペンギンが一羽、ひょっこりと現れた日からすべてが変わりました。都心の真ん中でペンギンと言えば、普通は動物園の話になるはずですが、このペンギンは異なりました。なんと、念力を持っていたのです。どうやら遠く南極から飛んできた彼は、残業でくたびれ切ったサラリーマン、杉山にだけ姿を現しました。


「また残業か…」とため息をつく杉山の前に現れたペンギンは、彼の思念を感じ取ると、机の上の書類をひっくり返し始めました。ペンギンは彼の念じるがままに、書類の整理やデータの入力をこなしていくのです。それはまるで、念力で操作された雑技のように滑らかで、杉山はただ呆然とそれを見守るしかありませんでした。


日が暮れる頃、ペンギンは杉山に一つの予言を残します。「明日、大切なことが起こるから、その準備をしなさい。」と。疲れ切った杉山には何の意味もわかりませんが、ペンギンの言葉を信じて、早めに帰宅することにしました。

次の日、会社には予期せぬ客人が訪れます。南極からの科学者たちで、彼らはペンギンを探していたのです。そのペンギンが、なぜか念力を持って逃げ出したと言うのです。科学者たちによれば、このペンギンは特殊な実験によって念力を得たらしく、その力を悪用することなく、人々を助けるために使用していたとか。


「ペンギンが仕事を手伝ってくれたおかげで、私はもう過労で倒れる心配はなくなりました。」杉山は科学者たちにそう伝え、彼らと共にペンギンを南極へ帰す手配をしました。送り出す日、ペンギンは杉山に向かって一瞥し、何かを言いたげに頷きました。それが最後の別れとなりました。

ペンギンが去った後も、杉山はペンギンに教えられたように、効率的に仕事をこなすようになり、残業はほとんどなくなりました。念力なんてものが本当に存在するのかどうかは、誰にもわかりません。しかし、杉山にとっては、あのペンギンがもたらした変化が何よりの真実でした。

ペンギンが持っていたのは、単なる念力以上のもの――それは、疲れた人々に希望と助けをもたらす力だったのです。