「実話怪談」雪上登校
文字数 1,643文字
佐藤さんが小学3年の時の話だ。
佐藤さんが育った山形では、大雪の年に雪上登校が行われる。
雪上登校とは、スキーで雪上を進み学校まで登校する事だ。
雪で狭くなった道路を歩かずにすむので、安全でもあるし、雪深い田舎ではこのほうが早い。
子ども等は雪がつもり始めると、いつもこの雪上登校を待ち望んだという。
その年の冬、佐藤さんはこの雪上登校の途中で面白い場所を見つけた。
山あいに近い場所。ここでは不思議な現象が起きる。
スキー板を山側に向けると、不思議なことに上へ上へと登るように、滑るのだ。
実際は錯視によるものだろうが、これが楽しい。
その日も下校途中にその場所に寄った。友達の英樹も一緒だった。
「ほっといたら、どごまで、上がって行くんだべ?」英樹が言った。
確かに試したことは無い。
「どごまで滑るか勝負な!」佐藤さんは言った。
「ストック無しでやるべ!」
二人ともストックをその場に突き刺し、手を離した。
ズル…ズズズ…確かに山に向かって滑ってゆく。
「おお!ストック無ぇほうが、スベル!」
二人とも軽くなった両手を振って喜んだ。
そのとたん。いきなりスピードが“グン”と上がった。
「うわ!」驚いた英樹が倒れた。
佐藤さんも倒れようとしたが、出来なかった。
足首も膝も固まって動かない。頼みのストックも置いてきている。
「やんだ!助けでけろ!」佐藤さんが叫んだ時だ。
左横から、誰かが猛烈な勢いでやって来た。
六年生の篤くんだった。
篤くんは大会に出るぐらい、スキーが得意な子だ。低学年の佐藤さんの憧れでもある。
篤くんは、匠にスキーを操り、一気に近づくと、そのまま佐藤さんに飛びついた。
ドス!雪に落ち込むように、二人で倒れる。
「でぇじょぶが?(大丈夫か?)」
篤くんが言った。
「う…うん」雪で顔を真っ白にしながら、佐藤さんが答える。
「いいが、まだ立つなよ。俺が先に立つがらな…」
そう言うと、篤くんがゆっくり立ち上がった。
山に背を向けている。
「俺みでぇに、山、背にして立ってみろ」
言われるがまま、山に背を向けて立ち上がった。
先に倒れた英樹が、心配そうにこっちを見ている。
「よし、そのまま進め。前だけ見て、絶対振り向ぐなよ」
怖かった。こんなに真剣な表情の篤くんを見たのは初めてだ。
英樹と一緒に、近くの道路へと降ろされた。
やっとそこで、篤くんが大きくため息をついた。
「危ねぇがったな…お前ら。
ここでスキーしちゃダメだって知らねぇの?」
「うん」
「そうか…過疎化で上級生も、減ったからな…」
「どうゆうごど?」
「俺が小さいの時は、上級生が教えてくれだもんだ。
ココだけは我慢して、道路におりて、歩げってな…」
「なんで?」
「お前ら、山に引っ張られだべ?」
「うん…でもそっちが坂だからだべ?」
「山と谷で、山が下なわげねぇべ!」
「………」
「あのな…帰り道、上から、お前らの笑い声聞こえでよ。
まさかと思って、雪壁登って見たんだ。
そしたら子ども三人で遊んでんの見えだんだ」
「三人でねぇ。オレと英樹くんの二人だけだ!」
「んだべ。でもオレには、三人見えだんだ。
山側に…もう一人いだっけ」
「………」
「お前ら、喜んで手振るがら、そいつも喜んで手振ってだぞ」
「き…近所の子だべ?」佐藤さんは、怖くなってそう言った。
篤くんが真顔で答えた。
「真冬に、半袖と半ズボンでが?
もげた左手ぇ...右手さ持って、ストックみだいに振り回してがぁ?」
佐藤さんは、それ以来、そこでスキーをする事は無かった。
大人になって解った事だが、山側にはその昔、火葬場があったという。
ただ、手を振る少年と関係あるかどうかは解らない。
佐藤さんは成人後、上京し働いているが、今も「雪上登校」はあると聞く。
山形は今年も大雪だそうだ。
そして心配な事に、過疎化は益々進んでいる。
佐藤さんが育った山形では、大雪の年に雪上登校が行われる。
雪上登校とは、スキーで雪上を進み学校まで登校する事だ。
雪で狭くなった道路を歩かずにすむので、安全でもあるし、雪深い田舎ではこのほうが早い。
子ども等は雪がつもり始めると、いつもこの雪上登校を待ち望んだという。
その年の冬、佐藤さんはこの雪上登校の途中で面白い場所を見つけた。
山あいに近い場所。ここでは不思議な現象が起きる。
スキー板を山側に向けると、不思議なことに上へ上へと登るように、滑るのだ。
実際は錯視によるものだろうが、これが楽しい。
その日も下校途中にその場所に寄った。友達の英樹も一緒だった。
「ほっといたら、どごまで、上がって行くんだべ?」英樹が言った。
確かに試したことは無い。
「どごまで滑るか勝負な!」佐藤さんは言った。
「ストック無しでやるべ!」
二人ともストックをその場に突き刺し、手を離した。
ズル…ズズズ…確かに山に向かって滑ってゆく。
「おお!ストック無ぇほうが、スベル!」
二人とも軽くなった両手を振って喜んだ。
そのとたん。いきなりスピードが“グン”と上がった。
「うわ!」驚いた英樹が倒れた。
佐藤さんも倒れようとしたが、出来なかった。
足首も膝も固まって動かない。頼みのストックも置いてきている。
「やんだ!助けでけろ!」佐藤さんが叫んだ時だ。
左横から、誰かが猛烈な勢いでやって来た。
六年生の篤くんだった。
篤くんは大会に出るぐらい、スキーが得意な子だ。低学年の佐藤さんの憧れでもある。
篤くんは、匠にスキーを操り、一気に近づくと、そのまま佐藤さんに飛びついた。
ドス!雪に落ち込むように、二人で倒れる。
「でぇじょぶが?(大丈夫か?)」
篤くんが言った。
「う…うん」雪で顔を真っ白にしながら、佐藤さんが答える。
「いいが、まだ立つなよ。俺が先に立つがらな…」
そう言うと、篤くんがゆっくり立ち上がった。
山に背を向けている。
「俺みでぇに、山、背にして立ってみろ」
言われるがまま、山に背を向けて立ち上がった。
先に倒れた英樹が、心配そうにこっちを見ている。
「よし、そのまま進め。前だけ見て、絶対振り向ぐなよ」
怖かった。こんなに真剣な表情の篤くんを見たのは初めてだ。
英樹と一緒に、近くの道路へと降ろされた。
やっとそこで、篤くんが大きくため息をついた。
「危ねぇがったな…お前ら。
ここでスキーしちゃダメだって知らねぇの?」
「うん」
「そうか…過疎化で上級生も、減ったからな…」
「どうゆうごど?」
「俺が小さいの時は、上級生が教えてくれだもんだ。
ココだけは我慢して、道路におりて、歩げってな…」
「なんで?」
「お前ら、山に引っ張られだべ?」
「うん…でもそっちが坂だからだべ?」
「山と谷で、山が下なわげねぇべ!」
「………」
「あのな…帰り道、上から、お前らの笑い声聞こえでよ。
まさかと思って、雪壁登って見たんだ。
そしたら子ども三人で遊んでんの見えだんだ」
「三人でねぇ。オレと英樹くんの二人だけだ!」
「んだべ。でもオレには、三人見えだんだ。
山側に…もう一人いだっけ」
「………」
「お前ら、喜んで手振るがら、そいつも喜んで手振ってだぞ」
「き…近所の子だべ?」佐藤さんは、怖くなってそう言った。
篤くんが真顔で答えた。
「真冬に、半袖と半ズボンでが?
もげた左手ぇ...右手さ持って、ストックみだいに振り回してがぁ?」
佐藤さんは、それ以来、そこでスキーをする事は無かった。
大人になって解った事だが、山側にはその昔、火葬場があったという。
ただ、手を振る少年と関係あるかどうかは解らない。
佐藤さんは成人後、上京し働いているが、今も「雪上登校」はあると聞く。
山形は今年も大雪だそうだ。
そして心配な事に、過疎化は益々進んでいる。