プロローグ

「あーあ。どうして、こんなことしなきゃならないんだろう…」
　青年は、棚に詰め込まれている紙の束を見て、ため息をついた。
　ここはとある修道院の資料保管室。過去にこの地域の教会で開かれた裁判の法廷記録がまとめて保管されている。
　修道士である彼は、院長からこの場所を整理しておくように命じられたのだ。
　しかし、そのあまりにも膨大な数は、彼の意欲を削ぐには十分だった。
「こんなの絶対終わらないよ…。」
　それでもしぶしぶ片付けを始めようとしたとき、彼はひとつの法廷記録に目をとめた。
「ん…？なんだろう、これ。」
　明らかにこの記録だけ、他のものよりも丁寧に保存されている。
　気になった彼は、それを棚から引っ張り出し、表紙を確認することにした。
　表紙にはこう記されていた。
　――『許可無キ者ガ読ム事ヲ禁ズ。』
「………………。」
「…別にちょっとくらい読んでも、バレないよね…。」
　青年は表紙をめくり、記録を読み始めた。